今こそ求められる「パーパス起点のブランディング」とは: 「沈黙のパーパス」と決別してポスト・コロナに備えよ | インターブランドジャパン

今こそ求められる「パーパス起点のブランディング」とは: 「沈黙のパーパス」と決別してポスト・コロナに備えよ

エグゼクティブ・ディレクター 戦略グループ
佐藤 紀子

新型コロナウイルスの世界的な猛威がとどまることを知らない。 このような日々が訪れるとは数か月前に一体誰が想像し得ただろうか。日々負の連鎖を伝える報道に晒され、自国含め世界中が未だに見えない出口を求めて混迷する姿は、いかに脆い社会システムの中で我々が生きていたのかということを思い知らされる。
事態の収束は予想以上に長期化し、大多数の企業が今後1年半ほど「仮死状態」に陥るという悲観論が大半であるが、本当にこのようなシナリオ通りに容易且つ無力に屈して良いのか、ブランドだからこそできることはないのか。この未曾有のクライシス時だからこそ顕在化しているように見える各企業の姿勢・行動から考察を展開してみたいと思う。

1. 危機下においても「らしさ」を失わない「反射的対応」を進める欧米企業
問題が中国を超えて欧米へと地理的な垣根を超えて爆発的な拡大を見せ始めたころから、仏のLVMHグループを皮切りに様々な欧米企業が、明らかに「反射的な行動」を開始し始めた。特に興味を引いた以下3社の取り組みをここに紹介したい。

  • LVMH(仏):マルチブランド展開する仏の複合グループ企業である彼らは極めて早い段階で、自社工場のラインを消毒液無償提供のためにフル稼働することを表明した。初期こそ仏国内への対応という発信であったものの、全世界で展開する事業ブランドごとに展開国における支援の表明をするなどその対応規模を拡大させ、各事業ブランドレベルの発信と企業ブランドとしての発信の2軸で発信を加速させている
  • BMW(独):最もダメージが大きいと言っても過言ではない車ブランドでありながら、「車よりも大切なものがある」といういわば逆説的なトップ発信を皮切りに、極めて迅速且つ機知に富む展開がされている点で目を引く。「BMWとともに家で楽しく過ごす7つのヒント」というテーマのもと、「#Stay Home」を軸にいかにブランドの世界に触れてもらうかという前向きな創意工夫に溢れており、実利を超えた社会へのコミットとブランド独自の価値観双方をユニークな形で発信している
  • adidas(独):彼らも一味違う。#Home Teamという軸でブランドコミュニティーを束ね、日々そのコミュニティーの増長をリアルタイムで見える化、更新することでスポーツブランドならではのエネルギーを感じさせる発信が続いている。この危機下においていかにしてadidasらしいライフスタイル提案ができるかという方向性を「リアルタイム」で発信し続けるそのスタンスと世界観にはポジティブな温度感と臨場感に溢れており、オーディエンスを鼓舞するパワーをも感じさせる

2. 欧米企業にみられる共通点:「パーパスを事業と紐づけて最大化」する発信姿勢
Owned mediaで見る限り、彼らの一連の行動は以下の通り整理・共通化できる。

  • Stage 0:平時(危機発生前):
    明確に言語定義されたパーパスの提示
  • Stage 1:発生期(2020.3中旬):
    自社事業ドメインを超越した行動を通しての企業の全体姿勢をリアルタイム発信
  • Stage 2:深刻期 (2020.3 中旬以降~現在):
    自社事業ドメインが呼応する形での連動発信

今回の有事で最も特徴的な部分はStage1と2である。「自社の事業ドメインを超越した行動」を極めて早期に起こし、発信を開始している点、次のステージとして自社の事業ドメインと連動させる形で継続的発信を行っている点である。これは彼らが来るStage3なるポスト・コロナにむけて既に歩を進めている姿勢そのものであると感じてならない。
表層的なスローガン的発信のみでなく、「事業ドメインと直結した行動力」を極めてアジャイル(迅速)に打ち出し続ける姿勢は今後はじまるサバイバルゲームを前にした布石の表れであり、パーパスドリブンのブランディングをポスト・コロナ戦略の軸に据えている積極姿勢に他ならない。反射的行動に見えて、それは考え抜かれた計画的行動なのだ。

 

*参照: 各社ホームページより

3. 「沈黙」の日系企業
同様の時系列で日系企業の動きを同じ視点で追ってみた。理由として、一昨年ほど前から、ブランドを軸に成長戦略を描くお客様の多くがこの「パーパス」を口にされていたからだ。議論の方向性は「いかに明確にパーパスをセットして組織の求心とするか」「いかにしてパーパスを事業反映していくか」等様々ではあったが、いずれの議論からも「パーパスを成長戦略の『動力』として位置づけたい」という意志の表れだと感じていた。

