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Voice of Japan 11
“ファッションとは、いまや周りと「同化」するための手段?!” -外見に纏うものと心理の関係性とは-

3行でまとめると:

  • ファッションは個性を表現することよりも、周りと馴染むためのツールとなってきている
  • 同じ洋服を着ていることは、心理的な安心感・安堵感をもたらし、相手に対しては親しみや共感につながる
  • 自分らしさの表現は、簡単に羽織ることのできるものよりも、時間をかけて自分の内面が醸し出される所作や趣味などに重きを置く時代になってきている

イントロダクション

世の中のブランドには様々な役割がありますが、その中でも自己表現するためのブランド群(Express Category )の代表格であるファッション。昨今は、ファストファッションの普及やオンラインショッピングの増加、オンとオフの曖昧化など、社会や生活変化により、ファッションそのものの位置付けが変わってきていることが多くのメディアで謳われていますが、私自身、街を眺めている中で、少し異様とも思える光景に変わってきていることに気づきました。

都内のファッションビルを見に行くと、ビル内に入っている洋服はどこのブランドも同じようなトレンドを取り入れ、駅構内には同じような服を着ている若者で溢れている。決して、リクルートスーツや制服ではなく、ちょっとお洒落をしているが、似たような服。若者だけではなく、30代以上の方々のファッションも力が抜けている感じ。少し前までは自分の存在感を適切に表現するための手段と思われたExpress Categoryのファッションにおける人々の変化の奥底にある心理はどのようなものになっているのか、考察していきたいと思います。

インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行っています。今回はRIPPLEコミュニティのメンバーの声をもとに、ファッションと自分らしさの表現に対する価値観を紐解いていきます。

ファッションは個性をアピール?それとも個性を隠す??

まずは、コミュニティメンバー男女に自分にとってのファッションとは何か、何を意識しているかを聞いてみました。
その結果、従来通りの自己表現の手段であると考えている人も半数近くいますが、驚くことにコミュニティメンバー4割の人が「同化タイプ」に分類される「ファッションはなるべくその場に馴染み、目立たなくするためのもの」と考えていたのです。私が街角で見ていたあの光景は、まさに今回の調査でも明らかになったのです。

その背景には、ユニクロやH&MなどのファストファッションやSHEINといったオンラインショッピングの台頭により洋服が安価に手に入るようになり、ファッショントレンドも短期間で変化するマイクロトレンド化してきているため、ファッションを吟味し、自分のスタイルを確立して個性を打ち出すことへの価値が下がってきたと考えられます。

ただ、それだけなのでしょうか?その心理を探るために更に聞いてみたところ、興味深いことに気づきました。

私は目立ちたくないので自分らしさを出さないファッションを常に心がけています” (40代男性)

このコーデは一般的で安心なのかなと吟味したり…。” (30代女性)

この「常に心がけています」や「吟味したり」という発言に見られるように、この層は無頓着タイプのようにファッションに無関心で一番気軽で楽な洋服を選択しているのとは異なり、周りから浮かないために適度に流行を取り入れるなど常に努力をしているのです。

一時期、「量産系女子*参照1」という女子大学生を中心に、服装、髪型、メイク、行動などが周りと一緒で、特に個性的な部分を持たない、まわりと似たような行動を好む女性がメディアで取り上げられていました。大量生産されている商品と同じように、多くの人と同じであることから量産系と言われ、自ら量産系女子と名乗る人たちもいます。

この傾向は、SNSのコミュニティ帰属に強く影響され、周りから浮きたくないという意識の若者たちの特徴だったのですが、今回年齢別に見ても、若者だけではなく、30代以上の方々でも周りに馴染むことを重要視する傾向が見られています。

そして、次の方のように、心の底では葛藤を覚えながらも、努力を続けていらっしゃる方もいます。

流行としては間違いはないという共存意識を持ちますが、その反面、自己表現としては弱く感じてしまいます。周りに置いて行かれないようにしている自分がいることが、人の目を気にしている気がして自分の殻を破れていないような感じがするからです。” ( 30代男性)

決して、個性は必要ないと思っている訳ではないが、個性がないと思われるよりヘンな服だと思われない方が大事、目立つのは得策ではない、という生活者の心理が見え隠れしてきます。

ファッションは、個性を表現するものだけではなく、個性を包んで見えなくしてくれるものでもある、そのような時代になってきているとも言えるかもしれません。

同じ洋服着ていても、恥ずかしさは感じない?

ここで、一つの疑問が湧きます。周りに馴染むために同じような服を着るということは、ばったりと同じ服を着ている人とすれ違ったりした時に、気恥ずかしい気持ちにはならないのでしょうか。私は、たまたま同じ洋服を来ている人がいたらなんだか気まずい気持ちになります。この気持ちに共感してくれる人が多いと信じて疑っていなかったのですが、この「気恥ずかしいと思わないのか?」というシンプルな問いから、生活者の重要な意識変化を学ぶ結果となったのです。

なんとも50%近くの人がポジティブな感情になるとの回答だったのです。

前述の「同化タイプ」の人たちからの代表的なコメントを見てみると、

おっ、この服装間違いじゃないんだな!?と自分が一人だけ違うことをしていないことに安心感を覚えます” ( 20代女性 )

人気がある服装をしていることを誇りに思えます” ( 30代女性 )

周りに溶け込むような格好で安堵します”
( 30代男性 )

他人との中で目立たないようにするファッションであると自覚します” ( 50代女性 )

では、「自己表現タイプ」の人たちはいかがでしょうか?

