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トップ インタビュー

伊藤 秀二

カルビー 株式会社
代表取締役社長 兼 COO

※役職名は、Japan’s Best Global Brands 2014インタビュー当時のものです。

“何かに固執していては、約束を守り続けることはできない”。これを言い換えると、約束を守っていくためには私たちは絶えず変化していかなければならない、ということになります。これは頭で理解できても、実行することは容易なことではありません。しかし、その場から動き変化していかなければ、ブランドは鮮度を失い “年をとっていく” だけの存在となってしまいます。

いま注目されているブランドや、刺激を受けているブランドを挙げていただけますか。また、その理由についてお聞かせください。

個人的に自動車のブランドに関心があるのですが、その中で言いますと、独車においてまずBMWが新しいブランドを展開し始め、その後アウディが革新的な動きを見せ、そして最近はメルセデス・ベンツが活性化した動きを見せているように思います。旧来からの変革と、変わることのないメルセデス・ベンツらしさ。この両方をうまく融合させている印象があります。たとえば、AクラスやBクラスなどの新しいカテゴリの投入とともに、時代を反映させながら“らしさ”を守る伝統のCクラスやSクラスなども大切にしていくというようなところ。こうした変革と継承の考えは個別のプロダクトにも反映しており、デザインも世界戦略と融合していて上質だと感じます。

自動車以外のブランドで、ご関心をお持ちのブランドはございますか?

アップルに注目しています。これまでのブランド構築もさることながら、プロダクトがある程度成熟し、さらに象徴だったS.ジョブズを失い、今後アップルというブランドがどうなっていくのか。先へ進む推進力という部分では多少の減衰があるとも言われていますが、それを覆すことができるのかどうか。また、こうした状況の中で、日本の企業がそれに代わることはできるのか。できないのであれば、それはなぜなのか。突破口は何かしらあるはずだと、考えています。

「リーダーシップを持っているブランド」、世の中をけん引するブランドというのは、どのようなものだと思われますか?

その質問にお答えするには、ブランドというものをどう捉えるかという定義のようなものが必要になってくるように思います。個人的には、『約束』と意訳できるのではと考えています。つまり、ブランドとはお客様と交わす約束だということです。そうした観点からみると、リーダーシップのあるブランドというのは、お客様との約束を真摯に守っているブランドであり、その約束というのは、明文化されていたり、画一的に定義されていたりするものとは限らないと思います。しかし、約束をしっかりと守り続けているというブランドを、“強さを持っているブランドである”と言いうことは差支えないように思います。先ほど例に挙げたメルセデス・ベンツも、守るべきところは継承しながら、新しい要素も絶えず加え続け、ブランドの約束を果たしていると思います。私が惹かれている理由もそのあたりにあると思います。

カルビーという企業からの視点でメルセデス・ベンツやアップルから学ぶべき点について考えると、どんなところが参考になるとお考えでしょうか。

私は2006年から3年ほど、CMO(Chief Marketing Officer)に就いておりました。在任時から現在まで、カルビーというブランドはお客様に何を約束できるのだろう、約束をどう守っていくべきなのだろうということを、ずっと考えています。そこで1つの結論のようなものが見えてきたのですが、それは“何かに固執していては、約束を守り続けることはできない”ということです。これを言い換えると、約束を守っていくためには私たちは絶えず変化していかなければならない、ということになります。これは頭で理解できても、実行することは容易なことではありません。しかし、その場から動き変化していかなければ、ブランドは鮮度を失い“年をとっていく”だけの存在となってしまいます。弊社にはいわゆるロングセラー商品がいくつかございます。おかげさまで、「かっぱえびせん」は今年で発売50周年となりますが、皆さまから、変わらぬ美味しさだと言っていただいております。しかし実際には、幾つもの変革を続けてきた商品です。私たちが常に変化することによって、皆さまに商品の変わらないイメージを持っていただけている例だろうと思っています。
また、弊社では、従来からコーポレートブランドよりも、各プロダクトブランドの方が定着しておりました。逆に言うと、プロダクトブランドの積み重ねが、コーポレートのイメージをつくってきたというようなところがあったのです。しかし、それだけではいけないと考え、2006年頃からコーポレートブランドの確立にも力を入れるようになりました。カルビーの社名は、カルシウムの“カル”と、ビタミンB1の“ビー”を組み合わせた造語です。ローマ字表記なので、そのままグローバルにも持っていくことができ、自画自賛のようですが非常に良い名前であると考えています。今ではそうした社名の由来をご存知の方も増えてまいりましたが、近年までは知る人ぞ知る、というような話でした。こうしたところを含め、プロダクトブランドとは別に、コーポレートブランドについてどのようにコミュニケーションするべきか、検討を続けています。先に挙げたメルセデス・ベンツやアップルなどは、コーポレートブランドの打ち出し方という面でも、大変参考になるところが多いように感じています。

