We give our clients the confidence to make Iconic Moves

Voice of Japan 13
ジェンダーフルな商品設計のヒント!

3行でまとめると

  • 大人都合のジェンダーバイアスが、「個性を尊重したい」子育ての足かせとなっている
  • 子どもの選択基準は「好奇心」
  • 「ジェンダーフル」な価値観が、柔軟なアイデンティティを生む

イントロダクション

近年、社会的性別にとらわれず、誰もが平等で自由に行動できるようにするというジェンダーフリー(※1)の価値観がZ世代を中心に広がってきています。この傾向は、幼児期から青年期の子どもたちとその子育て世代を取り巻く環境にも徐々に浸透しています。

特に幼児期は自己形成の基盤となる時期であり、性別に関する認識はしばしば曖昧です。社会的、文化的な環境によって後天的に形成されるジェンダーへの価値観は、大人になってからの価値観に大きな影響を与えるのではないでしょうか。

学校では「ジェンダーレス(※2)制服」の導入(※3)や、呼び名を「さん付け」に統一するルール規定(※4)が設けられました。またメディアにおいても、アニメプリキュアではシリーズ開始15年目で初の「男の子プリキュア」(※5)が登場し、Eテレおかあさんといっしょでは「無性別キャラ」(※6)が登場しています。

しかし、現実にはまだジェンダーバイアス(※7)がさまざまなところに残っています。レゴ・グループが世界7カ国で行った調査では、親の76%が「息子にレゴで遊ぶことを勧める」と回答した一方で、「娘に勧める」と回答したのはわずか24%という結果が出ています。(※8)また子ども用品や売り場は性別によってカテゴリー分けされています。

今回は子どもが関わる環境で重要な接点である子ども向け商品の購買シーンに焦点をあて、そこで起きるジェンダーバイアスとその心理に注目することで、子どもたちにとってポジティブな影響をもたらす10年先の理想的なジェンダー観を考察していきたいと思います。

インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する暮らしの状況に合わせて人々の内面はどのように変化しているのか、理解を深めています。今回はRIPPLEコミュニティのメンバーに聞いた「ジェンダーをめぐる、大人と子どもの価値観」について、生活者の心理に迫ります。

(※1)ジェンダーフリー:性による社会的・文化的差別を受けることなく、誰もが平等で公平に行動できるようにすること
(※2)ジェンダーレス:性差(男女の社会的な差)が取り払われていること、及び、取り払おうとする考え方
(※7)ジェンダーバイアス:性別に基づく固定概念を持つことや、それによって社会的差別が生まれること

子育ての価値観の変化によって生じる、ジェンダーへのジレンマ

世の中の関心がジェンダーに対してあまり向いていなかった10年ほど前までの日本では、「男らしく、女らしく」「男は青、女は赤」など大人都合によって慣習化されてきた「ジェンダーバイアス」が当たり前に存在していました。
特に「世間」に対して帰属意識の高い日本においては、このマジョリティのレールに乗ることが重要視され、子どもたちにおいても一人一人の自己表現が抑制されるケースも多かったのではないでしょうか。

自分の子育て期には子どもの性別について意識したことは全くありませんでした。(50代女性)

男の子だったので私自身が男の子の商品を押し付けていたかもしれません。(50代女性)

そこで、現代の子育てへの価値観を探るため、20代から60代のコミュニティメンバーに対し、「子どもが大人にとって異性向けだと感じる商品を欲しがった場合どのように判断するか」について尋ねました。結果、「大人(私)の意見で決める」人が23%に対し、「子どもの意見で決める」人が77%という数値が示されました。

生地の端にフリルがついている肌着を欲しがった時悩みましたが、なるべく息子の意思を大事にしたいと思っているので否定はせず、購入しました。(20代女性)

子どものインスピレーションは恥ずかしい事ではないと思います。好みにジェンダーは関係なく、自由だと思っています。(30代女性)

この結果は、現代の価値観の多様化に伴い、「性別にとらわれず、子どものありのままを受け入れ、個性を尊重したい」という大人たちの意識の変化を示唆しているように思います。この変化は、今後のジェンダーに関する価値観や子育てにおける意思決定に大きく影響を与える可能性があるのではないでしょうか。

しかし一方で「子どもの意思を尊重したい」という意識がありながらも、実際にその状況に直面した際は判断に悩んで葛藤するケースや、周囲のバイアスに悩むケースが多く見受けられました。

息子は、戦隊モノの番組やカーズの映画などの影響で、赤がカッコいいというイメージを強く持っていて、ランドセルも「赤がいい!」と答えた時悩みました。今は赤が良くても後々嫌になったり、女の子みたいだと言われて周りにイジメられたら困ると思い、別な色を勧めて、最終的にはダークグリーンのランドセルを購入しました。(30代女性)

