元Appleのチーフエヴァンジェリスト、Guy Kawasaki氏へのインタビュー | インターブランドジャパン

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元Appleのチーフエヴァンジェリスト、Guy Kawasaki氏へのインタビュー

「人は形にして見せてもらうまで、自分が何を欲しいのかわからないものだ」。こう述べたのはSteve Jobsだが、果たして彼は正しいのだろうか?

Guy Kawasakiによれば、彼は正しい。だが、このようなことを言える人物はSteve JobsWalt DisneyElon Muskだけに限られるという。

Kawasakiは1980年代半ば、AppleのチーフエヴァンジェリストとしてSteve Jobs本人の下で働き、直接学んだ。当時Macintoshのコンピュータは誰にとっても未知のもので、この”福音”を広めることがKawasakiの使命だった。製品それ自体が彼の任務をたやすいものにしたとKawasakiは振り返る。「人生で私が得た教訓の1つは、良いものを広めることは簡単だが、つまらないものを広めるのは困難だということです。良いものを見つけられれば、人生は楽になります」

ブランドと顧客の利益を結びつけるエヴァンジェリズム・マーケティングの先駆者であるKawasakiは、Apple在籍時以来シリコンバレーの導き手となり、まさにスラッシャー(同時に複数の仕事を手がけ様々な肩書きを持つ人)として活躍している。様々な場で発信を行っており、オンライングラフィックデザイン企業 CanvaのエヴァンジェリストやMercedes-Benzのブランドアンバサダーを務めているほか、ベストセラーとなった「The Art of the Start」、「The Art of Social Media」や新刊本「Wise Guy: Lessons from a Life」の著者でもある。

ポッドキャスト「Outside In」に出演したKawasakiは、エヴァンジェリストとして顧客に製品や技術を伝える中で経験した興味深く洞察力に富むストーリーを披露した。またこれまで得た教訓や、「Steve Jobsもどき」に対する苦言のほか、恐怖がいかに大きなモチベーションとなりうるかなどについても語っている。

 

以下のインタビューは、読みやすさを考慮して編集・要約されている。

ーどのような経緯でAppleのチーフエヴァンジェリストを務めることになったのでしょうか?

「私が1980年代半ばにMacintosh部門を立ち上げた時、Macintoshは単なる新しいパーソナルコンピュータではなく、まさに”福音”でした。エヴァンジェリズムとは福音を広めることです。私たちはMacintoshが人々の創造性や生産性を高める福音だと考えたのです。それは単なる新しいパーソナルコンピュータ・プラットフォームではありませんでした。その後Macintoshはいわばムーブメントとなり、宗教になったのです。私たちが欲しかったのはサードパーティのハードウェアやソフトウェアのマネージャーではなく、熱意を感じさせる何かでした。そこでソフトウェア・エヴァンジェリストという言葉を生み出し、スタートしたのです」

ーあなたは「セカンドフォロワー」という言葉も作りましたね。正確には何を意味し、Appleにとっては誰を指しますか?

「ファーストフォロワーとは、あなた自身や配偶者、共同創業者、従業員などです。一方、あなたを正当化してくれるのがセカンドフォロワーです。セカンドフォロワーは身内ではありません。彼らを取り込むことができなければ、成功は望めないでしょう。

1983~84年当時、私たちはジャーナリストやアナリストと会う度にMacintoshはナレッジワーカーのためのマシンであると説明しました。人々はいつも”Macintoshを使っている大企業(学校ではなく)はどこか”を聞きたがったものです。そんな時、私たちはまるで500件もある事例の中から1件に絞り込んでいるかのように考え込みます。そして決まって『そうですね、Peat Marwick社に採用されています』と答えるのです。事実Peat MarwickMacintoshを採用し、同社の監査担当は現場にコンピュータを持ち込んでスプレッドシートを作成していました。文字通り大企業でMacintoshを社内システムの標準マシンとして採用していたのは同社だけだったのです! そしてPeat Marwickは、皆がMacintoshを使い始めるのを正当化するセカンドフォロワーとなりました。私たちがシリコンバレーで得意とすることの1つは、成功するまでその振りをする術を知っていることです」

ー有名な話ですが、Steve Jobsは顧客が何を欲しがっているのかについて悩む必要はないと考えていました。彼は正しかったと思いますか?

「そう思います。Steveが行ったことについては2通りに解釈できます。1つは、人々が欲しい、必要だと思うようになるものを彼が予見できたということ。もう1つは、何であれ彼がいいと思うものを作り、人々にそれを気に入らせたということ。いずれの解釈も成り立ちます。

ただし”Steveもどき”が問題なのは、よく分かっていない人たちが彼を見てこう言い出すことです。『よし、自分もSteve Jobsになるぞ。市場調査もしないし、他人の意見も聞かない。LevisのジーンズとNew Balanceのシューズと黒のタートルネックセーターを身に付けて、Mercedesを買ってもナンバープレートは付けず、相乗り専用レーンを1人で運転して、障害者用スペースに駐車する。自分が次世代のSteve Jobsだ。』そんなことをしても君はSteve Jobsじゃない、単なるろくでなしだということです。

重要なのはSteveの見た目ではありません。彼が持つビジョンであり、天賦の才能です。それらを備えた人物は、アメリカのビジネス界ではSteve JobsWalt DisneyElon Muskだけなのです。他にはいません。テクノロジー系スタートアップのCEOが高齢者向け出会い系アプリを立ち上げて、『私は出会い系ソーシャルメディアを運営するビジョナリー(未来志向の起業家)です。あなたのお祖母さんの写真を左にスワイプすると…』などと言うのを聞くと、『勘弁してくれよ』と言いたくなります」

ー新刊本「Wise Guy」には、あなたが得た意義深い教訓が数多く紹介されていますね。指導の厳しい師の重要性もその1つです。彼らはあなたに何を教えてくれましたか?

