「ソーシャルディスタンス」から考えるブランドと顧客の適切な距離感 | インターブランドジャパン

「ソーシャルディスタンス」から考えるブランドと顧客の適切な距離感 

クリエイティブディレクター 
宮城愛彦 

少しだけ時計の針を巻き戻す。オリンピックイヤーに胸躍らせながら1年をスタートさせた1月のこと。インターブランドのアジア地域のクリエイティブメンバーが東京オフィスにに会しこれからのブランディングについて考えるワークショップを行った普段は全く違う環境で仕事をするメンバーとの交流は、普段考えもしなかった気づきを引き出してくれる。そうした気づきが、大きな進化の切っ掛けになることもある。まさに今年の夏は世界中の人々が東京を訪れ、普段接することの無い価値観と刺激的な交流が活発に行われる年になるのだと思っていた。 

新型コロナウイルスの猛威が止まらない。見えないウイルスの脅威は私たちの行動を制限し、暮らしや価値観までも変えようとしている。 

 見えないウイルスの感染を抑止するためには、他者との距離を確保し、物理的な交流・接触の機会を減らすことが肝要だそうだ。そうした抑止対策「ソーシャルディスタンス」の啓蒙を、自社のブランドロゴを用いて発信するブランドが注目を集めた。マクドナルドの「M」やアウディの「輪」など、見慣れたロゴの隙間をあけ「他者との距離を取ろう」というメッセージを表現する。見慣れたロゴを用いるからこそ、メッセージが端的に印象的に浸透していく効果があると共に、自社ブランドの意思を明確に世界へ浸透させる狙いもあるのであろう。 

 メッセージの発信にとどまらず、技術的・物理的支援の動きも進んでいる。掃除機やドライヤーで知られるダイソンは、世界中で数の不足が懸念される人工呼吸器をわずか10日で開発した。電気自動車のテスラも人工呼吸器の製造に乗り出すことを発表。同社が販売拠点を構える各国の病院に人工呼吸器を無償で届けていくと宣言している。また、DiorZaraなど、様々なファッションブランドがマスク製造を発表している。 

ブランドのこうした支援活動を見ていると、ブランドの姿勢や存在意義を改めて再認識できる。そして、これらの活動に対しての顧客の反応がとても興味深い。 
そのブランドらしい活動に対して「さすが」「やっぱり」というような共感・納得の反応もあれば、ブランドのらしさとは離れた意外性のある活動に対して「見直した「好きになった」といったような、有事の際だから見せるいつもと違った一面への共感や敬意という反応もあった 

冒頭のワークショップでの議論を一部紹介したい。 
まだ妄想の域を出ないふわふわした思考の紹介で恐縮ではあるが、各国のブランドや生活者思考の変化を改めて確認していく中で、これからのブランドにおいては「ブランドが醸し出すフィーリング」こそが重要な要素なのではないか。そのために、ブランドと顧客との間にある距離感」をいかに縮めていくかを考える必要があるのではないか、という議論があった。 

人と人との関係性を表現する際、私たちはしばしば「距離感」という表現を用いる。一緒にても心地よい人に対して「気持ちいい距離感」と表現したり、逆に自分の踏み込まれたく無い領域に強引に踏み込んでくる「距離感の近い人」に対して居心地悪さを感じることもあるだろう。 
こうした「距離感=心理的距離」はブランドと顧客の関係性においても存在している。デジタルデバイスやECチャネルの進化によってブランドと顧客の物理的な距離は縮まり、いつどんな時にでも、ブランドに簡単にアクセス出来る時代となった。どのブランドも物理的距離に大きな違いが無い時代であるからこそ、心理的距離をいかにして縮め、顧客と良い関係を築けるかが、現代のブランディングにおいて重要な要素であるという訳である。 

ブランドロゴを使っメッセージにしても、人工呼吸器やマスクの製造支援にしても。新型コロナウイルス環境下での各ブランドの様々な活動によって、顧客が感じるブランドへの心理的な距離が縮まる・近くなるという効果があると感じている。顧客が感じている不安や不足にいち早く応えてくれるブランドへの共感や信頼は、顧客との強いつながりとなる。 

ソーシャルディスタンス。以前として続くウイルスへの猛威には、とにかく他者との物理的な距離をとり、接触・交流機会を減らすしか無い。一方でこうした機会だからこそ、ブランドは顧客のニーズを適確に捉えた活動によって、心理的な距離を一歩も二歩も近づけることができる。この機会に、自社のブランドと顧客の「距離感」について見直してみてはいかがだろうか。私たちが作り出しているブランドは、本当に顧客のそばにいるブランドになれているのか。 

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