かわいいものが大好きな男の子で、何を買うにも主人は猛反対でした。学校や外では夫が恥ずかしがるので、家の中では自由にあそんでもらってます。(30代女性)

これまで社会や文化によって醸成されてきた大人都合のジェンダーバイアスと、現代の子育てにおける価値観との間にギャップが生じ、ジレンマを抱えていることが分かります。
商品選びの基準が「性別」となっていることが、子どもの個性を尊重したい大人にとって選択のバイアスとなっているのです。
これから先、「男の子だから〜」「女の子用の〜」といった性別を主語にした風潮や考え方を変えていくことが、多様な個性を育む重要なステップだということが見えてきました。

そもそも、子どもの選択基準って・・・?

では、性別による線引きがなくなったとき、子どもの個性を育てていくためには何がよりどころとなるのでしょうか?ここで、購入に至るまでの子どもとの会話の心理を探ってみると、興味深いことに気づきました。

息子が女の子用のピンクのままごとのおもちゃを欲しがった時迷いました。どうして欲しいのか聞いてみると、料理を作ることに興味があるとの理由だったので、意思を尊重して買いました。(30代男性)

息子が、ディズニープリンセスのレゴを欲しがった際には買いづらいな、と思いました。息子はヨーロッパのお城が好きなので男の子用かどうかの意識は本人になさそうでした。(30代女性)

ここで分かったことは、「男の子用」「女の子用」といった性別に基づく線引きは、子どもにとってあまり重要でないということです。むしろ、子どもの「欲しい」という意思は、やってみたい、知りたい、なりたい、と言った「好奇心」から来る要求だったのです。
一見、性別に紐づいた好みのように見える子どもの選択の意思は、実はわくわくする気持ちを刺激する商品の魅力に向いていたことが分かりました。特に、ジェンダー観が曖昧な幼児期において、大人都合のジェンダーバイアスを排除することは、「好奇心の芽」を発見する機会を増やすことにつながるようです。

好奇心に目を向けた「ジェンダーフル」な選択肢が、アイデンティティを創造する

実際に、ジェンダーの縛りを解放し、「好奇心」に焦点を当てている商品のケースを見たいと思います。

Case1:パッションポイントで区分けした商品作りを進める「LEGO」(※9)

「LEGO」は性別によるカテゴリー分けを無くし、代わりにパッションポイントに基づいて商品を区分けするインクルーシブな玩具作りを推進しています。これにより、子どもたちは性別に制約されずに自由に創造性を発揮できるようになりました。
以前は男の子向けとされていた消防署や病院が舞台のレゴブロックも、性別に関係なく、「自分に相応しいおもちゃ」として広く遊ぶことが可能になりました。

Case2:自由に自己表現できるファッションドール「Creatable World」(※10)

マテル社が発売した「Creatable World」は、バービー人形とは異なり、性別を特定できない顔立ちをもつファッションドールです。ウイッグや洋服、アイテムの組み合わせで100通り以上のルックスを作り出すことができ、子どもたちが自分の好みに合わせて自由にカスタマイズできる仕組みとなっています。
従来の「女の子向け人形」という概念に挑戦し、「属性のないドールシリーズ」として市場に登場したことで、性別や年齢を超えて、オシャレで自己表現を楽しむ人々の注目を集めました。

上記の事例から見えてくるのは、子どもたちに対して、男女の二分法にとらわれず、ジェンダーの幅広い可能性を受け入れ、探求できる環境を提供しているということです。

男女の区分を解放し、あらゆるジェンダーを受け入れることで、個々の個性に焦点を当てた「ジェンダーフル」(※11)な価値観によって、子どもたちは既存のジェンダーの期待に縛られず、様々な選択肢を通じて自分らしいアイデンティティを見つけ出すことができるのではないでしょうか。

(※11)ジェンダーフル:すべてのジェンダーが性別による役割を背負うことなく尊重され、個々の個性や独自性を自由に発揮できるポジティブな状態のこと

これから世の中に生まれてくる商品が「ジェンダーフル」な価値観にアップデートされていくことで、現代の想像を超え、個性に満ちた世界が広がるかもしれません。

私が選んだ物はことごとく却下でした。子どもの興味が女の子・男の子といったジェンダーを超えたところにあるようで不思議です。(30代男性)

RIPPLEコミュニティでは今後も生活者の意識変化の兆候を捉えるための活動を行っていきます。最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献


八木沼 奏子 Kanako Yaginuma
Interbrand Japan Senior Designer/Creative

2015年よりインターブランドに参画。プロダクトブランドを中心とした、生活者の心理をつかみ共感を生むブランディング、デザイン制作を強みとしている。国内外のデザイン賞を多数受賞。