新型コロナ危機において、クリエイティビティは無力なのか | インターブランドジャパン

新型コロナ危機において、
クリエイティビティは無力なのか

アソシエイト・クリエイティブ・ディレクター
村松友希

新型コロナウイルスの死者が世界で30万人を超えた。死者数の増加ペースはやや鈍化しているものの、1日あたり5,000人超と、依然として高水準で推移している。
日本では39県で緊急事態宣言の解除がされ、収束に向かっているように思えるが、ワクチンが開発されるまでは少しでも油断すると、韓国やドイツのようにまた再拡大していく心配があり、まだまだ楽観できない状況だ。
このかつてない世界規模における先の見えない危機が完全に終わりを向かえるのはいつになるのだろうか。

 

今必要とされているものに答えるブランドの取り組み

この状況下の中、これまでこのアーティクルでも紹介されてきたように、様々なブランドが、「今できること」に取り組んでいる。
ファッションブランドのマスクや、消毒用アルコールの生産、DysonやNASAによる人工呼吸器の生産、多くの自動車メーカーがフェイスシールドの生産に取り組むなど、この危機の中、本当に必要とされるものを供給するため、これまでとは違うプロダクトの生産に取り組んでいるブランドも増えている。また、様々なブランドが、支援団体、医療従事者やコミュニティに多額の寄付を行っている。このように、より実質的に今必要とされているモノまたは資金としての需要に答える取り組みがポジティブなニュースとして取り上げられ、共感を生んでいる。
では、この状況下の中、クリエイティビティは無力なのだろうか。
クリエイティブの人間として、この新型コロナ危機におけるクリエイティビティの役割を考えてみた。

 

ブランドらしいコミュニケーションによるアクション

日本では感染拡大を防ぐため、密閉、密集、密接の三つの密を避けるよう呼びかけているが、英語圏では「Stay Home」「Social Distancing」を呼びかけている。
このスローガンを促進するために、自社のブランドロゴを用いて発信したのが、マクドナルドとアウディ、フォルクスワーゲンだ。マクドナルドは、「M」を構成するゴールデンアーチを、アウディは4つの輪を、フォルクスワーゲンはVとWのスペースを広げることによってSocial Distancingの重要性を訴えた。このようにブランドらしいシンプルなクリエイティビティによって、素早くコミュニケーションすることで、力強いメッセージとなり、顧客の記憶に残るものとなる。
Nikeは「Play inside. Play for the World.」、Adidasは「#hometeam」と題し、それぞれのソーシャルアカウントでコンテンツの配信をしている。そのコンテンツの主役はプロダクトではなく、あくまでも「安全」を強調し、この状況下の中、それぞれのブランドらしい表現で、顧客がアクティブに、ポジティブに過ごせるようブランドの体験を提供している。
またAppleは“Creativity goes on” と題する動画を公開した。この動画は「Creativity」がテーマとなっており、新型コロナウイルスで外出禁止となる中、Appleは世界中の人々が創造性、創意工夫、人間性、希望を共有する新しい方法を見つけていることにかつてないほど感銘を受けたとし、クリエイティビティの重要性と素晴らしさをAppleらしい表現で伝えている。それと同時に本来Apple Storeで毎日開催していた「Today at Apple」を自宅で体験できる「Today at Apple at home」としてWeb上で公開し、世界各地のApple Storeスタッフによる写真や動画撮影、写真加工のテクニックを動画で教えるセッションを公開、「30 Creative Activities for Kids」として、Appleの教育チームが、自宅待機を余儀なくされている子どもたちに向けて、iPadの機能で楽しめる、30のアクティビティのアイディアを提供している。この状況下の中において、「一人ひとりが、各地域コミュニティが、テクノロジーを通じてもっと強くなれるお手伝いを続けていきたい」という考えを元に、ブランドとしてできることを着実に実践している。
エデルマンの調査によると、世界各地で政治への信頼感が欠如する中、この危機的状況を乗り越える上でブランドが重要な役割を果たすことは不可欠と回答したのは62%、企業は政府よりも迅速かつ効果的に対応していると考える人は55%に上る。この結果は上記に紹介したようなブランドの行動力や顧客に寄り添う姿勢がしっかりと認知され、共感を生んでいるからであろう。これらのブランドは、ポストコロナにおいてもさらに強く、成長し、愛されるブランドになると確信している。

