危機下におけるブランドの意味とそのあり方とは? | インターブランドジャパン

危機下におけるブランドの意味とそのあり方とは?

シニア・エグゼクティブ・ディレクター ヘッド・オブ・ストラテジー
畠山寛光

今回のような危機下において、ブランドは無意味な存在となってしまうのであろうか。報道やソーシャルメディアで見る欧米を中心とする世界の惨状をみて、自身が携わる仕事の意味合いを改めて考えている。20年に渡り関わってきた仕事であり、一生の仕事であると確信していたものの、医療関係者の方々のように人を助けられるわけでもなく、外出禁止の街の食料品店でのレジ係の方々のように人々を支えている仕事でもない。ブランドには何ができるのか? 私には何ができるのか? 自身に関する答えは時間をかけて見つけていく必要があると思うが、今できることとして、危機下におけるブランドの意味とそのあり方をブランド価値の観点から考えてみたい。

危機下でも経営を支えるブランド
経営環境を大きく変えるような社会や経済の危機が訪れた際に、ブランドはどのような役割を果たしているのだろうか? 強いブランドを所有している企業は、一般的な企業よりも危機化においても株価の下落率が低く、危機後の回復速度も速い。インターブランドが2000年から評価、発表しているBest Global Brands(世界のブランド価値TOP100ランキング)のランキングブランドを保有する企業の株価をポートフォリオとしてみた際に、S&Pなどの指標と比べ、2008年リーマンショックの株価の減少率は低く、リーマンショック前の水準への回復スピードも2倍速いという結果がでている。(図表1)危機時においてもブランドは経営を支えているのである。

図表1: BGBブランドの株価変化(2006年を100とした場合)

 

ブランドのあり方を考える3つのポイント
危機時におけるブランドのあり方を考える上で、弊社が毎年発表しているランキングを活用し、ブランド価値評価の分析プロセスの1つであるブランド強度(図表2)の視点からリーマンショックや東日本大震災などのその後の変化を確認し、過去から学べるポイントを以下の三点に整理してみた。

図表2: ブランド強度スコア

 

1.ブランドの基礎であるインターナルの視点である概念明瞭度(Clarity)と関与浸透度(Commitment)の2つの指標の動きが活発になる
社員や顧客などが不安を抱える中、リーダーや社員の判断や行動の1つ1つは、平常時以上に注目される状況にある。そこにおいて、何に根ざして判断や行動をおこすのか、そこにブランドの根幹がある。ブランドが信じる自らの姿(ビジョン・プロミス)や社会的な意義(パーパス)に根ざしたアクションをリーダーや社員が積み重ねていくことで、人々は安心し、社員はブランドの考えをより深く理解し、共感を覚え、そこで働くことに誇りを感じるのである。一方、平常時においてブランドが大事である、社会的価値が重要であると公言していても、緊急時になったら、「理想像を言っている場合ではない」という言動が示されれば、その企業の社員は何を信じ、判断基準にするべきなのかがわからなくなってしまうだろう。危機下においてはそのような動きが激しくなるため、ブランドの考え方への理解・共感度を見る概念明瞭度やその実践度を見る関与浸透度の変化が大きくなる。例えば、東日本大震災時において、ユニクロは迅速で大胆な復興支援プロジェクトを実施し、ブランドの掲げる「Life Wear」の意味合いを社員は深く考え理解することとなった。

 

2.次に、顧客との関係を評価する共感共創度(Engagement)が大きく変動するブランドが現れる
社員同様に、ブランドのファンは最もブランドについて注意深く見ている。今は生活することで精一杯、他人のことを考えている場合ではないという状況になった際に、このブランドは何をしてくれるのか、してくれたのか、ということは一生記憶に残るものとなるだろう。そこでブランドの考えに根ざした絆の構築ができるか、何も行動しないで失望させるか、によって大きく将来は影響を受けることとなる。今回の新型コロナウイルス危機では顧客の関係を築くのに大きな役割を果たす対面のサービスが難しい状況にある。その中でどのように顧客・社会と関係構築していくかで各ブランドの評価も大きく変わってくるだろう。

例えば、Nikeは世界中での外出禁止、自粛という流れの中で、室内でもアクティブにポジティブにそしてヘルシーに過ごせるよう様々な活動を行っている。マラソンの大迫選手やサッカーの長友選手などチームナイキによるトレーニング動画の投稿、みんなで「一緒に動き続けよう」として、ライブストリーミング「NTC LIVE TRAINING」の展開をするなど、今だからこそ必要なアプローチで社会との絆を構築している。

また、Netflixの拡張機能であるNetflix Partyは、鑑賞中の画面右側にグループチャットが表示され、リアルタイムの会話が可能となる。離れたところにいる友人や家族と「オンラインNetflix観賞会」を楽しむことができるのである。家族や友人とのつながりをNetflixがサポートすることでNetflixへのエモーショナルなつながりも強化されることとなるだろう。

 

3.危機後の人々の価値観や行動の変化に対して、企業自身がブランドのあり方を大胆に変化させられるか
リーマンショック後の世界では、社会がデジタル化による新しいブランド体験を享受し、大きく価値観が変化するなかで、企業自身の変革能力を評価する変化対応度(Responsiveness)および顧客ニーズへの対応力を評価する要求充足度(Relevance)が、グローバル(図表3)でも日本でもブランドの重要な成長要因となってきていた。

図表3

>参考記事(Best Japan Brands2020からみる日本ブランド成長へのヒント)

 

世の中は新型コロナウイルスの前と後という形で表現されるのではないか、というほど社会や人々の価値観・行動は大きく変わるだろう。そのため、全世界で同時多発的に起きている顧客の変化を、どれだけリアルに感じ取り、大胆にブランドのあり方を変化させることができるかが重要となる。正直なところ、私たちが多くの日本企業と関わる中で、この変化対応度と要求充足度は大きな課題となっており、簡単には改善ができない状態がみられた。それは旧来の企業体質とサービスのままでもそれを享受できる市場が存在したからである。しかし、世界は変わったのである。新型コロナウイルス後は1年前の世界とは大きく違うのである。その世界に合わせて自分たちはどこまで迅速に変化できるのか、新型コロナウイルス後の世界でのブランドの生き残りのカギとなるだろう。

 

全てはやり直しなのか?
では、変わる世界の中で、ブランドは何もかも変わらなければならないのだろうか。答えはNoである。ブランドのビジョンやパーパスといった根幹はブレてはならないのである。寧ろそれらをかつてないほど社員とともに深考するのである。そして、そこから生まれる共通理解と熱量をもって、大きく変わる顧客の価値観やニーズに合わせた形でブランドのあり方を大胆にアップデートしていく、ということが重要である。もし、そのような拠り所となるビジョンやパーパスが明確になっていないのであれば、まずそこを泥臭く議論することから始めることをお勧めする。

一覧に戻る