
Best Japan Brands 2018 Article Vol.1
ビジネスとブランドの持続的な成長の核心
―Best Japan Brands の10年からみるグローバルブランド成長の考察―
インターブランドジャパン
エグゼクティブディレクター 中村 正道
ディレクター 出張 光高
Best Japan Brandsランキングと日本ブランドをとりまく環境の変化
インターブランドジャパンは、2008年に端を発したリーマンショックが日本経済に深刻な影響を及ぼし始めた2009年2月、「日本発のグローバルブランドのランキング」としてJapan’s Best Global Brands(JBGB) 2009を公表した。今回で10回目の節目となるBest Japan Brands 2018発表の機に、本ランキングを通して日本ブランドとグローバルブランドの10年を俯瞰し、ビジネスとブランドの持続的な成長を考察したい。
Best Japan Brands 2018: https://www.interbrandjapan.com/ja/brandranking/
Best Global Brands 2017: http://interbrand.com/best-brands/best-global-brands/2017/
折しも2008年は日本の総人口が初めて減少に転じた年であり、私たちは、少子高齢化が進行する日本市場のみならず、いかにグローバル市場でブランド価値を高めていくかという視座を提示し、世界共通のモノサシでグローバルのリーディングブランドとの比較をすることを目的に、海外売上高比率が30%以上の日本発のブランドを対象に「日本のグローバルブランド」のTop30のブランド価値を公表した。 その後2011年より、海外売上高比率が30%未満のブランドを対象としたJapan’s Best Domestic Brands(JBDB)のTop30ブランドを発表、2016年より各ランキングを40ブランドに拡大し現在に至っている。(図1)

その間、2010年に中国がGDPで日本を上回る経済規模となり、2012年の第二次安倍内閣発足後の円安基調の中、緩やかな景気上昇局面にあったのがこの10年の日本ブランドが置かれた環境である。そして今、デジタルテクノロジーの進化を背景に進む大変革によって、従来の安定したルールが、業界だけでなく個人の生活や社会の構造にも適用されなくなりつつある。この変革の中で、今後日本ブランドはどのようにして成長を持続させることができるだろうか。
グローバル市場で収益を稼ぐブランドが成長した10年
まず、この10年で「日本のグローバルブランド」はいかに成長したか。JBGB2018 のTop30ブランドの合計ブランド価値金額をJBGB2009と比較すると、約40%の成長を達成したことが確認された。この間にUNIQLO, Yakult(2015年), MUFG(2016年), MUJI, Tokio Marine(2017年), Mizuho, SMFG(2018年) の「国内ブランド」 が、そのブランドを冠した事業の海外売上高比率を30%以上に拡大することでグローバルランキング入りを果たし、日本ブランドのグローバル化の加速が示されている。
国内主要ブランドがグローバルブランド入りしたため単純比較は難しいが、JBDBのTop30ブランドの合計ブランド価値金額が、2011年との比較においてほとんど伸長していないことや、この間の日本の経済成長が4%程度であった点を考慮すると「日本のグローバルブランド」の成長性の高さは顕著であり、この間の日本経済の牽引役であったと言える。(図2)

日本ブランドを凌駕するグローバル・リーディングブランドの成長性
「日本のグローバルブランド」が成長したこの10年、世界はどうであっただろうか。同じ期間に重なるBest Global Brands(BGB)の 2008年と2017年を同様に比較すると、BGB2017 のTOP30ブランドの合計ブランド価値金額はBGB2008に対して約68%の成長を果たしており、その成長は「日本のグローバルブランド」を凌駕する。
BGB2017のTop10ブランドのこの10年の推移をみると、 Appleは2008年比1,242%, Amazonは同907%, Googleは同454%とそれぞれブランド価値を大きく伸長しており、Facebookにいたっては10年前にランクインすらしていない。グローバルのリーディングブランドの多くはこの10年間、異次元の成長を遂げている。(図3)

