「店頭で気が変わる」の秘密を解く〜チャネル多様化時代の購買心理 | インターブランドジャパン

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「店頭で気が変わる」の秘密を解く
〜チャネル多様化時代の購買心理

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シニア・デザイン・ディレクター クリエイティブグループ 宮城愛彦

三思後行(さんしこうこう)

【意味】
物事を行うとき、熟慮したのち、初めて実行すること。三たび思い考えた後に行う意から。もとは、あまりに慎重になり過ぎると断行できず、また、別の迷いを生ずるのを戒める言葉であったが、今では一般に軽はずみな行いを戒める語として用いられる。

(三省堂 新明解四字熟語辞典より)

自分で言うのもなんだが相当優柔不断な性格である。

例えば、先日Bluetoothのイヤホンを購入した。どのブランドのイヤホンが性能、デザイン、価格のバランスが良いのか散々調べに調べ上げ、「よし、コレにしよう」と決めて家電量販店に行ったにも関わらず、店頭に行った途端、その判断が正しかったのか不安になり、改めて店頭でいろいろと話を聞いた結果、全く別のブランドのイヤホンを購入してしまった。そしてそんな時は決まって「この決断は本当に正しかったのか」と不安が襲ってきて、しばらく後悔しながら製品を使うことになる。着ていく服を選ぶ時、昼食のメニューを選ぶ時、映画を見る時、週末の行動を考える時「何かを選ぶ・判断する」というシチュエーションでは決まってこんな思いの日々を過ごしている。あまりにこんな事が多いので、「きっとこれには何か理由があるはずだ」と考えてみた。

日頃、プロダクトブランド開発の仕事をしていると、パッケージデザインの評価のため、消費者調査に参加する機会が多い。ショッパーの行動を「STOP(目を止める)・HOLD(手に取る)・CLOSE(購入する)」と要素分解し評価する手法が知られている。模擬店舗の調査会場に開発中のパッケージを陳列して実際に消費者の方に買い物をしてもらい、「顧客が店頭でSTOPしなかった=では、もっとロゴを大きくして視認性を高めよう」とか「HOLDはしたがCLOSEはしなかった=では、商品を手に取った時に最後の一押しになる魅力的なコピーを加えよう」といった具合に、より効果的なパッケージデザインを生み出すための有効的な手法として取り入れている企業は少なくない。

先日参加した調査でのこと。

被験者の消費者が模擬店舗をうろうろして商品を選ぶ時、どこを見ていたか、何を手に取ったかと、その行動を一喜一憂しながら見守るのだが、その消費者は、我々がデザインした新しいパッケージには見向きもせず、競合ブランドの商品を迷わず手にとって模擬店舗を出てしまった。その迷いなく商品を選ぶ姿に大きな違和感を覚え、「え?いろいろ選んだりしなくていいの?」と思い、消費者に質問してみると「前からインターネットで調べていて、これを買いたいと思っていた」とのことだった。

 

優柔不断の謎を解く話に戻る。

先日お声がけいただいたこともあって珍しくマーケティング関連のセミナーに参加した。会場に向かう途中、2時間のセミナーで喉が乾くだろうしお茶でも買おうかとコンビニに立ち寄ったが、店頭で新製品に目移りしてしまって買ったペットボトルのコーヒーを、「やっぱり無難にお茶にしておけば良かった」と後悔しながら飲んでいると、この優柔不断な日々の謎を解く話があった。「解釈レベル理論」というもので、人は対象や出来事に対して感じる心理的距離が遠い場合、高次レベルで対象を解釈するが、その逆に距離が近い場合は低次レベルでの解釈を行いやすくなるというものである。すなわち、対象との距離によって人は評価や判断のポイントが変化してしまう、という事である。

冒頭のBluetoothイヤホンの謎を解いてみる。買う前に雑誌やインターネットでどのブランドのイヤホンが良いかと調べている時、つまり対象との距離が遠い時は「高次レベル=なぜそれを使うのか、何のためにそれを使うのか」といった意義や目的に焦点があてられ、より本質的な判断をしているのに対し、いざ店頭に行ってそれを買おうかと思っている時、つまり対象との距離が近い時は「低次レベル=どうそれを使うのか、どうやってそれを使うのか」といった具体的な事に焦点があてられ、非構造的な判断をしてしまう。つまり、最初の判断は正しかったと言え、購入後「この判断は正しく無かったのではないか」と後悔するのは当然だった訳である。

考えてみれば、模擬店舗での消費者調査に基づいた「店頭で売れるパッケージ」開発は、そもそもそうした消費者の低次レベルでの判断を前提にしていると言える。多くの顧客が店頭で非構造的な判断をする前提で、その為に「新規性や話題性、独自性」といった副次的な価値で刺激を与える手法を何年もかけて研ぎ澄ましてきた。一方で、インターネット等で事前に商品評価が出来るようになってきた昨今、先日の迷いなく商品を購入した消費者のような高次レベルの判断で選ばれるブランドになるためには、その開発手法そのものを改める時期に来ているのではないか。

三思後行の語源は「論語」の中の記述で「中国春秋時代、魯の家老の季文子はきわめて慎重な人で、三度考えてから初めて実行した」との事からきているそうだ。そしてこの話は続きがある。それを聞いた孔子は「二度考えればそれでよろしい」と言ったそうだ。

優柔不断を改め、高次レベルの判断を信じて「一思後行」で生活してみることにしよう。

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