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ブランドリーダーズ インタビュー

橋本 誠一

キリン株式会社
常務取締役 CSV本部長

※部署名・役職名は、Japan's Best Global Brands 2014インタビュー当時のものです。

大事なのはブランドの根底に、企業のぶれない価値観があるということです。その価値観に共鳴したお客様が、「自分のブランド」だと思ってくださるのではないでしょうか。

御社は将来の成長のために、どのようにしてブランドの基盤を構築・強化していますか?

昨年1月にキリンビール社、キリンビバレッジ社、メルシャン社による総合飲料事業で、「ブランドを基軸とした経営」を一体的に推進するために、キリン株式会社を設立しました。背景には市場の成熟化があります。市場が拡大していたときは、それぞれの事業が個別最適をめざしても機動性のメリットが上回りましたが、現在のように成熟した市場では、全体最適の視点が重要です。企業ブランドを核として求心力を高め、価値創造の組織能力を高めていきたいと考えています。

市場や、顧客のニーズ・行動は、どのように変化してきているでしょうか?
また、御社のブランドはそれらを予測し変化に応えるために、どのようなことを重視し、実施していますか?

いろいろな面で、お客様の意識は大きく変わってきています。その一つに、特に東日本大震災以降、社会問題を自分ごととして捉える人が増えていることがあげられます。その結果、企業もどういう価値観や哲学を持っているかを問われる時代になった。CSV本部を新設したのも、一つにはそれが理由です。CSVはこれまでのCSRを一歩進めたもので、社会的価値と経済的価値を同時に実現しようとする経営戦略です。このCSVを推進するCSV推進部と、企業ブランド構築を推進するブランド戦略部をCSV本部に置いています。社会課題への取り組みを、企業本来の価値創造活動として「ブランドを基軸とした経営」の中に位置づけ、実践するためです。私達にとっても、震災は企業の社会的な存在意義に正面から向き合うきっかけになりました。これからは事業との関わりを踏まえて、社会課題に継続的に取り組み、新たな商品ブランドの創出や、企業ブランドの強化につなげていきたいと考えています。

御社では、進化していくブランドを、顧客に「自分のブランドだ」と思われ続けるようにどのようにアピールしていますか?

「お客様と共に価値を創る」ということが鍵だと思っています。例えば昨年、福島県産の梨を使用した「氷結 和梨」というチューハイの新商品を出しました。原発事故の風評被害に苦しむ福島県の農業を応援する意味合いをこめた商品です。「氷結」は私達の基幹ブランドの一つで、経営の本質的な課題として取組みました。ナショナルブランドで福島県産の原料を前面に打ち出した例は少ないと思います。期間限定の商品でしたが、幸い販売は好調で、全国でご支持をいただきました。もちろんそれだけが理由ではないでしょうが、多くのお客様が同じ問題意識を持ち、賛同していただいた結果だと思います。お客様と課題を共有し、共に価値を創るという意味で、CSVはブランド構築の課題でもあります。こういうところからブランドの新しい潮流が生まれるのでは、という予感を持っています。もう一つ、ブランドというものは、誰からも愛され、評価されるというわけにはいかないという覚悟が必要です。例えば社会的価値と言っても、社会問題の認識は人によって違います。大事なのはブランドの根底に、企業のぶれない価値観があるということです。その価値観に共鳴したお客様が、「自分のブランド」だと思ってくださるのではないでしょうか。

同様に、社員に対してその変化を共有・理解し、行動させるようにしていますか?

昨年、各事業会社の経営理念を統合する形で、国内綜合飲料事業の理念を明文化しました。この理念を浸透させるために、インナーブランディングを進めており、CSVの考え方についても理念に紐付けて浸透を図っています。商品ブランドを育てるのも、CSVを実践するのも、バリューチェーンの現場です。従業員全員が理念に共感し、主体的に実践しなければ、外から見たキリンはばらばらになってしまう。私達の「ブランドを基軸とした経営」は、組織能力の強化を通じて価値創造を推進し、企業ブランドの強化をめざしていますが、組織能力の基盤は企業文化です。お客様本位が根付き、創造性の発揮を促す企業文化を醸成するために、社内へのコミュニケーションに力を入れています。もちろん一番大事なのは、トップの覚悟が伝わることです。国内の綜合飲料事業には2万人の従業員がいるのですが、社長が全国を回り、何時間もかけて考え方や気持ちを伝え、率直に意見を出し合う対話集会を、昨年以来80回近く実施しています。

スマートフォン、SNS等の急速な普及をはじめ、近年のコミュニケーション環境の劇的な変化の中で、御社のブランドと顧客のあいだで、どのように「真のつながり」を築くことができると思われますか?

今年の一月に従来のWEB推進室を発展させる形で、デジタルマーケティング室を立ち上げました。これまでもSNSでの情報発信などに力を入れてきましたが、もう一歩先に行く必要があると考えました。お客様の興味やメディアの特性に応じたコンテンツの開発、それに高速のPDCAを回すことが目的です。デジタル世代のお客様は、必要な情報に自由にアクセスし、自ら情報を発信するお客様です。定型的なブランドのメッセージを繰り返し伝えるだけでは何も起こりません。お客様がシェアしたいと思うようなコンテンツを制作し、多様なメディアを駆使した双方向のコミュニケーションの中で、お客様とブランドの長期的な関係を作ることをめざしています。デジタル化が進むことで、ブランディングが変わり、ブランドの価値のありかたも大きく変わっていくことは間違いありません。その時にも大切なのは、「価値とは何か」を考え抜くことで、それはこれからも変わりません。それには会議室で議論していてもだめで、お客さまと課題を共有し、夢をシェアすることが大事です。CSVにしても、組織は作ったものの、実際にはキリンのような「飲みものの会社」が社会問題にどういうソリューションを提供できるのか、それがどれほど大きな価値になるのかを模索している段階です。今も専任のチームが東日本大震災の復興支援に取組んでいますが、キリンのバリューチェーンが被災地の将来の発展にどう役立つのかを現場で考えています。そういう中から、これまでにない価値を生み出していけたらいい。商品に近いところで言えば、例えば「乾杯」ということ一つをとっても、人によって、状況によって、さまざまに異なる意味や気持ちがこめられています。そこからブランドのユニークな意味を作りこんでいかなければならない。一人ひとりのお客様を深いところを理解することが一番大切で、ビッグデータも個としてのお客様をより深く理解するためのデータです。結局、私達がどれだけお客様に共感できるか、お客様の実感を共にできるかですね。その先に生まれる価値が、お客様との「真のつながり」を築くのだと思います。

Googleが単なるサーチエンジンの域を超えてビジネスを拡大させたように、今後の新たな事業領域への参入の可能性やブランドの柔軟性について、どのようにお考えでしょうか?

これからは、今あるものを磨き上げたり、既存の市場を見渡して何か足りないものを補うというようなことを続けていても、もはやビジネスは拡大できないと思っています。例えばビールのベネフィットも、どういうシーンに、どういう形で、どういう方法で提供するかといったことまで含めて、新しい発想で一から考えれば、ビールでありながらビールでない、これまでのビールとは全く違うサービスが生まれるかもしれない。既に、若手社員を集めて、一切の制約条件をなくして新価値創造を模索する「アイディアラボ」という活動や、デジタルメディア上でのお客様とのやりとりを通じた新たな切り口の探索など、さまざまな試みを始めています。

橋本 誠一

橋本 誠一
キリン株式会社
常務取締役 CSV本部長