
リモート環境で働くために必要な、意識改革とデジタルスキルとは
2020.3.4
Interbrand Group
Chief Innovation Officer Chris Nurko
私たちは、一時的に制限された条件が、クリエイティブでイノベーティブな市場の新しいサービスを育むことにつながることを知っています。
2003年にSARSが中国を襲った時、市場では、デジタルサービスが急激に拡大し浸透し始めました。SARSの発生は、中国の広大な地域の垣根を取り払い、ソーシャルメディアやEコマースプラットフォームが根付き始める大きなきっかけとなったのです。
17年前を振り返ってみると、今や中国のEコマースの大企業であるJD.comは、当時北京に12店舗を抱えるだけの従来型店舗の小売りチェーンでした。当時、顧客が家にとどまるよう制限されたおかげで、オーナーであるRichard Liuの売上は落ち込みました。SARSの発生が落ち着き始めた頃、店舗1つだけを残し、すべての店舗を閉めざるを得なくなりました。その結果生き残りをかけて、新たにデジタルプラットフォームを新たな販路として挑戦を行いました。その結果、1年後には、100商品を携えたオンラインストアである360buyを公式にオープンしました。ビジネスプラットフォームを、伝統的な小売店経営からオンラインビジネスに方向転換したのです。そしてこの成功の結果、現在JD.comは560億ドルの価値を持つ企業となっています。
もちろん、Eコマースの世界は過去20年の間に激しく変化してきました。グローバルでのEコマースの売上は2019年におよそ3兆4,600億ドルに達しました。そして驚くことに成長を続けるAlibabaのビジネスは、2020年には、2003年に達成したのと同様に、50%の成長が見込まれると言われています。このように、グローバルで起きる人々の健康を脅かすパンデミックは今までの行動や様式を変化させ、新しいスタンダードをつくりだすことを我々は既に知っています。
では、2020年には何が変わるのでしょうか?
今日、世界はつながっています。物理的な距離の近さは、もはや生産性に影響を及ぼす前提条件ではなくなっています。人々はもはや同じスペースにいる必要はなく、商業的に意味があり生産性が高まる方法を選択し、そして新しいつながりを生み出すことができるのです。
従来の参加者と対面で行う会議の代わりに、テクノロジーの進化は、2~3年前には思いもよらなかった方法で、私たちが働く環境にも新たな選択肢を生み出しました。リモートワークのコンセプト自体は新しいものではありませんが、今回のコロナウイルスの発生により、予想を超えるスピードで市場に浸透することとなりました。
2018年当時は、グローバルのビデオ会議市場は30億ドル程の価値でした。それが2025年までに67億ドルになると予想されていました。今やこの将来予想は保守的であると感じてしまいます。マイクロソフトのTeamsや、Zoom、Beam、そしてWebexなどのサービスは、密な状況であるオフィス内での感染拡大を防ぐための方法として既に多くの企業が、積極的に導入を始めています。
世界はリモートワークの準備ができているのでしょうか?
ビジネス上でのコミュニケーションがどこに向かっているのかを示す兆候を知る上で、生活者のプライベートでどの様な変化が起こり始めているかを知ることは参考となります。人々の移動が制限された結果、健康に関してのテクノロジーサービス市場が、目覚ましい成長が確認されています。その中には121人の患者を1人の医師による診断を可能とするサービスもあります。
JDヘルス部門のCEOであるXin Lijunは、毎月のオンライン診断の数がコロナウイルスの発生により、10倍になったと述べています。
中国で最も大きな保険会社である平安保険グループの株価は今年34%上昇しました。同社のオンラインヘルスケア事業は、JDヘルスと同様にビジネス成長を実現しています。1月だけで10倍の来訪者増を達成し、のべ11億1,000万件の訪問数を記録しました。
今週、同グループは、保険とヘルスケア事業をより統合するためのテクノロジー分野への17億米ドルの投資計画を決定し、その概要について説明しました。
中国でのオンラインヘルスケア市場は、2020年には2,000憶元(290億ドル)近くまで上昇すると見込まれており、これは、コロナ発生以前に予想されていた1,580億元からかなり上昇しています。そして、15か月前の市場価格の2倍になると言われています。コロナの発生がなければ、こうした顧客の行動変化が始まるには、5年はかかると言われていました。
現在、移動が制限されている環境下において患者が、Skypeなどのビデオ会議システムを通じて、医師の診察を受け、診断を仰ぐことは当たり前になりつつあります。
もう1つの重要な問題:テクノロジーを実現させるためのインフラは整っているか?
5Gの到来により、迅速かつ膨大なデータ伝送が可能になり、完全にデジタルを駆使して仕事ができるようになることが期待されています。しかし、それまでは、ほとんどの企業と従業員は4G LTEのモバイルネットワークかインターネットアクセスネットワークを使って仕事をすることになります。
2月3日に、多くの中国の会社員たちが一斉に在宅勤務を始めたので、別の種 “all in one mobile workplace (ひとつのモバイルワークプレイスですべてを)”というサービスを展開しているAlibabaに傘下のDingTalkは、史上最高のトラフィックがあったことを発表しました。そして、処理能力のキャパシティを強化し、1,000万人いる企業顧客のデータ送信の要請に応えるために、12,000台のサーバーを追加で投入しました。
同じ日に、アメリカのビデオ会議サービスのZoomの株価は15%上昇しました。これは過去8か月の間の同社の最高の上げ幅です(1月末に70.44ドルから1か月後には117.47ドルに上昇しました)。GoogleとMicrosoftは、この緊急事態において世界中の企業が事業を不具合なく継続することができるように、企業向け会議サービスを期間限定で無料提供することを発表しました。
緊急事態への適応が進む中で、繋がりやすさ、通信速度、容量のアップグレードへの生活者の期待は大きくなってきます。特に、都心部ではない地方からリモートワークをする人がストレスなくビデオ会議で仕事を行うにはオンライン環境整備がより重要となります。
次には何が起こるのか?
物理的に毎日決まった場所へ出勤をすることを意味する“働くこと”から、“働くこと”がオンライン環境が整備されていれば、あらゆる場所からデジタルでつながることで可能となる現在において、どのように会社経営を行うか、そして、社員とのブランドエンゲージメントをどう構築するかなどを根底から考え直さなくてはならないでしょう。
コロナウイルスがもたらした状況は、テクノロジーの向上によるナレッジシェアやコラボレーションを行うための新しい働き方を考え、実際に試してみる絶好の機会です。そして、その実現に重要なことは、自社の基準において、何を、期待成果とするか、そしてどのように“働くこと”を定義し、管理するかです(例:費やした時間や直接会うことを評価基準としないなど)。
今や、デジタルツールを駆使することでプロセスを見直し、そして革新的に生産性を高める時代がやってきました。企業は、自分たちのビジネスの効率性や有効性を最大化することで今までの戦い方を変え、挑戦を行う絶好の機会と捉えてはいかがでしょうか。コロナウイルスにより実際に対面する機会が、健康上の懸念となる環境において、個人・チームそして社員全体のエンゲージメントをサポートする方法を模索する企業にとっては、物理的な社員との距離やケアに対する感覚を維持しながらリモートワーカーや顧客とつながるためのテクノロジーを活用していくことは、今後きわめて重要になるはずです。
Translated and edited from “EXCLUSIVE: Remote Proximity – a new mindset and digital skill set” in C Space,
Authored by Chris Nurko