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ブランドリーダーズ インタビュー

ゲルハルド・フーリエ

日産自動車株式会社
グローバルブランドストラテジー&マネジメント部
ジェネラルマネージャー

※部署名・役職名は、Japan's Best Global Brands 2015インタビュー当時のものです。

はじめに、いま注目し、刺激を受けているブランドを挙げていただけますか。またその理由もお聞かせください。

UberやAirbnbなどの新しいブランドのスピード感に注目しています。私たちのように既存のブランドで既存のサービスを提供するのとは違い、新しいブランドで、今までにないユニークなサービスを、従来のコミュニケーション手法をほとんど使わずに顧客にサービスを提供しています。彼らは顧客との関わり方において、多くのブランドに興味深い教訓を与えていると思います。

消費者行動やニーズにおいて、ブランドの変化をどのようにお考えですか?

対極する2つのトレンドが存在すると思います。まずひとつは、世界は狭くなってきているということです。お客様の意識は、過去にないほどグローバルに向けて開かれており、世界のどこにいても同じようなブランド体験ができるようになりました。その傾向は、私たちにもあてはまります。今日の市場における日産の製品ラインを見ると、世界中のお客様に一貫性のある製品を供給しています。もうひとつのトレンドは、お客様が地域に密着した、パーソナライズされたブランド体験や製品を望んでいるということです。私たちもたとえ世界のほかの地域で似たような製品を販売していても、それぞれの製品をパーソナライズする必要があることは確かです。

私はこの2つの対極するトレンドが、決して矛盾しているとは思っていません。ただ、慎重なプランニングの必要性をより強調しています。つまり統一すべきものもあれば、個人のニーズに合わせるべきものもあります。大切なのは絶妙なバランスを見極めることです。例えばブラジルの消費者が、自分の運転している車は、インドで販売されている車と同じかどうか気になるとは思いません。むしろ彼らは、本当に良い車を運転しているという事実の方が知りたいと思います。もし私たちがインドで同じような製品を販売していたら、ブラジルではおそらくより良い価値を提供することができるでしょう。これら2つの対極的なトレンドに対してサービスを供給するのは、日本を含む世界中の市場における私たちにとっての課題です。

その理由や背景をどのように考えますか?

クルマの購入はとても大きな決断と言えます。一度購入すれば、5年から8年は乗りますからね。アパレルなどよりは、はるかに慎重に選ぶはずです。そうした中で、言うまでもありませんが、ネット上の口コミやレビューが、旅行業界に革命的な変化をもたらした例があるように、インターネットは非常に重要な情報源となっています。そしてクルマの購入においても消費者のインターネット検索によって、購買行動は大きく変わってきます。消費者は購入前だけではなく、製品を使い終わるまでのすべての段階において、情報の提供者となることを忘れてはなりません。過去においては、例えば横浜に住む消費者の声はその地域を超えて届かなかったかもしれませんが、今では日本全体や世界にまで影響をもたらすようになりました。

日産は顧客ニーズの変化に対応するため、どのようなことを行っていますか?

当社には、技術分野と消費者行動の両方を調査するために専門の調査チームがあります。このチームは世界中の市場を調査しており、5年から10年先、またさらに長い目で見た時に、どんなトレンドが消費者を引きつけるかを見極めるために情報を集めています。この情報が顧客ニーズに対応するためのかなり重要な要素となっています。
一方で、電気自動車リーフの開発の時のように、お客様の意見を聞く前に製品開発を進めるケースもあります。当時まだ電気自動車が一般的ではなかったので、消費者の反応に頼り過ぎるのは最適な方法ではないと考え、その開発では通常とは全く違うルート、すなわち消費者のフィードバックに頼らない、将来のニーズを予測して対応する独自の開発プロセスを踏みました。今後、自動運転技術の開発も同じように行われるでしょうが、こうした新たな技術は、お客様からの直接的な要求だけから生まれてくるわけではありません。まだ対処されていないニーズの深いレベルを探る必要があります。
アラウンドビューモニターの開発はその良い例です。駐車が苦手でストレスを感じるお客様はたくさんいますが、ニーズ調査を行っても「駐車を簡単に行うための新しいシステムやカメラが欲しい」という声はあがってきませんでした。しかし、カメラでクルマの周りを360°確認するシステムはこうしたお客様に広く支持され、さらに自動で駐車できるシステムへと応用されているのはご存知の通りです。もしお客様の要求を一歩超える考え方がなければ、ミラーを大きくするというようなアイデアに留まり、このほかのLDP(レーン デパーチャー プリベンション、車線逸脱防止支援システム)やBCP(バックアップ コリジョン プリベンション、後退時における運転支援システム)などのセーフティーテクノロジーへと展開することはなかったでしょう。これらは、調査を通じて見える「お客様の声」を汲み取り、全く新しい技術とソリューションに焦点を当てた一人のエンジニアの取り組みが生み出した、深い洞察力の賜物です。