 

この環境下におけるコミュニケーションサポートするクリエイティビティ

話は変わるが、世の中がリモートワークになり、社内のメンバーとのミーティングはもちろん、クライアントとのワークショップにおいてもオンラインで行っている。これまで対面であったミーティングで、受け取る情報が少なく、ちょっとした表情の変化や相槌、仕草などによって、これまで自然に感じることのできた参加者のテンションやムードといったものを掴むのが難しい。
そんな状況においても、TeamsやZoomなどの機能で、参加者の背景画像を変えられたり、メッセージ付きの背景を使用することによって、参加者のユーモアのセンスや、思いやり、意思といったものを伝えることができる。わたしは1歳と3歳の子供の父親であるが、チームメイトが「子供が騒いでいても気にしません」というメッセージの背景でミーティングに参加した時、気持ちが楽になったことを覚えている。それもこの新型コロナ危機における重要なクリエイティブの役割だと考える。
また、多くの参加者が同時に発言をしたりすることが難しい中で、Miroというオンラインホワイトボードサービスは、参加者が同時にホワイトボードや付箋などに、スムーズに書き込める機能や、企画、コンセプト、ロードマップなどの用途別によるテンプレートが豊富であり、とても便利である。その便利であると感じさせる最大の理由はデザイン性にすぐれているということである。それはただかっこいいというものでなく、使い手がその機能をデザインによって直感的に理解できる。動きがスムーズ。コミュニケーションを(阻害しない)円滑にするためのデザイン。つまり、使う人目線でしっかりと考えられている。
このような使い手に寄りそったUI、UXは、この新型コロナ危機によって、顧客とブランドとのタッチポイントが、フィジカルからデジタルへさらに勢いを増して移行している今、ブランドのコミュニケーションにおいて、これまでになく重要な体験でありクリエイティブの表現であると考える。

 

この状況下だからこそ重要なクリエイティビティの役割

つまり、この終わりの見えない危機下において、人々の緊張や不安、恐怖心が高まっている状況だからこそ、クリエイティビティはこれまで以上に重要な手段であり、人々にこの危機を乗り越えていくための前向きなエネルギーを与えられるものなのだと考える。
今こそブランドはクリエイティビティを最大限に発揮し、そのブランドの本質を伴った行動や解決策を、ブランドらしいエモーショナルなメッセージや体験として顧客に届け、人々の期待に答えていく存在であることを証明しなければならない時なのだ。
残念ながら日本のブランドは、それができているとは言い難い。日本の多くのブランドは、自らの存在意義を「社会貢献」や「社会問題の解決」と掲げながら、この危機下において、沈黙し、自ら姿を消してしまっている。真に自身が何者で、今どんな行動や表現で自身の存在価値を示すべきかわからなくなっていることが、このコロナ危機によって露呈してしまっているようにも思える。人々から愛され、必要とされるブランドとして、生き残っていくためには、いまここで、曖昧になっているブランドの本質たるものを、再度定義し、行動を伴う形で顧客に伝えることができなければ、海外のグローバルブランドとの差はさらに大きく開いてしまうだろう。

 

今、この状況下の中、行動を起こしている海外のグローバルブランドブランドは、自分たちが何者かをわかっており、その全ての活動はブランドの本質との紐付きがある。それらの施策や表現、体験から沸き起こるフィーリングは、紛れもなくそのブランドに帰属するものである。このブランドの全ての活動における一貫したフィーリングこそがブランドのクリエイティビティによるものあり、信憑性を与え、人々とブランドの間に信頼と共感を生むのである。それを実行し続けることができるブランドこそ、人々に愛され、この状況下においても成長し続けることができるのだ。

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