新発見! 顧客体験(CX)とブランド価値(BV)の関係性 | インターブランドジャパン
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新発見! 顧客体験(CX)とブランド価値(BV)の関係性

インターブランドジャパン
エグゼクティブ・ディレクター 戦略グループ 田中英富

 アップルの創業者であるスティーブジョブスは、ブランドについて、生前、次のように語っている。「私にとっては、ブランドとはシンプルなこと、『信頼』です。あなたに対する顧客の『信頼』です。顧客は良い経験をすると、口座にお金を入れ、悪い経験をするとお金を引き出します。」

201911月、インターブランドジャパンのグループの一員であるC Space Japanは、日本初の顧客体験価値(CXCustomer Experience)のランキングを発表した。このランキングは、「カスタマーエージェンシー」と呼ばれるC Spaceが、2015年からアメリカとイギリスで実施してきた「顧客体験価値(CX)調査」を日本で初めて実施し、顧客視点でのすべての体験を通じたブランドの「顧客体験価値(CX)スコア」により順位付けしたものである。

“顧客体験価値(CX)”とは「顧客視点のすべてのユーザーエクスペリエンス」のことであり、商品やサービスの機能や性能などの機能的価値だけでなく、そのブランドや企業に関わるすべての体験を通じて顧客が経験する喜びや満足感などの情緒的価値まで含んでいる。したがって、顧客体験価値を高めることがブランド価値の向上につながるものと考えられる。

ところが、今回発表した顧客体験価値(CX)ランキングとインターブランドのブランド価値ランキング(Best Japan Brands 2019)のトップ10の顔ぶれをみると、必ずしも顧客体験価値の高いブランドがブランド価値のランキングで上位にはないことがわかる。(図1

 

1:顧客体験価値(CX)ランキングとBest Japan Brandsのトップ10ブランド

順位 顧客体験価値(CX)ランキング2019 Best Japan Brands 2019
ブランド CXスコア
(ポイント)
ブランド ブランド価値
(百万ドル)
1 カゴメ 7.47 トヨタ 53,404
2 クラブツーリズム 7.44 ホンダ 23,682
3 キユーピー 7.43 日産 12,213
4 ANA 7.37 キヤノン 10,380
5 ニトリ 7.10 NTTドコモ 9,732
6 阪急交通社 7.02 ソニー 9,316
7 味の素 6.98 MUFG 6,807
8 コカ・コーラ 6.97 パナソニック 6,293
9 高島屋 6.86 ユニクロ 6,235
10 タニタ 6.82 ソフトバンク 5,523

 

インターブランドのブランド価値評価は、ブランドが生み出す財務上の利益をベースとしているため、顧客体験価値は高くても比較的事業規模が小さいブランドは、ブランド価値のランキングで上位に上がりにくい傾向があると考えられるが、インターブランドのブランド評価指標の一つであり、事業規模の影響がない「ブランド強度スコア」と「顧客体験価値(CX)スコア」の関係性をみても、必ずしも顧客体験価値の高いブランドが「ブランド強度スコア」高いとは言えないのである。(参照:ブランド強度スコアについて

グラフ(図2)は、インターブランドのブランドランキング(Best Japan Brands 2019)C Space の顧客体験価値(CX)スコアランキングのいずれにもランクインした28のブランドの、「CXスコア」と「ブランド強度スコア」を対比させたものである。ここにプロットされたブランドは、インターブランドのブランドランキングにランクインしているので、それ相応の事業規模があるわけだが、これをみると、「CXスコア」と「ブランド強度スコア」がいずれも高いブランド(右上)や、逆に両方のスコアがいずれも低いブランド(左下)以外にも、「CXスコア」が高いにも関わらず「ブランド強度スコア」が低いブランド(右下)や「CXスコア」が低いにも関わらず「ブランド強度スコア」が高いブランド(左上)が存在していることがわかる。

 

CXスコア」と「ブランド強度スコア」の大きな評価内容の違いは、前者は、「顧客が求める体験価値の5要素」を具体的な項目に分解した21項目を顧客に評価してもらったもので、「顧客視点」のみのブランド評価である一方、後者は、「信頼確実度」「要求充足度」「差別特有度」といった「CXスコア」と同じような「顧客視点」の評価だけでなく、「概念明瞭度」「関与浸透度」「統治管理度」「変化対応度」といった「企業視点」のブランド評価も合わせて行なっていることにある。

実際のところ、「CXスコア」が高いにも関わらず「ブランド強度スコア」が低い右下のゾーンには、「顧客体験」には定評があるものの、会社の歴史が短く、未だ、オペレーションの仕組みに比べて、ブランディングの仕組みが十分ではなかったり、ブランド体系が未整備で、企業の取り組みが潜在顧客に伝わりきれていない、いくつかの残念なブランドが位置している。(ちなみに、「CXスコア」が低いにも関わらず、「ブランド強度スコア」が高い、左上のゾーンには、歴史もありグローバルなブランドマネジメント体制も確立されているが、経営トップの不祥事によりブランド価値の毀損リスクにさらされている企業が位置している)

繰り返しになるが、顧客体験価値はブランド価値の向上の「必要条件」である。しかし、それは、「十分条件」ではない。商標権としてブランドを権利化しなかったため、「無印良品」の商標訴訟で本家である良品計画が中国企業に敗訴した(この場合「統治管理度」が弱かった)ように、「ブランドづくり」は「顧客体験」だけではない、「顧客」と「企業」との「共同作業」なのである。冒頭のスティーブジョブスのブランドの考え方に擬えれば、強盗や災害の心配がなく、「顧客」の「預金」を安心して保管できる「信頼」のおける「金庫」をつくることは企業側の責任であると言える。

 

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