
C Space
業界の「評判の悪さ」を逆手に取ることで輝きを見せるブランド
「ユニコーン」という言葉を耳にする時、すぐに思い浮かぶのは数十億ドル規模の目も眩むような成功を遂げた数少ないテクノロジー系スタートアップ企業だ。その一方で、同業他社からの注意を引くことなく、人々から多くの尊敬を集め素晴らしい成功を収めている別のタイプのユニコーンもある。
ここで取り上げるのは、消費者の評判が総じて良くない業界にありながら、消費者を引きつけ、獲得し、囲い込むことに成功しているという点で、テクノロジー系ユニコーンと同様に希少と言える企業についてである。
C Spaceの2018年にUS/UKで実施した調査を元にした「Customer, Experienced.」レポートで、最も多く批判を浴び点数の低かった業界には、通信、金融サービス、航空会社などが含まれていた。これらの全く異なる業種の共通項は、企業の大半が良く言っても「冷淡かつ無感情」、最悪の場合「残酷無慈悲」ですらあるという消費者の認識だ。消費者はこれらの業界のビジネスに自分たちがいつも騙され、無視されていると思い、しばしばお手上げ状態に置かれると感じているのである。
■ 「評判の悪い業界」の改革者たち
こうした消費者の辛辣な見方を背景に、T-Mobile、USAA、First Direct、Alaska Airlinesをはじめとするいくつかの企業は、それぞれの業界標準に対して改革の旗を掲げ、消費者の尊敬と支持を集めている。いずれのケースでも企業は消費者の声に熱心に耳を傾け、不満の解消に積極的に取り組むことで、業界の常識に対抗している。
■ T-Mobileの武器は「料金プランのわかりやすさ」
T-Mobile(ヨーロッパ、北米で移動体通信事業を展開するドイツテレコム子会社)にとっての不満の解消への取り組みは、料金プランや価格についての長く細かい注釈に顕著に見られる「分かりにくさ」や「曖昧さ」を糧に成長してきた通信業界に、「分かりやすさ」を導入することである。同業他社が分かりにくい仕組みによってビジネス機会を作り上げる一方、T-Mobileは分かりやすさという優位性を武器に、競合とは異なる種類の機会を生み出している。「WYSIWYG(what you see is what you get)」方式の料金設定のため隠れたコストがなく、すべての料金も税金も全てプランの見積もり料金に含まれており、消費者の疑心暗鬼を解消している。
顧客の声:「後から税金と追加料金が加算されるせいで、利用プランの請求金額が見積り額と違う(高い)ことがどれほど腹立たしいか、T-Mobileはよく分かっているようです。プランの金額がそのまま利用者が支払う金額なのはとても良いと思います!」
■ USAAとFirst Directが大事にするのは「人間として顧客と向き合うこと」
米国を拠点とするUSAA (軍人向け金融・保険会社)と英国のFirst Direct(HSBC傘下のオンラインバンキング)にとって業界の常識への対抗とは、思いやりや共感、つながりなどの「人間らしさ」を金融セクターに取り戻すことを意味する。同業者の多くが(機械学習やAIなどにより)技術的効率性の追求を加速していることや、拝金主義・詐欺などのスキャンダルが後を絶たないことも相まって、消費者は自分たちが取り残されていると感じている。そんな中USAAとFirst Directは人間の素朴なつながりの力を巧みに利用している。顧客一人ひとりのコンタクトポイントを単に取引の場ではなく、積極的に関係を構築する機会と捉えているのだ。
また両社ともこうした機会に対する投資を行っているが、単にテクノロジーを強化するのではなく、(延々と続く電話の自動音声ガイドの代わりに)すぐに応対する担当者を配置し、(大丈夫ですかと声をかけるなど)きちんと顧客一人ひとりに向き合っている。
顧客の声(USAA):「何か必要なことがある時はいつも敬意を持って接し、時には思いやりを示してくれます。彼らのビジネスのやり方は他社のお手本であるべきです」
顧客の声(First Direct):「顧客の要望をきちんと聞いてくれます。”1、2、3、4の中から選んでください”などという対応ではなく、人間相手に直接話をしてくれます」
■ Alaska Airlinesが掲げる「顧客ファースト」
ワシントン州に本拠を置くアメリカの航空会社、Alaska Airlinesにとって業界の体質に抗うこととは、目に見える形で顧客を優先させることだ。昨今の空の旅は確かに“体験”ではあっても、概して楽しいものとは言えない。ストレスでイライラし、手助けもしてくれず、時に顧客に全く聞く耳を持たないスタッフ、常に変動する価格、至る所に隠れている追加料金―自分たちが軽んじられていると乗客が感じるのも当然のことだ。
Alaska Airlinesは、顧客、顧客の時間、顧客のお金の全てが尊重される、徹底したエンドツーエンドの体験を提供することで業界の優位に立った。機内食は航空会社のモバイルアプリから事前注文でき、手荷物は乗客の到着後20分以内に受け取り可能で、万一運賃の価格が下がった場合に提供される保証も評判が良い。
顧客の声:「彼らは顧客を怒らせることの多い航空業界の傾向から一線を画しています」
■ 顧客の利益は企業の利益に
上記の4社は顧客が深いところで感じている不満を認識するとともに、その不満に対する解決策を積極的に模索してきた。たとえそれが、業界の常識にたった独りで対抗することであったとしてもだ。こうした努力への見返りは非常に大きく、CX(Customer Experience)スコア、推奨度、購買継続意向のいずれか、または全てが年々上昇している。
例を挙げると;
- 2016年から18年までの間、4社全てが毎年CXスコアを向上させている
- 全体としてマイナスのCXスコアに甘んじる業界にありながら、4社はいずれも2018年にプラスのCXスコアを上げた
- T-Mobileは2016年から2018年にかけてCXスコアを異例の10ポイント増とし、現在米国通信キャリアで唯一プラスのスコアを記録したブランドとなった
- T-MobileとAlaska Airlinesは2016年から2018年の間で消費者認知度を向上させた
- 2018年には、4社全てが業界平均の2倍を超える数の消費者から推奨されている。T-Mobileに至っては、2016年から2018年の間に推奨度を7倍に増やしている
- T-Mobileを除く3社については、2018年に製品・サービスの購入継続意向を持つ消費者の数が業界平均の2倍を超えている。
これら4社は、同業他社が行くべき道を示す存在と言える。彼らが志向する顧客中心の考え方に他社も追随する流れが生まれてくれば、業界をその内部から変化させ得る潜在力を秘めているのだ。
* C Spaceの「Customer, Experienced.」の詳細はこちらまで。
Christina Stahlkopf
C Space シニアコンサルタント
ボストンオフィスでシニアコンサルタントを務めるChristina Stahlkopf(Ph.D.)は、当社グローバルリサーチの主要メンバー。データからのストーリーテリングを得意とし、当社の「2018 Customer, Experienced.」レポートの主任リサーチャーを務めた。社会学者、エスノグラファー、作家でもあるChristinaは、社内きっての開拓者であり、ブランドが革新し境界を押し拡げるための構想を常に描いている。休暇はスキー場で過ごすか、夫や二人の娘と共にウィニペソーキー湖で水上スキーに興じることが多い。
Translated and edited from “Beacon Brands: Success Through Bucking the Trend” , cspace.com