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Voice of Japan 07
もはや「機能性」ではなく 「キャラクター性」が家電ブランドには必要。求められる4つのキャラとは?

3行でまとめると:

  • 楽しいと感じるのは少数派!家事は、「孤独」「誰も褒めてくれない」「繰り返しの作業が続き終わりのない」存在。
  • 欧米の家電ブランドの人気の秘密は、家事の際に「気分をアゲてくれる!」こと。
  • 日本発祥の伝統家電ブランドの今後の活路は、商品の「4つのキャラ設定」が鍵を握る。

イントロダクション

新型コロナウィルスの流行で家にいる時間や家事をする時間が増えたことで、家事について改めて考えるきっかけになったという方も多いのではないでしょうか。日本発祥の伝統家電ブランドのお家芸であった国内の市場では、近年、欧米の家電ブランドの存在感が増しており、コロナ禍でプレミアム家電の人気が高まる影響もあってその傾向は顕著になっています。消費者が家電を購入する際に口コミをよく利用する「価格.com」の「掃除機 人気売れ筋ランキング*」では、Top20のうち8製品が欧米の家電ブランドとなっており、日本発祥の伝統家電ブランドと人気が拮抗しています。

筆者自身家事が大の苦手と感じている身として、欧米の家電ブランドはデザインがお洒落でカッコよく、購入して部屋に置くだけで気分が楽しくなる家電が多いように思います。

そこで今回、「楽しさ」という点に着目して、人々の家事に対するニーズの探索と日本の国内市場に展開している様々な家電ブランドの違いを比較することで、日本発祥の伝統家電ブランドが人々に支持されるためのヒントを探ります。

インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する暮らしの状況に合わせて人々の内面はどのように変化しているのか、理解を深めています。

家事の楽しさは、たったの52点

RIPPLEコミュニティ参加者に、「家事を楽しいと感じているか」を100点満点でスコア化して貰った結果、平均点は52点という堂々たる赤点スコアになりました。「家事が楽しくて仕方がない!」とポジティブな回答をした層は80点以上の高スコアになりました。しかし「楽しい家事と嫌いな家事が混在する」40~79点の中スコア層と、「家事全般が大嫌い!」と心の底から叫ぶ39点以下の低スコア層を合わせると全体の83%にものぼり、この二つの層には「家事の楽しさ」を新たに作り出せる可能性があるといえます。(結果詳細は図1)。

図1「家事の楽しさに課題がある人が全体の約8割」

なにが家事を「楽しい」「楽しくない」と感じるポイントになるのでしょうか?

図2の通り、「家事を楽しい」と感じるポイントは、家事を終えた後に味わえる「達成感」のほぼ一択という結果でした。これは、家事を楽しいと感じる高スコア層も、そうでない人にも共通していて、逆に言えば、それ以外に家事の楽しさが見つけられていないことがうかがえます。一方で、「家事が楽しいと感じられない」ポイントは、「家事は孤独」、「誰も褒めてくれない」、「やり始めるまでが億劫」、「繰り返しの作業が日々続き終わりのないイメージ」、「毎日家事をしても向上している感覚が芽生えない」などであり、「家事の楽しくなさ」を改善するには「孤独感の解消」や「やる気、モチベーションアップのスイッチ」など「感情面」でのサポートが重要な鍵を握ることがわかりました。

図2 「『孤独解消』『モチベーションスイッチ』など感情面のサポートが必要」

高機能。でも心が揺さぶられないのが日本の家電ブランド

図3 「『高機能は当然で心揺さぶる家電ブランド」vs『機能だけで支える献身的な家電ブランド」』

RIPPLEコミュニティ参加者に「家事が楽しくなるイメージがある家電ブランド」について質問し、それぞれの家電ブランドが選ばれた理由を定性的に分析した結果、「機能だけで支える献身的な家電ブランド」と「高機能は当然で、心揺さぶる家電ブランド」の2つのグループに分類されました(詳細は図3)。

日本発祥の伝統家電ブランドの多くは「機能だけで支える献身的な家電ブランド」に分類され、「品質に信頼性・安心感がある」、「昔から使い慣れている」、「耐久性があるので壊れにくい」など、機能的な面で支持される意見が多く、堅実に家事をサポートしていることが選ばれた理由です。かつては革新的な家電ブランドとみなされていたシャープやソニーも、現在では機能的な家電ブランドというイメージがメインになっています。

