「新型コロナウイルス時代」のブランドコミュニケーションを考える | インターブランドジャパン

「新型コロナウイルス時代」のブランドコミュニケーションを考える

アソシエイト・エグゼクティブ・ディレクター
クライアントサービス & ソリューショングループ
黒木 英明

「令和初の正月」で幕を開けた2020年は、日本にとってだけでなく、全世界にとって特別な年となった。昨年秋のラグビーW杯開催時の「来年の夏にはこの何倍、何十倍もの人々が海外からやって来て、東京の企業は時差出勤やテレワークでの対応が必要となる」といった予想は、既に夏を待たずして現実のものとなった。しかしその理由も時期も規模感も、予想とは全く異なるものとなってしまった。
新型コロナウイルス(COVID-19)の国内外への影響は、発生初期における人々の想像・想定をはるかに超え、今もなお今後の行く末を見通すことができない。「BC(Before Corona)/AC(After Corona)」という言葉も生まれ、また新型コロナウイルスの影響が長く残ること、共生が余儀なくされることが予想されることから、「Withコロナ時代」とも称され始めている世の中で既に起こっている、また今後起こるであろう人々の意識やコミュニケーションのあり方の変化と、これからブランドが求められる対応について、考察してみようと思う。

分断される世界
接触、飛沫による感染を特徴とするこのウイルスを抑え込むには、人の動きを制限することが必須となる。欧米主要都市のロックダウン状態により、人の動きに関しては言わば「総鎖国状態」となり、個人レベルでも他人との一定の距離を保つSocial Distancingが世界的に今後も求められる状況が続くことが考えられる。もちろん感染のピークアウトとともにこうした動きも緩和されていくことは間違いない。しかし一時的とは言え、これまで営々と培われてきた日常生活の中での(握手、ハグ、おしゃべりといった)他者とのコミュニケーション、文化的慣習に大きな変更が強いられたことや、何よりも「人と人とが集まること」という社会生活の大元となる基盤行動が、回避されるべきもの・NGなものとなったことは、これからのブランドのコミュニケーションのあり方においても、オンライン志向の高まりや展開がさらに加速されるなど、大きな影響を及ぼすことが予想される。 以前のアーティクル(新型コロナウイルスが変えるブランドの世界、変わらないブランドの世界)の中で指摘しているが、東日本大震災後に国内で「絆」の重要性が高まったように、上記のようなコンテクストの中で、(今は物理的には手を取り合うことはできないが)人種や貧富の差を越えて世界レベルで共有されるような新たな価値観や連帯感といったものがNew Standardとして生まれてくるのか、注目していきたい。

人々がブランドに対して期待しているもの
こうした状況の中で、人々はブランドに対してどのような行動を期待しているのだろうか。4A’s(American Association of Advertising Agencies)が3月18日にアメリカの1,000人の生活者を対象に実施した調査結果(図1)を見ると、やはり多くの生活者にとって、ブランド、特に自分が知っている信頼しているブランドがこの世界的な危機に対応し社会に貢献しているのかを知ることは、うれしいことであり、安心にもつながっていることが分かる。

 

本シリーズ内 Brand Movesでも紹介しているように、実に数多くのブランドがこの世界的困難を乗り切るために立ち上がっている。国や地域によって事態の進行状況が一様ではないが、概括すると感染拡大初期には業界を問わず、消毒液やマスク、防護服、人工呼吸器製造や医療関連機関への寄付等、その国や地域でもっとも逼迫しているものへの緊急・救急措置的な対応が多く見られる。またこうした初期のフェーズでは、各企業が持っている基本的な能力、製造生産ラインの変更によって対応していたのに対し、先のアーティクル(今こそ求められる「パーパス起点のブランディング」とは: 「沈黙のパーパス」と決別してポスト・コロナに備えよ)でも触れているように、ピークを迎えた次のフェーズでの企業やブランドの活動やコミュニケーションは、よりブランドとしてのビジョンやミッション、そしてパーパスを意識したものへと変わってきていることが見て取れる。ANA(Association of National Advertisers, 全米広告主協会)が3月30, 31日に196の企業を対象に、WHO(World Health Organization, 世界保健機構)がパンデミック宣言を行った3月中旬以降に制作しているクリエイティブ・メッセージについて調査を行ったところ、92%の企業がパンデミックに対応するメッセージを開発していると回答していることが示すように、こうしたコンテクストの中でいかにブランドを実体化し、発信していくのかが重要となってきている。
このように特に有事に際しては、ブランドとしての行動を起こし、発信し、社会、顧客とコミュニケーションを取ることがまず重要であり、そしてそこにブランドの本質と結びついた要素、「らしさ」を加えていくことが、ブランドとしての差別特有度や存在影響度、そして共感共創度を高めることにつながっていくのである。

新型コロナウイルス時代のブランディングとコミュニケーション
ではグローバル・リーディングブランドはこのような状況の中で、どのような活動や発信を行なっているのか。ブランドのビジョンやミッションと紐付いた活動、発信を行なっている例を、テクノロジー、自動車、FMCGの業界の中から取り上げてみたい。

① Apple
2013年以来Best Global BrandsのトップブランドであるApple(#1, BGB2019)は、4月10日に “Creativity goes on” と題する動画を公開した。

