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ブランドリーダーズ インタビュー

高原 豪久

ユニ・チャーム 株式会社
代表取締役 社長執行役員

※部署名・役職名は、Japan's Best Global Brands 2014インタビュー当時のものです。

共生社会で必要なのは、人と人の交流です。高齢者やハンディキャップのある人でも普通の生活を続けられるように社会全体でサポートしていくという、“ノーマライゼーション”という考え方があります。弊社や、経営者としての私が、共生社会実現のためのキーワードを発信・体現していくことで、ノーマライゼーションの一助となりたいと考えています。

コーポレートブランド決定までの経緯などについてお聞かせください。ブランドは社内外の方々との関係についてはどう作用するものだとお考えですか。

企業理念とコーポレートマークについては2001年にCIを行い、私の名刺の裏面にその意図を記しています。企業理念の『NOLA&DOLA(Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activities)』は、すべての活動のよりどころであり、コーポレートマークはそれを視覚的に表現したものです。『NOLA&DOLA』は、創業25周年時に実施したコンセプトワークが基になっています。コンセプトワークでは、NOLA&DOLAのLは“Ladies”の頭文字でした。しかしその後の業容拡大から、生きとし生けるものとしての“Life”をLに充て直したという経緯があります。それが2001年です。ユニ・チャームは“Necessity(必需品)”を提供する企業です。商品もサービスも、ブランドも、企業としての存在も必需でなければなりません。そして、手がけている商品は「日用品」です。毎日の負荷を軽減し、それによってできた時間でご自身の夢をかなえていただきたいと思っています。コーポレートマークの色と形には、意味があります。いのちの暖かさと力強さを表す『ヒューマン・オレンジ』と生活の活力と輝きを表す『ライフ・イエロー』がつくる形は、親と子、介護する人とされる人、飼い主とペット、そして、お客様と弊社のあるべき姿を表しています。それを囲む『サイエンス・ブルー』は、生活を科学し続けるユニ・チャームの技術と信頼性の象徴です。社内ではコーポレートマークを、『チャームリング』と呼んでいます。社内公募に応募された案ですが、文字通り“チャーミング”な名前になったと思っています。社内ブランディングという意味では、セルフモチベーションの向上につなげたいです。壁にあたったときや苦しい思いをしたとき、自分の努力や仕事がどういったことに繋がっているのかを再認識してほしいのです。こうしたことは、機会あるごとに話をすることにしています。新商品の発表会などでは、小売業様など流通の方に、記者会見などではメディアの方にもお話をします。商品の原料を供給してくださる資材サプライヤー様へもお伝えしています。ブランドが目指すことや存在の価値についての理解と共有は、ビジネス上の関係を超えた、深いつながりをつくると思います。

注目しているブランドや、関心をあるブランドを挙げていただけますか。その理由についてもお聞かせください。

マーケティングやブランディングの観点からみると、P&Gです。トイレタリー業界でナンバーワンの企業であり、カテゴリーの代名詞となる商品を数多く持っています。たとえば、子供用紙おむつのパンパース。弊社の創業が遅かったこともありますが、P&Gの商品ブランドは生活者に浸透しています。カテゴリーの代名詞になることでブランドを刷り込むという手法は、ぜひ手本にしたいです。弊社には『マミーポコ』という紙おむつがあります。国内ではプレミアムラインに『ムーニー』があるので、位置づけとしてはセカンドラインです。しかしアジアのほとんどの国ではムーニーは発音しにくいということがわかり、マミーポコを紙おむつのグローバルブランドとしています。マミーポコがアジアにおいて紙おむつカテゴリーの代名詞となれるよう、努力を惜しまないつもりです。アジアマーケットは拡大基調にありますから期待しています。また、注視しているといえば、P&Gが撤退した“大人用紙おむつ”のカテゴリーがあります。『ライフリー』というブランドで展開していますが、英語ベースの造語ですので発音もしやすく、意味するところも伝わりやすいと考えています。こちらはアジアだけでなく、グローバルでもカテゴリーの代名詞になってほしいと思っています。高齢化が進むほど、子供用よりも大人用紙おむつの方が、マーケットは大きくなります。国内売上構成をみると、実は大人用紙おむつの売上が最も大きいのです。ですから、国内においては “高齢社会・長寿社会の中でライフサポートを手がけているブランド”、アジアでは“紙おむつや生理用品を手がけているブランド”と、業容をシンクロさせて、正しく認識していただけるようにならなければなりません。それをかなえることが私の課題です。