市場や、顧客のニーズ・行動は、どのように変化してきているとお考えでしょうか。また、御社はそうした変化に応えるために、どのようなことを重視し、実施されているのでしょうか。

国内のお客様においては特に、安全や安心感へのニーズは高まっているように感じます。弊社が取り扱う商品は食品ですので、これは当然と言えますが、食の安全を揺るがす事件や事故が社会で報道される度に、安全や安心を求める厳しい目が弊社にも注がれていることを感じます。プロダクトブランドのレベルで安全面を担保することはもちろんですが、深まるお客様のニーズにお応えしていくためには、美味しい、リーズナブル、楽しい、といったプロダクトのコンセプトをつくり、しっかりと守っていくだけでなく、コーポレートブランドでそれらの大前提である安全・安心を感じていただくことが必要で、この約束は決して違えて(破って)はならない非常に大切なものであると考えています。また、生活者のライフスタイルの変化という意味では、毎日の暮らしの中でパーソナルな時間が増え、一人ひとりの生活者が、“個”であることに価値を見出しているように感じています。昨今のSNSなどさまざまなツールが急速に広まっているのもこの流れと関連しているように思いますし、コーポレートブランドの変革は、こうしたお客様の変化にお応えするためのものでもあります。過去の調査でも、「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」、「じゃがりこ」などは、認知度も高く、「美味しい」「安い」「楽しい」などのキーワードが挙がっていました。
また、弊社は、“Whole foods.”という考えかたで、自然の農産物になるべく手をかけず、いかに自然のままの美味しさを表現するかということにこだわってきました。しかし、一方で「スナック菓子」カテゴリーの一般的なイメージは必ずしも良いものではなく、このままでいいのか、という思いがありました。この、私たちの商品との間のギャップをどう埋めるか。そこで思案したのが、カルビーのロゴマーク上に『掘りだそう、自然の力。』という企業理念にも合致するコーポレートメッセージを置き、コミュニケーションしていく、ということでした。とかく食品会社発信のメッセージは、健康の実現というようなことになりがちです。もちろん弊社もその考えに賛同しておりますが、弊社に対するお客様のリクエストは、それよりも少し手前の、自然な栄養や素材そのままの味が欲しい、といったところなのではないかと認識していたのです。そこで商品のコミュニケーションについても、検討しました。従来のロングセラー商品だけでなく、新たな顧客層への商品として開発したフルグラ(発売時名:フルーツグラノーラ)など、カルビーの商品は素材の良さをそのまま活かしている、というファクトを、ここ数年メッセージし続け、試食販売などを通じ、お客様接点を拡大してきました。ポテトチップスのパッケージ裏面には、原材料の産地や畑、生産者まで追跡できる二次元バーコードも入れています。また時代にマッチした新しい商品の拡充も図るなど、一連の活動が徐々に実を結び、お客様からの印象も、スナック菓子のマイナスイメージより、自然をそのまま活かしている食品、という評価へと次第に変わっていったように思います。いわゆる“食育”という分野も積極的に行っています。主に全国の小学校へ出張授業の中で、“おやつの正しいとりかた”や、農産物が食品として食卓にのぼるまでの過程などについての理解をより深めていただくことを目的にスタートし、2003年以来、約30万人の生徒さんにご参加いただきました。これもまた、食品を扱う企業としての責任あるコミュニケーションの一つであり、また、お客様との約束を果たすためのアクションの一環だと考えています。

御社の伸びしろは、素材を活かせる自然の恵みがある限り続いていくということになりますでしょうか。すると、軸となる原料は、今後も野菜や果物が中心となっていくのでしょうか。

そうですね、野菜・穀類・フルーツ、一部の海産物などが、主な素材となるでしょう。弊社には、原料から水分をなくすノウハウは精度の高いものが蓄積できておりますので、そうした製法で加工できる素材があるうちは、このまま続けていけるだろうと考えています。しかし単純に乾燥させれば良いという訳ではなく、美味しさの要素でもある“心地良い食感”を創りだすことがとても大切です。この点は、他社には真似のできないストロングポイントだと思っています。低温でじっくりとフライした「堅あげポテト」など、同じ馬鈴薯を原料としても、作り方を変えるだけで、まったく違う新しい美味しさができあがります。お客様の多様なニーズにも、このような取り組みで細やかに対応していきたいと考えています。