「高校の時の英語の先生は、エッセイの課題で生徒がコンマを入れ忘れたり、不定詞を分離したり、受動態にした箇所に印を付けました。生徒は間違った箇所、規定を破った箇所を書き出した上で、書き直しをしなければなりません。この3段階のプロセスを毎回やらされるのです! 辟易しましたが、書き方をみっちり学べたのも事実です。当時は非常にイライラし、うんざりしました。しかし振り返って思うに、最も大切なことを教えてくれたのはその先生だったのです

Steve Jobsも同じタイプの師でした。彼にとっての人材教育とは、社員を同僚たちの前でこき下ろすことです。彼は社員をそばに呼んで『お互いに合意できる目標について話し合おう。君のプロ意識やキャリアの良い点に焦点を当てよう』などと言ったりはしません。ただ相手を斬って捨てるのです! 私は人前でズタズタにされる大きな恐怖の中で暮らしていました。人材育成についてよく言われているのとは逆に、恐怖は大いなる動機づけになります。Appleでは恐怖が私たちに人生最高の仕事をさせました。恐怖が成功のための唯一の方法というわけではありませんが、効果があるのは事実です。私は恥をかかされるのが死ぬほど怖かったのです」

ーリーダーはある程度の謙虚さを持つべきであり、彼らは皆顧客にサービスを提供している立場であることを忘れがちです。この謙虚さについて、Sir Richard Bransonにまつわる素晴らしい逸話があるようですね。

Richardと私がたまたまモスクワにいた時のことです。彼がスピーカールームに入って来て、モスクワにはVirginで来たのかと尋ねるので、私はこう答えました。『Richard、僕はUnited Airlinesのマイレージプログラムの上級会員なんだ。ステイタスの条件はよく分からないけど、貯めたマイルを無駄にしたくない。』すると彼はひざまずき、自分のジャケットで私の靴を磨き始めたのです。その時の写真はこの本に掲載されています。私はそこに座りながらこう思ったものです。『この男は島を所有している。ナイトの称号を持ち、億万長者で、これまで上げた功績は数知れない。なのに、Virginの利用客を1人増やすためにひざまずいている。』それを機に私はVirgin Americaを利用し始めました。Steve Jobsがひざまずいたところなど、もちろん見たことはありません。ここから学べるのは、Richardが億万長者である理由は謙虚さにあるということでしょう。彼が自分の島を所有しているのは、彼がそうしたいと思っているからです。つまり何をしてもうまくいかないのなら、ひざまずいてそれを乞うべきなのです!」

ーつまりあなたは、Steve JobsになろうとするよりもRichard Bransonになる方が成功する確率が高いと言いたいようですね。

「全くその通りです。Steve Jobsのような人物が現れるのは20年に1人で、次のSteve Jobsになれる確率は非常に低いのです。賛成してもらえないかもしれませんが、私は顧客のところへ行って『当社のビジネスをどのように革新して欲しいですか?』と聞いても意味がないと思っています。なぜなら、顧客は『今のAppleよりも、もっと容量が大きくて速くて安い製品が欲しい』と言うに決まっているからです。実現させるには、リスクを負う覚悟とビジョンと情熱、それにとんでもないまぐれ当たりが必要です。一方で、『よし、顧客と話してみよう。彼らにすでに販売している製品をどう進化させたらいいか教えてくれるだろう』と言うには謙虚さが必要でしょう。顧客に『Appleよりもすごい製品のことは忘れて、私たちから新しい製品を買ってもらうにはどのようなものを作ればいいでしょうか?』と尋ねるのもやめたほうがいいと思います。これはさらに難しい質問だからです。成功するには、ビジョンと情熱と運だけでなく、ありとあらゆる資質や条件に恵まれる必要があるからです」

ー企業の顧客に対する質問が、顧客にとって解決されるべき問題についてではなく、単に製品についてであるなら、物事は間違った方向に向かいます。製品を少し改善するために質問するのではなく、企業が「あなたの人生で解決されるべき問題は何ですか?」と尋ねることにもっと時間を割くことができれば、かなり違ったものになると思うのですが。

「人々に質問するという行為は一筋縄にはいきません。私が誰かに質問されたら、頭の中に2つの考えがよぎります。1つは『何と答えようか』、もう1つは『こう答えたら、この人はどんな反応をするだろう』です。例えば『どんなクルマが欲しいか』と尋ねられたら、それに対する答えはあるわけですが、社会的な影響を考慮しなければなりません。仮に私が600馬力のV12エンジンの自動車が欲しいと言えば、相手は私を反環境主義者と思うでしょうから、そうは答えません。もし市場調査会社の人であれば、質問を受けたとしても隣に誰か座っている時にそうした話をすること自体がタブーです。女性を口説こうとしている男性なら、相手への印象を良くしようと『Priusが欲しいんだ。環境に配慮したいからね』などと言うでしょう。報酬をもらえる調査であれば、こう考えるかもしれません。『50ドルもらうんだから、何か知的なことを言わないと。本当はスポーツカーが欲しいけど、彼らが聞きたがっている答えはそうじゃないよな。彼らが望むことを言っておこう』と。

AppleにSteveがいた時、”市場調査会社”というのはつながっている彼の右脳と左脳のことでした。それだけです。それが市場調査だったのです」

 

Translated and edited from “Evangelist in Chief: Q&A with Guy Kawasaki“, July 26, 2019, brandchannel.com

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