P&Gのブランディング活動を見ていて、“P&Gらしさ”を感じるのはどんなところでしょうか。

“ブランドをどこから認知させるか”が、徹底していると思います。具体的にいえば、産院などにおける妊婦さんへのサンプリング活動です。ママの一歩手前、プレママの段階からアクセスするのです。費用もかかれば時間もかかります。しかしプレママたちは出産後、赤ちゃんに初めて着ける紙おむつにパンパースを選ぶことが多いことも事実です。P&Gはマーケティングの教科書のような企業として有名ですが、それを支えているのは細やかに病院ルートをケアしている営業担当者です。マーケッターだけでなく全員がマーケティングマインドを持ち、顧客との接点を切り拓くことを実践している証明だと思います。需要期間が3年間という短期であるため、母親になる前からターゲットとして認識し、アプローチをかけていくという姿勢は、大いに学ぶところがあると思います。

「リーダーシップを持っているブランド」とは、どのようなブランドでしょうか。

一つは、“カテゴリーの代名詞になるようなブランド”だと思います。もう一つは 、“プライスリーダーシップを持っているブランド”でしょう。P&G商品のプライスは、弊社商品の価格にも影響しています。さらには、“際立つ差別化のあるブランド”。私は、開発部署に「僅差の差別化では足りない」と伝えています。実際、紙おむつの新商品開発では、競合品に対してトップボックスで20%以上の評価差をつけるよう求めています。そして最後になりますが、“最初に発表されたブランド”。フォロワーではなく、先頭でマーケットを開拓していくブランドも、リーダーシップがあるといえるのではないでしょうか。

市場や、顧客のニーズ・行動は、どのように変化してきているでしょう。また、それらを予測し変化に応えるために、どのようなことを重視し実施されていますか。

簡潔にいえば、“10年先のメガトレンドをざっくり鷲掴みにする”ということです。3年先の流行や価値観など、細かいトレンドを予測するのは難しいことです。しかし10年単位の人口動態の傾向などは、ほぼ見誤ることはありません。大きなトレンドに乗りながらビジネスを進める必要性を感じます。そしてそこに、3つの要件が必要だと考えています。“断行力”、“学習力”、“組織的進化力”です。“断行力”とは、文字通り即断実行するということです。変化の兆しは10年毎のメガトレンド分析でも捉えられますし、もちろん日々のお客様との関係性でもわかります。ポイントはそれを正確に感知し、直ちに判断し、その判断に基づいて実行するということです。断行しないことは、停滞をつくることを意味します。“学習力”は、小さな単位の試行錯誤を繰り返すということです。プロジェクトも小さく生んで大きく育てたいと思っています。テスト環境を素早く整え、そこで成功したことはより伸ばし、失敗したことは軌道修正しながら優れたものにしていきます。1990年代中頃からアジアへの展開を始めましたが、アジア進出ではこの“学習力”を実践してきました。“組織的進化力”についてですが、まず弊社社員には、多様性に寛容であること、リスクにチャレンジしていけること、どんな状況下でも柔軟に対応できること、という特長があると考えています。こうした特性を個人レベルから組織レベルへと引き上げたいのです。これが実現できれば、社風でもある組織間の互助文化とも相まって、さらに大きな進化が望めると思っています。マーケットやニーズの変化については、たとえばアジアにおける生理用品などで見て取れます。大きな流れとしては欧米化へと進んでいます。ただし、気候も習慣も経済状況も異なりますから、先進国と同じ手法をとることが正しいとは限りません。そこで、小さな単位のチャレンジと試行錯誤が必要となってきます。その試行錯誤をユニ・チャームとして互いにサポートしながら進めていくことにより、今そこに暮らす人々にマッチしたライフスタイルをお届けしたいと思っています。その結果として弊社の業容がさらに広がっていければいい、そう考えています。