一方、欧米の家電ブランドは、「おしゃれな気分が高まるデザイン」、「先進性があり最先端で楽しそう」、「機能性が高いので家事をした感が味わえる」、「結婚する前からの憧れ」、「可愛くて使う度に愛着が湧く」など、気持ちをポジティブにしてくれるという意見が多く、「高機能は当然で、心を揺さぶる家電ブランド」のグループに属しています。また、近年日本の新興家電ブランドで人気急上昇中のバルミューダ、ブルーノは、「キッチンに置くだけで雰囲気が明るくなる」、「デザインが外国風で可愛い」など、コミュニティ参加者の「心揺さぶる存在」となっており、同グループに分類されました。

つまり図3の「家電ブランド番付表」の通り、日本発祥の伝統家電ブランドは「機能だけで支える献身的な存在」で、欧米の家電ブランドと日本の新興家電ブランドは「高機能は当然で、心揺さぶるブランド」であり、人々の頭の中にあるブランドポジショニングマップでは、両者が全く違う土俵にあることがわかりました。

日本発祥の伝統家電ブランドの多くは高機能ですが、「家事の楽しくないポイント」を改善する「心揺さぶる」要素が不足しており、「感情面」へのアプローチを強化することが求められています。

キャラ設定で「心を揺さぶる」!

「臨場感を高めてくれるスポ根アナウンサー」「人情味が溢れる昭和のオカン」「可愛いさがたまらないペットロボット」「モチベーションが維持されるデジタル育成モノ」の4つのキャラクター設定が有効

RIPPLEコミュニティ参加者に「家事が楽しくなる家電」についてアイデアを募集しました。残念ながら、日本発祥の伝統家電ブランドの長所である「品質」や「耐久性」といった「献身的に家事をサポートする機能」は、コミュニティ参加者からはあたりまえの要素とみなされています。人々の関心はむしろ、「家事の楽しくないポイント」である「感情面」の悩みのサポートに向けられています。それに応えるためには「気分を上げてくれて心を揺さぶる」存在として、いわば「人格」を持った家電ブランドが求められており、集まったアイデアから4つの人格キャラクター」が浮き上がってきました。

1つ目のキャラクターは、いわば「臨場感を高めてくれるスポ根アナウンサー」。たとえて言うならばアナウンサーの古舘伊知郎でしょうか。高機能はもちろんのこと、家事をする人の呼びかけに反応してくれたり、音楽を流したりして臨場感や人間的な温かみを感じさせてくれる存在です。

2つ目のキャラクターは、「人情味が溢れる昭和のオカン」。ずばり「大阪のおばちゃん」のような人格で、家事の虚しさを理解してくれて褒めてくれる人情派の性格の持ち主です。

3つ目のキャラクターは、「可愛さがなんともたまらないペットロボット」。一世を風靡した「aibo」のようなイメージです。世話をするつもりでついつい家電を触ってしまい、それに合わせて勝手に掃除を始めてくれるなんとも頼もしい家事の相棒です。

4つ目のキャラクターは、「モチベーションが維持されるデジタル育成モノ」で、「たまごっち」や「どうぶつの森」のように家事を毎日コツコツするのが楽しくなってきます。ポイ活のように日々頑張った分だけお得なポイントが貰えて、また日々の家事の記録をしてくれることでモチベーションの維持にも繋がります。

図4 「4つのキャラクターで『心揺さぶる!』」

「家事が楽しく感じない」ポイントは、「孤独感」、「終わりがない」などの「ネガティブな感情面」でした。欧米の家電ブランドと日本の新興家電ブランドは、「機能面」のサポートだけでなくこの「感情面」の悩みにきちんと取り組んでいます。今後、日本発祥の伝統家電ブランドが「人々の心を揺さぶり続ける」ブランドへと昇華するためには、機能面では「達成感」を訴求しつつ、「心を揺さぶる」ブランドのキャラクターを構築し、「家事をより楽しいものにする、より身近でパーソナルな存在」になることが有効なのではないでしょうか。

参考文献

注)価格.com 家電「掃除機・通販・価格比較」(2022年10月26日時点)


門脇 圭佑
Interbrand Japan コンサルタント ​

ハマっているゴルフの練習は毎日するが、苦手な家事は週末にまとめて片づけるタイプ。デザインコンサルティング会社を経てInterbrandに参画。消費者インサイトに基づいたプロダクトやサービスのコンセプト策定、アイディア開発、マーケティング戦略立案を得意とし、プロタクト・コーポレートのブランド戦略やパーパス策定、消費者インサイトの発見を通じた事業成長の支援に従事。 ​