Apple 公式YouTubeチャンネルより

AppleのDNAに深く根差し、ブランドとして常に信じている価値である「Creativity」がテーマとなっているこの動画は、「新型コロナウイルスで外出禁止となる中であっても、世界中の人々が創造性、創意工夫、人間性、希望を共有する新しい方法を見つけていることに、深い感銘を受けている」Appleからの、新型コロナウイルスと戦う人々へのエールとなっている。またこの動画と合わせ、家の中で、Apple製品とアプリを組み合わせてできるクリエイティブな活動を紹介する「Today at Apple at home」や子供向けのアクティビティ「30 Creative Activities for Kids」、遠隔学習チュートリアル「Apple Education Learning Series Virtual Conferences」など、さまざまな関連活動も展開しており、ブランドらしい発信だけでなく、これを実現し、かつ今の社会で求められる活動を合わせて展開している好例と言える。

② Hyundai
自動車業界からは、Hyundai(#36)に注目したい。
ブランドのグローバルビジョンとして「Progress for Humanity」を掲げるHyundaiは、4月6日に「#ThisIsUs | Humanity prevails.」と題する動画を公開した。

Hyundai 公式YouTubeチャンネルより

パンデミックを前にして、誰しもが感じる恐れ、弱さ、社会の脆弱さや混乱が露呈される中で、そんなクライシスの中でも希望と、思いやりと、たくましさと、時にはユーモアとを持って立ち上がろうとする人々をクリップした1分25秒のこの動画は、現在の過酷な環境の中で私たちが忘れかけていたかも知れない、人が本来持っている人間性(Humanity)を思い出させ、この環境だからこそさらに進化したもの(Progress)に昇華して、世界の人々と共に進んで行くこと、成長していくことを呼びかけている。また動画の最後には、この「Progress for Humanity」というビジョンに基づいてHyundaiが行なっている社会貢献や購入顧客のサポートプログラムの一端が紹介されており、単なるイメージ発信にとどまらない、ブランドの姿勢と行動を伝えるものとなっている。

③ Dove (Unilever)
また、こうしたブランディングは、コーポレートレベルだけではなくプロダクトのレベルでも可能であることを示しているのがUnileverのDoveである。
2004年以降、さまざまな切り口で女性の真の美しさ、ありのままの美しさを社会に問い続けてきたDoveは今回、人々のために不眠不休で戦い続ける医療従事者の勇気と、献身さに宿る崇高なまでの美しさを、感謝の念をもって讃える「Courage is Beautiful」と題する動画を公開した(4月8日)。

Dove US 公式YouTubeチャンネルより

日々世界中からニュースとして届けられるこうした医療従事者の想像を絶する過酷な状況に対して、自分たちのブランドだからこそできることは何か。ブランドビジョンを起点としたこの活動は、他の例と同様、メッセージを後押しするさまざまな行動と共に、SNSを通じても発信されている。またDoveのグローバルサイトでは、「Take care, be safe.」というメッセージと共に収束までの期間限定でブランドの象徴であるハトが ”Stay Home” しているものとなっている。

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Together with our Dove family @dovemencare, @babydovecare and @dovedermaseries, we’re donating products as part of the global emergency response to help deliver care and support to those who need it most. So far, we’ve donated $2.5M worth of products to ‘Feeding America’– with more support being rapidly planned across the world 🌎 This is part of the global pledge by our parent company @unilever and its brands to: 🌎 Donate products and food to emergency efforts 🏥 Adapt manufacturing lines to create hand sanitizer for hospitals 🤝 And support small suppliers and customers We’re in this together. Follow the link in our bio to find out more 💙 #Dove #BabyDoveCare #DoveMenCare #DoveDermaSeries #Unilever #Care #Community #WereInThisTogether #Together #Support

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Dove 公式Instagramより

Dove グローバルホームページより

「誰が裸で泳いでいたのか」がわかる時代
「潮が引いた時に、初めて誰が裸で泳いでいたのかがわかる(You only find out who is swimming naked when the tide goes out.)」。上げ相場の時には分からなくても、下げ相場になるとどの投資家が賢く的確に準備をしていたかどうかが判ってしまう、という著名投資家のウォーレン・バフェットの言葉だが、この有事を迎えたブランドの世界にも通ずるものがあるように感じている。
これまでの国内での感染の広がりが、欧米とは明らかに異なる道筋を辿ってきていることも手伝って、4月下旬現在、日本企業(政府もだが)の「新型コロナウイルス時代」への対応は海外企業のそれと比べ、明らかに立ち遅れている。むしろ、有事への対応を考えるよりも、まだ平時だと思いたい、すぐに元に戻り平時が続くことを願いたいという姿勢すら感じられる。だが、実体は待ってくれない。既に潮は引き始め、社会経済に落ちた影は日に日に大きくなっている。
そんな中でブランドは何をするべきか。そのためには何が必要か。ほとんどの企業のホームページにはブランドのパーパスやプロミス、ビジョン、ミッションは掲げられてはいるが、それは「本物の」パーパスやプロミス、ビジョン、ミッションだろうか。その考えに基づいて、ブランドらしい行動はできているだろうか。また、この未曾有の世界の転換期を迎え、これまでのものから変えていくべき点、付け加えていくべき点はないだろうか。―――「水着を着て」泳ぎ続けるためには、人々の価値観も大きく変わりつつある中で、まずその変化に目を凝らし、把握する必要がある。潮目は変わったのである。

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