Best Japan Brands 2018 Article Vol.2

ブランディング10年の変化

インターブランドジャパン
シニアクリエイティブディレクター 松尾任人

インターブランドジャパンは、2009年に初めて「日本発のグローバルブランドのランキング」としてJapan’s Best Global Brands を公表した。日本市場が少子高齢化により縮小に転じる中、世界共通のモノサシでグローバルのリーディングブランドとの比較をすることで、グローバル市場でブランド価値を高めるという視座を提示しすることが、その目的であった。今回で10回目の節目となるランキング発表の機に、この10年間の「ブランド」という概念の変化を検証したい。



世界はどう変わったか?

ブランドという概念の変化

ブランドとは何かという問いに対して、エンブレムやイメージ を指すわけではないという解は今や常識だが、ブランドの持つ意味、ブランディングの主題は常に変化してきた。
第一のフェイズが、ロゴやネーミングによる識別や差別化の「アイデンティティ時代」。第二のフェイズが、スタイルやトーン&マナーによる表現のクオリティを重視する「価値の時代」。第三のフェイズが、顧客との接点を重視する「体験の時代」。
そして今、ブランドの体験はさらにパーソナルなものになり、次の第四フェイズが到来しつつあるのではないかと考えている。


各フェイズにおけるブランドの役割とブランドコミュニケーションの戦略視点


ブランドランキングに見る変化

10年前を振り返ってみると、確かに「体験」はブランディングの重要課題になりつつあった。インターブランドのブランドランキングにおいてもリテイル、ラグジャリーカテゴリーの価値伸長が著しく、ブランド価値を最も高めた、Starbucks、Zara、H&M、BMW などリアルな顧客接点での体験を高めていったブランドが話題だった。
その後直近の10年は、こうしたブランドに加えてGoogle, Amazon, Facebookなどのプラットフォーマーのブランドが急伸している。デジタルの顧客接点が主戦場のブランドである。こうしたブランドはそのプラットフフォーム上のインターフェイスこそが顧客接点であり、ブランド体験は常に顧客のすぐ傍にあり、顧客に最適化されたパーソナルな体験を創り出している。
これらの新興ブランドは、ブランディングの意味そのものも変化させている。Best Global Brandsにランキングされている巨大企業の多くが、こうした新興ブランドに呼応するように軽やかに変化し、ブランディングのアプローチを進化させている。Appleはその筆頭でリアルもデジタルもその体験を日々進化させているし、IBMや、GEは、ブランドのメッセージやそのルック&フィールが、最先端のベンチマークとして常に取り上げられる。Best Global Brands 2017 のランキングTop3の、Apple, Google, Microsoft はこの10年でアイデンティティそのものをこの時代に相応しいものに変化させている。我々はこうした世界に居るのだ。




日本ブランドは変ったか?

ブランディング= 商標管理?

ではこの10年で、日本ブランドは変わったか?この10年、グローバルに進出するブランドは確実に増えたが、私の知る限り、多くの日本のリーディング企業のブランド部門は、ロゴやネーミングなどの商標の管理を主なタスクとしてきた。ガバナンスの範囲もロゴの使用に限られ、運用するガイドラインはCIマニュアルの類のものが中心的役割を果している。そのことが、「日本ブランドは顔が見えない。」「個性が無く、伝え方も上手くない。」という海外からの評価に繋がっている。



変わりつつある日本のお家芸ブランド

Best Japan Brands ランキングが始まって以来、今日までその上位にあるのは常に自動車・エレクトロニクスのブランドであった。これらのカテゴリーで、この10年ブランドの個性や伝え方を格段に進化させているのが、 Subaru、そして Mazda である。これらのブランドのコンセプトは、他社にはない、絞り込まれエッジが立った明確なものである。そして、絞り込まれたコンセプトに根ざした商品開発のみならず、ルック&フィールも明確に方針が定められている。そのことで顧客が得るブランド体験もきわめて個性的でかつ美しく、それぞれのブランド価値はこの数年大きく伸長している。




世界へ拡大した日本ブランドの進化

10年前のリーマンショックで世界経済は大きく減速した。しかし相対的に投資余力があった日本企業は、少子高齢化が始まりつつあった日本から、海外へ投資先をシフトしていった。こうした企業では、文化の異なる新しいパートナーとの間で、ある日突然ブランドマネージメントを行うことが求められる局面に立たされる。それ以前はロゴやネーミングなどの商標の管理が主な仕事だったものが、ブランド体験をマネジメントし、向上させることを投資先から求められることになる。ルック&フィールを既存のCIマニュアルに加えるなど、ロゴから体験へシフトする動きが増えてきたのはこの頃からである。
こうした時代を経て、現在「日本のグローバルブランド」にランクインしている企業40社のうち少なくとも10社以上はこうした進化を果たしている。

日本ブランドの未来の可能性

Best Global Brands ランキングでプラットフォーマーの新興ブランドがランクインし、そのブランド価値を大きく向上させていったように、「日本のグローバルブランド」ランキングでここ10年大きな伸張を見せたのは、Uniqlo, Muji といった製造小売業ブランドである。この二つのブランドは、店舗というリアルなブランド体験の場が重要な顧客接点であることは自明だが、プロダクトや広告コミュニケーション以外に、こうした接点での体験にも、最高のクリエイティブを投入し続けている。さらにオンライン上での顧客体験の進化にも余念がない。Muji では「顧客時間」という概念で、ブランドと接する時間をより能動的なものに変えていく試みを行っている。
第四のブランドのフェイズ、ブランドの接点が常に顧客の傍にあり、顧客に最適化されたパーソナルなブランド体験の創造が求められる時代、こうした日本のサービス業の感性が世界のブランドのゲームチェンジャーになることを期待している。