それはお客様のニーズというだけでなく、社会のニーズでもありますね。

そうです。お客様個人のメリットは駐車が簡単になったり楽しくなったり、駐車時のストレスから解放されたり、車をぶつけずに済む、ということですが、社会全体から見れば歩行者の安全につながるので、社会にとっても大きなメリットがあるのです。

「ブランド力」についてどのように評価されていますか?これまでにも多くの取り組みをされてきていらっしゃいますね。

まず中期計画で、組織全体でブランドの状況や課題を把握する指標となるブランド力を共有し広めていく取り組みを行いました。これはとても前向きな取り組みで、すべての社員が「ブランド力向上にどのように貢献し、行動していけるか」という意識を持つようになり、組織全体も活性化されました。
私たちは透明性の高い企業経営に注力しているので、ブランド力をどのように定義するかという質問の明白な答えを見つけることが必要不可欠でした。従って、ブランド力を測定するため、まず最高レベルで、私たちのブランドやモデルに対するパーセプション、ポジショニングにかかわるキーアトリビュートや、取引価格等をトラッキング調査しました。
そして次のレベルで以下の認識に影響を与える要素を対象にしました。1) 私たちの製品の品質と顧客体験、2) 私たちのメッセージやブランド体験の明確さとインパクト、3) 製品やサービスがブランドに反映される過程。このように私たちの幅広い組織をブランド力の形成に組み込みました。

ありがとうございます。今後のブランドプラットフォームの変化や対応について、どのようにお考えですか?

私たちは段階的なアプローチに取り組んでいます。まずは、今後のブランド方向性について明確であることを確認する必要がありました。次にブランドプロミスを果たすため、インターブランドのフレームワークやコンサルティングサポートを得ながら、内部プロセスとツールを構築し、精緻化しました。これらの取り組みの大部分はすでに実施されており、私たちはこれらのお客様に提供するために一貫性をもって取り組む必要があります。
また日産は、とても多様的で多地域にわたる大きな組織です。従って、この方向性が会社全体で共有されていることと、ツールが全員にとって効果的に機能していることを確認する必要がありました。もしあなたがきちんとルールにのっとって仕事をしたいと考える人なら、本社の人の間でならそれらが実行できると考えるかもしれません。しかしあなたがすべての機能を超え、あらゆる市場で実現しようと思うなら、もっと大きなコラボレーションを必要とするでしょう。また変化の激しい世の中において、規制のあるアプローチではすぐに対応はできません。迅速に対応するためには、正しい判断をする必要があります。これが最終的には方向性を明確にするためのブランド戦略の役割であり、それを遂行し、ブランドを測定する方法です。私たちはより民主的で広範囲の人に行き届き、人々に力を与えて正しい行動をとらせる戦略づくりが必要です。

多くの人たちから支持をされるものを効果的に実現することはとても難しいことだと思いますが、具体的にどのような方法をとるのでしょうか?

そうですね。まず、簡単か難しいかということの前に、私は必要不可欠なことだと考えています。先ほどは口コミやインターネット上のコミュニケーションと顧客経験における期待について話しました。従来のマスメディアを使う場合においては、私たちは代理店にメッセージのアイデアを開発してもらい、それをテストし、精緻化して、美しく整えてからマスメディアに流しました。これはトップダウン型の環境においてとても安定した方法です。