近しい価値観を持っているのだなとほほえましくなります” ( 30代男性 )

同じような服を着ている人を見たらワクワクします。なるほど!そんな着こなし方があったかー!と共感、参考になります” ( 30代女性)

気が合う人なのかもしれない、と思います。嬉しいです。仲良くなりたいです” ( 40代女性 )

なんと、自己表現タイプの人も同じセンスをしていると感じ、嬉しくなるようです。
ファッションとは、個性を表現するものであるが故に人と被ったら顔から火が出ると私のように考えるのは少数派で、「同化タイプ」に見られるような「場に馴染むことでの安心感」や「自分の選択は間違っていないという安堵感」に加え、「自己表現タイプ」に見られるような「同じ価値観やセンスをしているという共感や親しみ」を生むものでもあり、社会とのつながりを重要視する現代社会において、同調・共感アイテムとなっていることが主流になってきていることが伺えます。

ならば、自分らしさは何で表現する?
羽織もので変身よりも、内面から醸し出されるらしさ

では生活者は、ファッションではなく、どのようなことで自分らしさを表現しているのでしょうか。
興味深いことに、多くのコメントが寄せられたのが、「内面や行動(表情や言葉づかい、立ち振る舞い)」「空間(部屋や家)」「趣味(楽器や音楽、料理、カメラなど)」でした。

特に笑顔が1番のファッションアイテム代わりだと思っています”( 20代女性 )

言葉だと思います。言葉の選び方で印象は大きく変わると思っています” ( 30代女性 )

撮った写真には自分の視点やセンスが表れている気がします”( 30代男性 )

部屋を見ればその人がわかります。几帳面か大雑把か、どんなテイストが好きか、など”
( 40代女性)

また、このような示唆深いコメントもいただきました。

人間の本質、自分らしさは、多少は外見には表れるのかもしれませんが、基本的に自分の本質は内側に宿っていると思っています” ( 40代女性 )
“自分らしさは自分の中の一部であり、流行のファッションとは対立、敵対的な関係にある”
( 50代 男性)

読者の皆さんは、これを見てどのように思ったでしょうか?
私は、ファッションという誰かが作った個性を自分の個性として安易に表現するのではなく、自分の内面を磨きなさい、と生活者に嗜められているような気持ちになりました。

さっと羽織って作ることができる外見的な記号には特徴を持たせず、日常的に時間をかけて磨き上げていくもの、醸し出されていくもの、それが自分らしさを表現している本質だと考えている人たちがどうやら増えてきているようです。

個性とは内面や意識と考える生活者とブランドとの今後

これまで見てきたように、この生活者の価値観の変化は、まさに、Express Categoryの代表格であるファッションに対するパラダイムシフトと言えるでしょう。

生活者はファッションを周りの状況に合わせたトレンドとして取り替えるものと捉え始めており、個々の価値観やそのスタイルの確立のためのものとしての期待は薄れる傾向にあるようです。

多くの企業が「人々の個性」を考慮しながら事業・商品開発をすることがあると思います。社会とのつながりや帰属意識を求める世界が加速し、生活者が自分らしさの確立は即席で出来るものではなく、じっくりと時間をかけ、自分の内面に問いかけ磨く必要があることに気づき、大切にし始めていることをまずは認識することが大切です。

その上で、忘れてはいけないのは、誰もが個性を捨てているわけではない、ということです。それを表現する方法を時代の気分や要請に合わせて模索している、ということなのです。

じっくりと時間をかけて個性を作る、という意味では、Express Category Brandの役目として本来は大きいはずです。ぜひ一過性の周りに合わせたスタイルを作るのが目的ではなく、また何か借り物を羽織る、ということでもなく、生き方(=価値観や行動)を反映させ表現する楽しさや価値をこれまで以上に生活者に伝えていって欲しいと願っています。

最後に、ラグジュアリーブランドのアドバイザーであるOrtelli&Co.のマネージング・パートナー、マリオ・オルテッリの言葉を引用させていただきます。
「ブランドは、人々が自分自身のストーリーを構築するために使うアルファベットの文字になりつつある……。彼らは価値の放送局である。つまり、顧客こそがブランドなのだ」*参照3


RIPPLEコミュニティでは今後も生活者の意識変化の兆候を捉えるための活動を行っていきます。最後までお読みいただきありがとうございました。

*参照1 https://onet.co.jp/marriage_column/3524.html
*参照2 https://qz.com/1111798/gucci-has-a-shadow-committee-of-millennial-advisors
*参照3 https://ibjpstage.wpengine.com/ja/arena_express/luxury-isnt-what-it-used-to-be.html


佐々木 知帆子 Chihoko Sasaki
Interbrand Japan Senior Director

2015年よりインターブランドに参画。戦略やバーバルコンサルタントとして経験を重ね、現在はシニアディレクターとして、クリエイティブと戦略の両方における領域での経験を活かしたブランド構築を多数担当している。知見を活かしたセミナー講演や国内外の受賞歴も有し、人々を動かすコンセプトと実体験づくりを大切にしている。