結果は明らかに異なっていた。
誤解はしないでいただきたいが、有事対応という意味では日系企業は然るべき様々な取り組みをされている。しかしその大半が「対策」レベルの極めてオペレーショナルな域を出ず、本来の企業そのものを示す姿勢=Corporate Behaviorや、社会にポジティブな存在感を示していくレベルの欧米企業ほどのパワーはほぼ感じられず、まるで時が止まっているかのような感覚をも覚える。既述の欧米ブランドたちのOwned mediaはそのフロントラインから平時と「顔」を変えてきており、このクライシス下の社会に対する「パーパスの実体化」が可視化されている。「社会的意義」がパーパス足る条件なのであれば、今こそその証明たる行動を知らしめずしてパーパスを掲げていると言えるのだろうか。
「答えのある世界においてのみ、日系企業はDo faster, Do better, Do smallerで勝負してきた」とは著名な論客が発した言葉であるが、この出口の見えない不確実性に見舞われた世の中で沈黙を貫く日系企業はその言葉を裏付けているように思えてならない。
「パーパス」を既に掲げる企業、あるいは議論が進んでいる日系企業に問いたい。何のためにパーパスを定めているのか、あるいは定めようと議論をしているのか?

4. ポスト・コロナに向けて:これからの「パーパス」を自問すべき時
当初のセオリー通りの要諦を抑えれば、果たしてこの先のポスト・コロナにおける成長戦略の軸としてのパーパスになり得るのかどうか、自問すべきではないだろうか? なぜならば、世界は大きく変わり、誰一人として「どのように変わるのかが分からない」からである。ここに今後パーパスを考える上で抑えるべき新たな視点があるように思える。

  • パーパスは神棚的存在ではない
    「パーパス」を定義しようとするとき、その位置づけが「WHY:なぜこの社会に存在するのか」という抽象度の高い定義からか、定めることに意義がある、という考えに留まっていないだろうか。どう実体化すべきか、という問いが多いのはその位置づけを「神棚」のような上位概念且つ静物的な解釈に過度に傾注していることに起因しているように思える。「誰でも言える抽象度の高いこと」に終始しがちなのもこのためだろう。
    パーパスは顧客・社員(組織)等その他の要素と有機的に作用しあう動的な存在であるべきであり、現状のパーパスの多くが、地中の存在のように沈黙しており、地上の企業活動の幹なる存在に見えないことからもうかがえる。
    パーパスが沈黙する存在ではないことは、このクライシス下の欧米企業が証明している。
  • WHERE : どのような世界を築きたいのか?を徹底議論し、明文化する
    「どのような世界を築きたいのか」という企業の意志(=Desire)をいかにポジティブに描けるかということは、まさに不確実性がキーワードとなるポスト・コロナにおいて差別化の一つになってくるだろう。この「WHERE:どのような世界を築きたいのか」という議論はまさに答えのない世界においてどれだけ企業の想いという抽象的なことを具象化していけるかという作業であり、最も欧米企業との差異が顕在化しているように見える。暗黙知から脱していかに明確に言語化し、世界観を描けるか、ポスト・コロナにおける全体戦略の旗印として極めて重要な視点となってくるだろう
  • パーパスを動的存在し得る「3つの息吹」を吹き込む:意味・共感・納得性
    パーパスを動的存在にするということは、Where / How / What各々の要素と有機的な相互作用を築いていくことである。つまり、パーパスに吹き込むべき息吹を見定めることであり、以下の通り整理を試みた。
    今までとこれから、明らかに大きく変わっていく世界を見据え、以下の視点を踏まえて今こそパーパスに生命力を吹き込んでほしい。
    1) Whereとの文脈: 社会価値との関係性の明確化を通して、「意味/Meaning」を付与
    2) What:との文脈:顧客価値との関係性の明確化を通して、「共感/Empathy」を付与
    3) Howとの文脈:事業価値との関係性の明確化を通して、「納得性/Believability」を付与

 

是非自問をしていただきたい。ポスト・コロナに向けて着実に立ち上がっている欧米企業に後れを取らぬよう、しかるべき議論とアクションを取れているか。
「答えのない世界におけるリーダーシップ」が求められる時はそこまできている。「パーパス」はその羅針盤としての役割を果たすだろう。

今こそ神棚に鎮座する存在から降ろし、「沈黙のパーパス」と決別すべき時がきている。

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