リーマンショック後10年の二つのブランドランキングは、プラットフォーマーを中心とした新興ブランドが生まれ続けるグローバルブランドと、未だ自動車やエレクトロニクスといった伝統的な主要産業にとって変わる新しいブランドの創出のない日本ブランドの現状を映し出しており、産業の新陳代謝が進まない日本の社会・経済構造も浮き彫りにしている。(図4)

ビジネスとブランドの持続的な成長をもたらすものは何か
大きく成長するブランドに共通する要素は何か。この10年の二つのランキングから何が読みとれるか。その解の糸口としてそれぞれのブランドが掲げる理念体系に着目してみたい。

図5は、縦軸に株価純資産倍率(PBR)、横軸にブランド価値をとり、直近のランキング(BGB2017, BJB2018)のブランド価値金額をプロット(対数表示)したものである。多くのグローバル・リーディングブランドが右上方向に位置し、市場や社会からの「期待」の大きさを反映する状況となっているが、その一方でBGBにランクインするグローバルブランドを含め多くの日本ブランドは左下にとどまる。
ブランドに対する市場や社会からの「期待」の根幹のひとつに、それぞれが掲げる理念などの中核概念があり、その明瞭さの違いが「期待」の差に表れている面があるのではないだろうか。
図の右上に位置するBGBの上位にランクインする主要ブランドの理念体系をみると、共通する傾向として、これらのリーディング企業の理念体系は、きわめて簡潔明瞭な規定となっており、かつブランドの独自性やビジネスとの関連性が高い傾向にある。
例えば、GoogleのMissionは”To organize the world’s information and make it universally accessible and useful.”「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて、使えるようにする」ことを存在意義としており、このフレーズを耳にしたことがある一般生活者も多いと思う。またFacebookは、”Give people the power to build community and bring the world closer together.”「人々にコミュニティ構築の力を提供し、世界のつながりを密にする」と2017年にMissionの変更を行っている。「これまで人々につながるためのツールを提供すれば世界は自然と良くなっていくと考えていたが、社会はいまだに分断されており、単に世界をつなげるのではなくそのつながりをより強めるための努力が必要だ」(マーク・ザッカーバーグ)という意図である。
持続的に成長するブランドの掲げる理念体系の特徴として、グローバル企業、日本企業ともに、「社会やくらしの変革・実現」をうたい、その具体的な内容や世界が明確化されており、多くが実際のビジネス活動に落としこまれている「社会変革型」か「社会課題解決型」であると指摘できる。(図6)

その一方で、多くの日本企業の理念体系は、類似する複数の項目から構成された複雑な体系となっているケースが多い。特に明確な「Vision」(あるいはこれに相当する理念項目)を示す事例が少なく、実現をめざす世界を示しているものは極めて稀である。また複雑な理念体系はグローバル化する事業体において、(外国語化のクオリティの問題も含めて)投資家も含めた社内外のステークホルダーへの理解が進まず、ブランドへの「期待」につながりにくい状況となっている。
ブランドが掲げる理念体系は、インターブランドのブランド価値評価モデルでは「ブランド強度」を測る10指標の一つである「Clarity(概念明瞭度)」の評価の中核をなし、ブランドマネジメントにおけるまさに一丁目一番地にあたるものである。自社内で基軸となる概念が明確に定義、理解がされていないブランドは、その評価を持続させることが難しいが、Appleのように創業者によって「実現したい世界」をシンプルかつ明確に定義した理念が残された場合、創業者が去った後も、従業員をはじめ社内外のステークホルダーのブランドへの理解に揺るぎは生じにくい。
百年に一度と言われる大変革期において、ビジネスとブランドの持続的な成長をもたらすものは何か。それは技術やイノベーション、品質、環境対応といった手段(HOW)だけではなく、それらを駆使して未来にどのような社会や世界を創造するか(WHAT)をシンプルかつ明瞭に掲げること。明示する新しい世界が魅力に満ちている限り、そのブランドはすべてのステークホルダーから愛され続けるはずである。