しかし、ソーシャルメディアなどが主流の今日の社会では、消費者は企業に対してスピーディな対応を求めています。会議を開いて、どんな戦略がいいかと吟味している時間はありません。企業はどのように対応すべきか理解している人材をあらゆる場所に配置する必要があります。これは確かに難しいことですが、とても大切なことです。
「多くの人たちから支持をされること」は素晴らしいことですが、私は民主的という言葉が大衆受けするから使っているというわけではありません。民主的という状態を社会が必要としているからです。それは今日の社会が、常に反応の早い企業であることを要求しているためです。確かに課題も多く難しいことですが、すべての組織がより民主的に、より機能的に相互に協力する方向に向かっています。それが私たちの進むべき方向です。完璧に達成できたとはまだ言えませんが、これまでもこれからも、常に変化する社会や顧客に対応できるように努力し続けます。
2013年、私たちは「Innovation that excites (今までなかったワクワクを。)」というキャッチフレーズを発表しました。外部の人にとっては、新鮮に見えたようですが、それこそが私たち日産のDNAでありブランドの起源なのです。社員に対しては、これが今まで通りの私たちのやり方であり、決して新しい方向性ではないのだということを気づかせることが重要でした。つまりこれこそが私たちのあるべき姿であり、長い歴史における誇るべき私たちの理念なのです。
私はこのキャッチフレーズと理念に社員がとても共感していることに気づきました。これはブランドが単なるカラーパレットやビジュアルアイデンティティのガイドラインではなくそれ以上であることを説明しています。そして私たちの長い歴史と将来の方向性に関連しています。この理念は表面的ではなく企業精神の本質として、より根本的なレベルで社員を惹き付け、企業精神の本質は言語や文化を超えて人々に理解されるべきものだと思います。もしその本質なしのトップダウン的なメッセージであったとしたら、社員を魅了し彼らに正しい行動をとらせることはかなり難しかったでしょう。
私は日産の創設者である、鮎川義介氏の有名な言葉が大好きです。「他がやらぬか、我々がやったほうが合理的なものだけをやる。」私たちは他がやらないことをやります。私たちの歴史において、最も誇りに思っている製品を見ると、すべて他社がやらないようなものか、挑戦しないような技術なのです。
この理念は日産の創業当初からずっと続いています。私たちが約束した電気自動車の大量生産についても、他社はやっていません。自動運転技術の開発においても同じです。私たちは常に従来の慣習に挑戦したいと思っています。もしこの日産的なやり方である、企業精神の本質を社員が理解すれば、私たちはガイドラインや規則に縛られることなく、行動を変化させることができるでしょう。もし人々がこの本質を理解すれば、それがブランド哲学に行きわたり、顧客との接し方など、すべてに繋がっていくのです。

発言や行動を考える前に、自分たちが何者であるのかを考えるべきなのですね。

まさにその通りです。繰り返しになりますが、今の世の中において求められているのはスピーディな対応です。自分たちが何者なのかが分からなければ、スピーディに対応することはとても難しいのです。私がカジュアルな格好でもフォーマルな格好でも、私という人間は変わりません。状況に応じてそれに合った服装が求められます。ブランドマネジメントにおいて、私たちは時に服装に関して心配しすぎのような気がします。
ブランドをグローバルな視点から見ると2つの大きな課題がありました。一つは、お客様の視点において一貫性を保つことです。企業にとって、様々な機能において一貫性を評価することは当然のことです。ディーラーや広告に変化はないか、どこでも同じキャッチフレーズを使用しているかなどに注目し、一貫性を保つことが必要です。お客様にとって私たちが一貫しているかどうかが重要なのです。もう一つは、私たちはお客様にとって独創的であり、差別的であるかということです。ユニークで新鮮であることと、一貫性があることは相反しますが、お客様はどちらも求めているのです。私たちはすべてのブランドが素早く移り変わる世の中において、一貫性と差別化のバランスを取りたいと思っています。

最後の質問です。グローバルブランドを統括している組織はとてもユニークな組織ですね。横浜がベースとなっていますが、あなたはロンドンから組織を運営されていますし、アメリカのオフィスはニューヨークにあります。時差や距離、言語の違いをどのように乗り越えているのでしょうか?

はい、少しばかりユニークですが、この方法が成立しているのには理由があります。まずロンドンのサテライトオフィスにいると、私たちの主要な市場との物理的な距離がより近くになったので、より詳しくリアルタイムで話し合うことができるようになりました。
実例をあげると、日本にいる時はメキシコのマーケティング部長と会議をしたければ、私は夜の10時、彼女は朝7時のミーティングになります。どちらにとっても会議などしたくない時間帯です。そうなればお互いが早く会話を終わらせようとする状況になってしまいますのでどうしても表面的な話し合いしかできず、深いところに踏み込めないことが悩みの種でした。
また、各オフィスの終業時間後に仕事をオフィス間で引き継ぐことで、生産性を上げることができます。例えば横浜が定時になるとロンドンに引き継ぎ、ロンドンからニューヨークに、そしてまた横浜に戻ります。いつもそうできればいいですが、難しいこともあります。お互いの関わり方について人間関係を良好に保つために、より一層注意を払う必要があります。距離が離れているので、コミュニケーションの中で重要なことが失われてしまうことがあるからです。
数々の困難はありましたが、ここまで私たちが達成してきたことには満足しています。ロンドンに移動したことによって、ヨーロッパやアメリカ市場との連携レベルはかなり向上しました。確かにユニークな組織ではありますが、私たちの広範にわたるコラボレーションという理念に合ったものです。

ゲルハルド・フーリエ

ゲルハルド・フーリエ
日産自動車株式会社
グローバルブランドストラテジー&マネジメント部
ジェネラルマネージャー