もっと知りたくなるストーリーづくり -ブランドの事実・秘密・意味性を語ることが共感を生み出す | インターブランドジャパン
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もっと知りたくなるストーリーづくり
-ブランドの事実・秘密・意味性を語ることが共感を生み出す

 インターブランドジャパン
エグゼクティブ・ディレクター 戦略グループ 矢部 宏行

デジタルメディアが主流となり、電車に乗れば年齢問わず、10人の内8人はスマホやタブレットを覗いている姿を見かけるようになった。興味ある情報を探ったり、記事を読んだり、ゲームに興じたりとその姿は様々だが、共通して言えるのは、目的意識の強さはともかく、彼らは受動的ではなく、自ら主導的に情報に出会おうとしているということだ。
そして、目にした情報に留まり、深く知ろうとするアクションが起こるのは、単に情報が羅列されている状態ではなく、個々の情報が、わかりやすく、繋がりをもって、興味を引く文脈になっている時である。整然ときれいに並んだ情報は、どこに注目してよいのかわからず、結果、人を振り向かせる力を持たない。デジタルメディアが大きな影響力を持つ時代において、重要な要素は、単なる事実や考え方が並んでいる情報ではない、「ストーリー」にあると考える。

ストーリー(物語)とは何か。辞書でみると「あるまとまった内容のことを話すこと(出展:三省堂 大辞林)」とある。ブランディングにおけるストーリーとは、「事実や体験といった構成要素とその意味性を一つの流れのなかで描いた枠組み」と言えるのではないだろうか。一連の事実を羅列した説明ではなく、事実を含んだ文脈の中でブランドが持つ意思や情緒的な感情を生み出す物語であるということが重要である。
そして本稿では、メッセージ(文章)という意味の物語ではなく、事業戦略としてのストーリーという観点で考えてみたい。

ストーリーづくりのベースは、「具体的な事実」であること。歴史や現在・将来の活動を含めて実質的な中身があるということだ。そして、次に情報の受け手にとって「興味深い秘密」のようなことがあること。そして、もう一つが「意味性」があること。ここでいう意味性とは社会貢献や環境保護に何等かの貢献をしているということである。これらの要素が一つの流れになって顧客や社会に伝えられた時に共感が生まれるのではないかと考える。

ここで「カルピス」というブランドについて、考察してみたい。
年齢によって「カルピス」の認識の仕方は異なるだろうが、子供時代、夏に、白い液体を水で割って、カランコロンと氷の音を立てながら飲んだ記憶がある方も多いのではないだろうか。そして今では、中高校生の夏の定番飲料、あるいは、花粉症に悩む人たちが「カルピス」のサプリメントを利用されているかもしれない。

「カルピス」は、その生みの親である三島海運(みしまかいうん)氏が1900年初頭、仕事で訪れた内モンゴルの地で、胃腸が弱り体調を崩した際、現地の人から勧められた馬の乳を乳酸菌で発酵させた「酸乳」という白っぽい飲み物を飲んで回復できたというその出会いから始まる。カルピス社は現在アサヒグループの傘下にあるが、かつて掲げていた企業理念は、「“魅力と価値のある商品や技術を提供して、心とからだの健康に役立ち、社会に貢献できる企業グループを目指します。」というものであった。「カルピス」誕生から90周年を迎えた2009年ごろから「乳酸菌の自然の恵みから生まれました」という考え方を基盤としてWeb情報やマス広告でその魅力を伝えていった。717日を「カルピス」の誕生日に設定したり、製造している群馬の工場でカルピスが生まれているというリアルな姿を伝えることでストーリーに厚みを持たせている。現在では、乳酸菌と発酵という同社の核となる武器をベースとして、アレルギーや、低下する骨密度に悩む人に向けたサプリメントを「カルピス健康通販」という事業で提供しており、「カルピス」は、もはや白くて甘い飲料ではなく、乳酸菌と発酵を基盤とした、人の「心とからだの健康」に役立つブランドとして変化してきたように見える。

「カルピス」は、乳酸菌発酵から生まれる商品であるという「事実」に、実は、モンゴルで馬の乳の発酵乳との出会いから生まれ、77日が誕生日といった「秘密」が加わり、社会全体が期待する健康に貢献しているという「意味性」を商品そのものが実証することで、独自の興味深いストーリーをつくりあげている。昨年の2019年、「カルピス」は誕生から100周年を迎えた。長い年月の活動を踏まえてのストーリーづくりが、甘酸っぱい飲料という「モノ」の価値を超えた、豊かな連想を備えたブランドに成長させたと言える。

戦略的なストーリーを、わかりやすく伝えている事例としては「テスラ」が挙げられるかもしれない。起業家イーロン・マスクが主導する、電気自動車、そしてソーラーパネルや蓄電池を開発・製造・販売している自動車会社である。

2006年にイーロン・マスクは、「秘密のマスタープラン」と題して、事業計画を発表した。まずは、優れたエネルギー効率を持つハイパフォーマンス電動スポーツカーをつくり、次にそこから生まれた資金を活用して手頃な価格の4ドア高級セダンをつくる。そして低価格のセダンをつくって大量生産によるスケールメリットを得た上で、排ガスゼロのソーラーパネル発電を提供するといったものだ。計画は実行に移され、2016年にテスラはその成長戦略にさらに新しい方針を加えている。自動運転テクノロジーの開発、バッテリーと一体化した住宅用ソーラールーフの開発、カーシェアリングといった内容である。

「テスラ」の事業戦略は、安全で速い世界最高の電気自動車の開発・製造・販売という「事実」をベースとして、現在の打ち手やプランが、実は次の新たなプランのためだったという「興味深い秘密」が備わっており、それらが解き明かされる度に、顧客・株主・社会をワクワクさせている。そして、何より魅力的なのは、打ち手の先にある目的が、“持続可能エネルギーで動くソーラー発電社会へのシフト”という地球や社会の未来に向けた「意味性」である。だからこそ、「テスラ」が語るこのストーリーに、社会や関係者、株主たちは熱狂している。

ソーシャルメディア全盛の時代に、事実をそのまま並べただけでは、他の情報に埋もれてしまう。ブランドが、どのように生きてきたのか、これからどのように歩もうとしているのかを、様々な事実を社会的な意味性や想定しなかった秘密と絡ませながら、ストーリーをつくりあげていく。そして何度も語られて、ストーリーに新たな事実が結びつき、さらに真実味や影響力が増していく。そんな循環をつくりあげることができれば、そのブランドは、いつの時代にも興味をもってもらえるブランドであり続けるのだと考える。

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