
創業から10年で社員数が2,000人近くまで急増する中、事業のさらなる成長を支えるため、従業員の一体感を強めるべく、経営の意思や価値観を言語化し、組織へ浸透させる必要があった。経営の価値観に対する深い共感の輪を広げるべく実施した絶え間ない取り組みの積み重ねによって、急成長する組織でも社員数が100人未満だった頃からブレない価値提供を実現し、社内外からの信頼を獲得したカルチャーブランディング
課題背景
当時、組織が「100人の壁」にぶつかり、少人数の頃と同じコミュニケーションでは経営陣の想いが伝わらなくなってきていた。エンジニアたちをはじめとした新しい社員に会社をより自分ごと化してもらうために、ボトムアップで新たなカルチャーづくりを社長に直訴し取り組みがスタートした。
組織体制
当初はデザイナーからのボトムアップで、トップのコミットメントの元にスタート。デザイナーの他に広報部と人事部も加わり、当初2名でスタートしたプロジェクトは全社を巻き込んで推進することができた。発案者は現在新たな部署として、カルチャー部を設立し、VP of Cultureとして本プロジェクトをリードしている。社外へのアウトプットを担うのはデザインチームで、トップのCDO (Chief Design Officer)はその組織運営の他、プロダクトデザイン、ブランディングデザイン、そして経営にデザインを取り入れることを役割に本プロジェクトを後押ししている。
戦略・実行
企業の価値観を整理し、共有するため、既に言語化されていたMission/VisionにValueとCulture(Behavior)を加え、会社の意思決定における最上位の概念として再定義した。そしてこの価値観を組織へ浸透させるため、経営陣から社員へ、既存社員から新入社員へ、社員から社外へとCultureの共感をつなぎ、価値観の浸透をスパイラルのように広げるアプローチを現在でも推進し続けている。
経営陣から社員へのCulture浸透としては、経営陣によるValue、Cultureの実践を全社に伝えるスピーチや、社内報でCultureに対する経営陣の想いの発信、経営陣とVPoCによるCultureにまつわるカジュアルな対談のライブ配信などを実施。
社員から社内全体へのCulture浸透としては、Cultureを体現している社員を「Culture Hero」として表彰し、会社の魅力を伝える全社総会を社内のメンバーを巻き込んで開催した。また、オフィスデザインは、構築の過程で社員を巻き込むことで、プロジェクトを通したCultureの体現にチャレンジしている。
社員から組織へのCulture浸透としては、Cultureフィットを重視した採用面接や、新入社員に向けた会社の価値観を反映したオンボーディングプログラムを導入し、人事評価制度の判断軸などにも活用した。
活動の成果
社員NPSのスコアが劇的に上がり、外部の様々なアワードを受賞する機会を得られたほか、社員による自主的なSNSでのCultureにまつわる発信も広がり、その発信が入社のきっかけになるなど採用活動にも好影響を与えている。
また、意思決定にValueが使われるようになることで、企業・作り手都合ではなく、ユーザーの価値に基づいて意思決定をするシーンが増えた。これにより、金融業界や士業のみなさまなど、事業のパートナーからも応援されることが多くなり、社内だけでなく社外でも成果がでている。
ご担当者様コメント
策定当時デザイン責任者を務めており、よりデザインを経営に活用してもらうために、企業の価値観の軸を可視化することにトライした。企業文化という概念を持っていなかった組織に浸透させていくのは大変だったが、CEOが創業以前に文化の大切さを経験しており、社員の想いも汲みながら会社全体で推進する後押しが得られた。今では経営と組織を支える土台として社員に大切にされ、ブランドのコアという役割を果たすようになっている。ここまで文化の浸透が進んだのは、共感をベースに能動的にみんなが関わりたいと思える浸透体験を作れたからではないかと考えている。
評価コメント
本件では、スタートアップ企業がその成功によって急激に組織を拡大し、企業の持つ魅力を見失いかけている時に、社員が自発的に企業文化を見直す行動を起こし、経営が組織的に取り組めるようサポートしているケースです。
長期にわたる成長維持のために、創業者がその類稀な魅力とパワーで牽引しているようなケースは多々知られていますが、本件のようにボトムアップで創業の哲学を再定義したり、企業文化の再構築が行われる活動で成功しているケースはあまり知られていません。このようなケースは企業組織のあり方として本来健康的であり望ましいものであると考えられ、社会に広める価値のあるケースとして、広く共有されるべきです。