新たな事業領域への参入についてはどうでしょうか。また、その際の、ブランドの柔軟性や拡張性については、どのようにお考えでしょうか。

ビジネスにおいて最も重要なことは、自社の最大の強みを活かしていくことです。それを踏まえて、誰が顧客となり、どう戦っていくのかを考えていくことが必要です。弊社の強みは“不織布・吸収体の加工・成形技術”です。これを使って、どこでどう戦っていくべきか。それは、マーケットの拡大が見込める新興国ですし、とりわけアジア諸国が中心となります。南米やアフリカも視野に入れていくことになるでしょう。いずれにしても、不織布・吸収体技術を活かした商品カテゴリーから逸脱することはありません。そのうえで、新しく生まれる市場には積極的に進出していきます。そういう意味では、我々の真のグローバル化は、まだこれからなのかも知れません。新興国における紙おむつや生理用品の普及率の高まりは、メガトレンドとして予測されています。マーケットは見えています。あとは、どれだけ同時多発的に顕在化する需要に、商品をタイムリーに供給できるかだと思います。

最重要地域と位置づけるアジア、南米、アフリカでの展開において、ブランディング戦略上の課題はありますか。

世界全体で77億人。そのうち40億人はアジアにいます。ですから最も注視している地域としてはアジア、国では中国とインドです。もちろん、それ以外のASEAN諸国やメコン川流域にも人口は多いですから、そうした地域では弊社の商品がカテゴリーの代名詞になる可能性があると考えています。中東に関しては政治的なリスクもありますが、米国企業が進出しづらいという背景がありますから、こうした地域でも可能性があると思っています。また中東は、女性の社会的自立が遅れているといわれている地域です。そこでサウジアラビアのリヤドに現地の女性が安心して就業できる女性だけの工場をつくりました。男性と女性の行き来を完全に分けなければならず、生産性も良いとはいえないのですが、効率よりも女性の自立への支援や、現地雇用の機会創出を重視しています。

約8億人の人口を持つアフリカも、出生率の高さからマーケットとしての魅力を感じています。紙おむつの普及で、乳幼児の死亡率減少などにも貢献したいと思います。課題があるとすれば、“商品を使うことの価値をどう伝えていくか”ということでしょう。新興国における生理用品のブランディング活動では、現地NPOと一緒に行っています。村々を廻り、正しい初潮教育を啓発しながら、女性の生理とは何か、その意味や生理用品の種類や使い方などについて、手間と時間のかかる地道な作業ですが大きなやりがいを感じて活動しています。

スマートフォンなどの新しいデバイスや、SNSなどの新しいサービスを使用した顧客とのコミュニケーションについてはいかがでしょうか。

これからのブランディングを考えると、非常に重要なことだと考えています。ただ実績としては少なく、これから本腰を入れて展開していくという段階です。インターネットやモバイルは、先進国でも急速に発達し、かつ現在も進化しています。トレンドを掴むという意味からも、常に最新の状況をキャッチアップする必要があります。口コミの大きな効果についても認識しています。中国のようにネット上の口コミに影響を受ける反面、購入はリアルの店舗からというような、口コミと購買行動に地域性があることも承知しています。重要なのは、何を目的にSNSやビッグデータを使うのかについて、明確にすることです。インターネットやビッグデータの活用は多くのことを示してくれますが、その真贋については判断できません。ですが、見方を変えることで、違うメリットを見いだせるとは思っています。つまりビッグデータの活用は、“少数の特異な兆候を見つけることにも使える”ということです。そして存外、その特異な意見や行動こそ、新しい価値創造のきっかけになる可能性があると思っています。こうした微かな兆しを、取りこぼさないようにしていきたいです。

