機能面・感情面の2つのアプローチで真の顧客体験を描き出す | インターブランドジャパン

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機能面・感情面の2つのアプローチで真の顧客体験を描き出す

顧客ごとにタッチポイントもまたさまざまなものが存在するが、それぞれにおいてどのような体験が重要なのかを知るには、気の遠くなるような作業が必要だ。そもそも適切な体験を提供できていなければ、結果の測定をしても、必要な改善にはつながらず、もし測定するべきものを測っていないならば、やはり結果を改善することはできないし、適切な体験の提供もできない・・・と悩みは尽きない。 

 

顧客の不満の「裏」を読む

「NPS(Net Promoter Score)が重要なのはよく分かっている。ただそれをどう変えればいいかが分からない」といった声がクライアントからよく聞こえてくる。だがこれは、あたかも次のようなさらなる大きな疑問に対する答えのようにも思える。「どのデータを使えば間違いなくインサイトが得られるのか?」「どのようなアクティベーションが変化につながるのか?」

われわれが昨年、あるテーマパーク運営会社から突きつけられたのは、まさにこのような疑問だった。

このクライアントは最近NPS調査を導入し、同社のスコアに高い相関性を持つ4つの変数(スタッフの親しみやすさ、テーマパークの清潔度、設備のコンディション、待ち時間の長さ)を特定していた。顧客の体験にこうした機能的側面が重要であることはもちろんだが、その一方で顧客にとって最も重要な観点、すなわち、ある体験によって顧客がどう感じたかについての測定が欠けているのではないか、というのがわれわれの仮説だった。

厄介なのは、顧客に不満な点について聞くと「待ち時間が長かった」という答えがそのまま返ってくることだ。彼らは、例えば「時間を無駄にした」とか「ぼったくりではないか」など、長時間待たされたことによってどう感じたかを述べようとしない(あるいはままあることだが、そこまでを言うように求められているとは思っていない)のである。

こうしたものは、顧客にとって説明することがとりわけ苦手なテーマである。長い列に並ぶのが苦痛だという訴えは嘘ではない。ただ、その苦痛な時間を解消するための手がかりとなるストーリーなり鍵なりを与えてくれないのだ。実際には、顧客が自分たちの時間が尊重されていると感じられること、あるいはそのテーマパークが家族を連れて行く場所として賢い選択肢であり自慢できると思えることが、顧客にとって重要であるにも関わらず、なかなかそれについて言及しようとはしないのである。

 

インサイトの発見

では、顧客が機能的側面(列に並ぶ時間など)に満足しているなら何もしなくて良いのだろうか? 全くそうではない。

実施した調査を通じて、またクライアントとの仕事を通して分かったのは、体験における有形・無形の側面は表裏一体であるという点だ。どちらかが正しい、誤りという話ではなく、両面を理解することで初めて全体像が見える。こうして微妙なところにまで理解が及ぶことで、待ち時間の苦痛を和らげる対策を再検討し、新たな視点で他の方策を練ることができる。

例えば、行列の時間を2分30秒短縮するのに(多額のコスト負担を伴う)ロジティクスの再編成を行う代わりに、(比較的コストのかからない)健康的なおやつやエンターテインメントを提供するなどして子供が待ち時間を楽しく過ごせるようにし、母親にとってこのテーマパークが他よりも賢くて誇りに思える選択肢と思ってもらえるようにしたらどうだろう?

 

C Spaceが提供したソリューション

ではどのようにしたら、こうした有形・無形両面のポイントをともに明確にすることができるだろうか。

このテーマパークのケースでは、まず競合各社の顧客体験のスナップショットを(C Spaceの”Customer Experience Code”を使って)作成し、アドバンテージを得られる未開拓の機会を見極める作業から始めた。競合各社のスコアは全てクライアントと似たり寄ったりで、どこも突出した体験を提供できていないことを示していた。

突破口が見えてきたのは、顧客の属性によってスコアに大きな差があることがわかった時だ。当然子供は素晴らしい体験をしており、父親も同じように楽しんでいた(結局のところ男性は大きな子供だ)一方で、母親は不満を感じていた。さらに広範な調査を行うと、母親は外出に関する決定を下しているにも関わらず最も乏しいサービスしか受けておらず、変化を起こすには母親の体験を改善することが鍵となることが分かったのだ。

これを受けて体験の感情的側面を解明しようと、4地域・1,600人余りのゲストを対象に調査を実施し、同テーマパークにおける最近の体験について4つの機能的体験変数およびC Spaceの感情的変数のスコアをつけてもらった。回帰分析を行って推奨度を上げる要素を突き止め、どの有形・無形の変数がNPSスコアを最も大きく変動させるかを割り出した。またC Spaceのオンラインコミュニティにおいての継続した関係構築によって得られた知見も、これらの”エクスペリエンスドライバー(体験を左右する要素)”に加味し、どういった取り組みに集中してどの体験を改善するべきかを示す実行可能なロードマップを作成することができた。

こうして、ゲストの推奨度を実際に高める可能性のある6つの変数を設定した。これらの変数にはそれ自体にもクライアントがこれまでトラッキングしてきた機能的変数より強い予測力が備わっていたが、当社のCustomer Experience Code変数と機能的変数を組み合わせると、同モデルの予測力は大きく改善した。このナレッジを得たことでわれわれは体験の全体像を示し、どこにフォーカスすべきかを明確にすることができたのだ。

これらの調査結果やその他の発見は、マーケター、デザイナー、顧客からなる機能横断型のチームをまとめる力をクライアントに与えるとともに、顧客やビジネスの価値を高めることを重視した新たなサービスやプログラムの構築につながった。

マーケターにとって最もやりがいがあり価値ある仕事の1つは、自分たちの組織が何を体現し、どう成長したいのか、また自分たちの決断が顧客やビジネスに真の価値を与えているのかどうかを定義できるよう手助けすることだ。すなわち、顧客にとって何が重要かについての理解が不十分なままこれらのアクティビティが実施されれば、不十分なソリューションしか提供できず、集中的な取り組みが十分にできない。しかし、顧客体験の有形または機能的側面、および無形または感情的側面の両方を考慮することによって、われわれは何が重要かを明確に理解し、そしてようやくNPSスコアに変化をもたらすことができるのである。

* C Spaceの“Customer, Experienced.”の詳細はこちらまで。


Aidan Borer
C Space シニアコンサルタント

顧客体験のエキスパートであるC Spaceのシニアコンサルタント Aidan Borerは、Bose Corporationの元リサーチャーで、大学では工業デザインを専攻した。セグメンテーションやジャーニーマッピングをはじめとする企業の顧客戦略プロジェクトを数多く手がけた実績を持つ。C Spaceにおける最大の功績は、受賞実績のある顧客体験プロジェクトの指揮を執ったことで、クリエイティブチームがより顧客志向になるよう指導した。認知心理学に関する本を読んでいるか、データビジュアライゼーションに没頭している時以外は、ライブミュージックを聴きに行ったり、アメリカの人気リアリティ番組「ル・ポールのドラァグ・レース」を一気見したり、大好きなアボカドトーストをかじって心と身体を満たしている。


Translated and edited from “A Heart & Head Approach to Understanding Customer Experience” , cspace.com

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