御社がグローバルに事業を展開されていくうえで、現在認識されている課題点は何でしょうか。

ひとつは、“時間”だと考えています。短期間のうちに、グローバルで市場展開をしていこうというのは、やはり簡単なことではありません。発売から50年をかけて、「かっぱえびせん」のイメージが定着してきた日本の環境とはまるで違います。製品がお客様に満足していただける域にまで達していても、ブランドとしては無名であることは、大きなビハインドです。そのギャップを埋める手立てを考えなければなりません。例えば、進出する地域でメジャーとなっている企業と、JVで展開していくことなどは検討できるでしょう。実際に中国でJVを展開していますが、パッケージには両社のブランドロゴが同居するデュアルブランドになっています。これを生活者サイドから見た場合どう映るのか、この方式で弊社のブランド認識や価値が高まっていくのかなど、なかなか難しい問題も多いです。さらに新興国では、日本では長い時間をかけてお客様の生活に浸透、変化していった小売業が、まったく一瞬のうちに発展し、またファストフード文化もあっと言う間に流入していきました。時間をかけて成長してきた日本のここ何十年かのすべてが、一気に入ってきているのです。そうした環境の中でブランド認知の向上を図り、商品を定着させていくのは本当に一筋縄なことではありません。生活者の目線で考えれば、膨大な選択肢はあっても限られたお金しか財布には入っていないという状況ですから、必要不可欠なもの、代わりの利かないものから手に入れていくことになるでしょう。私たちはオリジナルな商品をつくるノウハウを持っていますから、そうした技術力で新興国の生活者とファースト・コミュニケーションをとっていきたいと考えています。「独特の食感」という技術力に、カルビーというロゴがついていた。そのカルビーが第二・第三の矢を放っていく・・・というようなイメージで浸透していくことを考えています。
また、先進国での展開は、ある程度日本の市場と似ているところがありますので、現地生活者の嗜好に合わせた商品をきっかけに、コーポレートブランドの認知を上げていければと考えています。たとえば、えんどう豆を原料とした商品は、北米市場では健康志向と相まってシェアを大きく伸ばしている商品となっています。先進国では国民性や生活習慣、時代背景などに大きく影響されますので、それらをいち早く把握し商品展開していくことで対応していきたいです。

コミュニケーションについてお尋ねします。マスメディアで展開するキャンペーンを実施し、生活者を店舗へ向かわせるという流れが従来の主流でしたが、インターネットやデバイスの進化、SNSなどの普及による影響についてはどうお考えでしょうか。

新しい手法での展開は、少し遅れているように思います。TVなどへの広告出稿も昭和40年代がピークで、投下した費用額も他社様よりも少ないのではないでしょうか。現在では、小売店など販売の現場が、お客様とのコミュニケーションの大部分を占めていると考えています。その代わりとまでは言えませんが、お客様との関係、ご対応という観点では、弊社の『お客様相談室』は充実し、胸を張れるものであると考えています。これは2002年ごろに大きく変革をさせたものの一つです。お客様相談室は、いわゆるクレームをお受けする窓口で、一般的に、それまでメーカーの対応というのは、言うなれば“処理”であったように思います。しかし我々は、まったく考えかたを変えました。クレームをお寄せいただいた全てのお客様へ、営業担当者を訪問させることにしたのです。お得意様よりもお客様へのご訪問を優先せよ、というくらいの大きく強い転換でした。社内には、どれだけの訪問数になるのかなど不安の声も聞かれましたが、実際には想定したものよりも、ずっと少ないものでした。また、弊社へ返送をお願いしていた不良品の対応も、営業担当者が取りにお伺いする形へ改めたのです。するとお客様は、そこまでの誠意があるなら来訪の必要はないと仰っていただくことが多くなり、実際にご訪問したお客様にアンケートのご協力をお願いすると、“また弊社の商品をご購入いただけますか”という問に、当初70%程度だった「はい」のご返答も、近年では90%以上のお客様に認めていただけるまでになりました。
こうした取り組みは、お客様とのコミュニケーションの絆の強さを表すものと認識しています。お客様相談室には年間で5万件ほどの声を頂戴しておりますが、本来的な意味でのクレーム・苦情(当社ではご指摘と呼んでいますが)の件数というのは、全体の20%程度しかありません。残りのほとんどは、最寄りの小売店に関することや、商品についてのご質問、キャンペーンについてのことなど、どちらかと言えは商品や弊社への応援であったり、こうしたら良いのではというようなご提案であったりしています。このようにお客様との間では、ある程度の地固めができたように感じており、いよいよこれからSNSなどの展開をという時期に差し掛かってきました。ですから、遅れているものの、焦ってはおりません。お客様との関係がきちんとできないうちに新しい方法論をとっても、結局手探りの運用となってしまい、決して効率的ではないと考えているのです。

伊藤 秀二

伊藤 秀二
カルビー 株式会社
代表取締役社長 兼 COO