気候や生活文化の異なるお客様へのブランディングは、それぞれに特色あるものになるのでしょうか。

たとえば“肌感覚”というのは、同じアジアでも国によって異なります。日本人にとってはやわらかくても、逆にかたいと感じる人もいます。ですので、そうした表現のコンセプトなどについては、現地の制作チームに委ねています。ブランドが約束する中核の部分や、ブランドサイトの基本構造などについては、四半期ごとに日本で監修しています。

ビジネスモデルの在り方としてはいかがでしょうか。先進国と新興国では方法も変えていらっしゃるのでしょうか。

大切なのは、いかに効率的な認知経路を探し出すかです。カテゴリーや、展開する地域や国、ターゲットの年令などによっても違ってきます。ですからビジネスモデルの確立においても、小さな単位での試行錯誤によって効率的な認知経路の発見とその精度の向上が必要だと思っています。新興国では、やはりテレビ媒体が強いです。生活者には、テレビ広告をする企業は大企業であるというストレートな思考があります。流通戦略上でも有利に働き、安心感や信頼感をつくるのにも役立っています。インターネットを利用したビジネスモデルの開発にも関心をもっています。新たなチャネルへの取り組みは積極的に行うつもりです。

ブランド責任者(CMO)という役職は、設けていらっしゃらないのでしょうか。何か積極的な理由があるのでしょうか。

統括の責任者としては、マーケティングセクションの本部長がそれにあたりますが、CMOという呼び方はしていません。経営陣がブランディング戦略に関わることが多いためで、同様の理由でCIOやCTOなどの役職も設けてありません。

社長がCMOを兼任している形になっておられますが、今後重要になってきそうなこと、ブランドとして叶えたいことなどはございますか。

ブランドが提供していく価値に変化が出てくるとすれば、高齢者マーケットに関することでしょう。シルバー世代やプラチナ世代、グランドエイジといった言葉がつくられ、前向きに捉えられ始めています。私は、さらにそこから一歩進めて “共生社会の実現”というキーワードを浸透させたいと思っています。ユニ・チャームは、乳幼児からお年寄りまで、まさに老若男女、家族としてのペットを含めて、すべての世代と接点を持つ商品を扱っています。みなさまと一緒に生きていくということが、長寿社会の到来した国々では特にできると思うのです。大人用紙おむつを、入れ歯や老眼鏡と同じ感覚で、“大人下着”として着用していただき、旅行やアウトドアなど若いころと同じようなライフスタイルを過ごしていただきたい。これは、ライフリーが提唱してきた“「寝たきりゼロをめざして」を実現した社会”、そのものです。共生社会で必要なのは、人と人の交流です。高齢者やハンディキャップのある人でも普通の生活を続けられるように社会全体でサポートしていくという、“ノーマライゼーション”という考え方があります。弊社や、経営者としての私が、共生社会実現のためのキーワードを発信・体現していくことで、ノーマライゼーションの一助となりたいと考えています。これは、経営理念『NOLA&DOLA』とシンクロする部分だと思っています。高齢社会は、新興国でも必ず起こる未来です。日本で成功モデルを確立し、新興国が同じ課題に直面したときに国境を超えて対応していきたいのです。ブランドの役割とは、人々の生活スタイルを変えたり、必要なことに適合したりしていくことです。子供用紙おむつや生理用品は、欧米のメーカーが使い方や着け方のなどの基本をつくりました。しかし大人用紙おむつにおいては、私たちがその任を担えると思うのです。特にアジアの新興国に対しては、似た体格や生活様式の私たちこそが牽引していくべきだと考えています。世界中の人々のより快適な暮らしに、将来にわたって貢献していけるブランドになっていきたいと思います。

高原 豪久

高原 豪久
ユニ・チャーム 株式会社
代表取締役 社長執行役員