ブランド創りはヒト創り。ブランドの資産化は、“人財”から始まる | インターブランドジャパン

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ブランド創りはヒト創り。ブランドの資産化は、“人財”から始まる

インターブランドジャパン
エグゼクティブ・ディレクター 戦略グループ 薄阿佐子

ますます経営課題として重要になってきている“人財”

ここ数年、様々な企業の経営層のみなさまと議論して感じるのは、改めて企業で働く“ヒト”が経営資源として重要視されてきているということである。

少し前の話になるが、1990年代に特にサービス業において注目を浴びていた「サービスプロフィットチェーン」という考え方をご存じだろうか。
これは、顧客と従業員の満足を収益性に関連づけるフレームワークとして、1997年にハーバードビジネスレビューの論文で提唱された考え方である。企業にエンゲージメントされている従業員はロイヤルティが高く、従業員の成長につながり、それによって顧客体験の質が向上し、顧客満足につながる。その結果、顧客ロイヤルティが高まり、収益/利益が成長するという連鎖である。

また、エンゲージメントの効果として、米国企業が実施した調査でこのような結果が報告されている。
エンゲージされている従業員は38%が平均以上の生産性を上げ、自発的な努力を行っている。また、30%が離職しない意思が固く、1従業員当たりの計算では年間給与の1~1.5倍の経費が節約されたことになる。一方、モチベーションが高く、方向性を共有した従業員を持つ企業は、同業他社よりも収益パフォーマンスが優れている、というのである。

 

経営に“人財”の考え方が積極的に取り入れられ始めた1990年代

こうした考え方を背景に、1990年代後半当時、多くの企業から問い合わせがあり、「ES(従業員満足度)とCS(顧客満足度)を測定し、どうサービスレベルを向上させていくか?」といったプロジェクトを多く手がけさせていただいたものである。

一例として、某ドラッグストアのケースを挙げる。
某ドラッグストア20店の店舗店員の仕事への意欲や行動基準の実践度を測定し、同時に各店の顧客満足、売上成長や収益性を比較したところ、見事に両者の間には相関があり、その後の実行施策としてESCSが好循環になっている店舗をベストプラクティスとして社内に共有し、全店のレベルアップを図った。
上記は一例に過ぎないが、当時、ESCSの関係性を図り、ESCSに効く要因を洗い出し、それに手を打っていくといった類の経営課題をテーマとする企業からのご依頼案件は非常に多かった。

 

ESCSという考え方に、さらに“ブランド経営”が加わり、パワーアップした“人財戦略”

このように、“ESCS”という観点から人財を重要視する傾向は昔から変わらないが、特に2000年代に入ってブランディングが経営課題に取り入れられ、さらに2010年以降、M&Aによってマーケットを拡大することが加速されてきてからというもの、よりヒトを経営資源ととらえる傾向は強まっていると肌で感じる。

インターブランドでは、定期的にプライベートセミナーというかたちで、ブランドにかかわる様々なテーマのセミナーを実施しているが、その中でも企業の皆様の興味関心が大きく、人気の高いテーマのひとつが、“社内へのブランド浸透活動”である。すなわち、“ヒト”にいかにブランドの考え方を伝え行動を変えていくか、といった組織変革の手段としてブランドが用いられているともいえる。

ブランド構築は、まず中核に強いブランドの考え方があり、全社員がその本質を理解し、そうした彼らから創り出された事業活動を通じてお客様に届き、ブランド価値向上につながるといった一連のプロセスを経て形成されていく。インターブランドのブランド価値評価も、社内(インナー)の視点と社外(アウター)の視点の両方を重視したフレームになっている。
インターブランドのブランド価値評価は、大きく3つの分析から試算されるが、そのうちの一つが“ブランド強度分析(Brand Strength Score=BSS)”であり、社内4視点、社外6視点のトータル10視点から評価を行う。

社内の視点は、以下の4つからなる。

すなわち、上記4視点をもとに社員一人ひとりの意識、並びに組織を変えていく(進化させていく)ことが、ブランド価値向上につながり、経営的効果をもたらすのである。
ちなみにこの4つの指標は相互に関係している。例えば、Clarity(概念明瞭度)が高い人は、Commitment(関与浸透度)も高く、その結果、パフォーマンスも高く会社への誇りも高いという好循環の構造になっている傾向にある。

ここに二つの興味深いデータがある。

1:某食品企業グループにおいて】
同社はブランディングスタート後、インターブランドのブランド価値評価のフレームワークのうち、ブランド強度分析(Brand Strength Score=BSS)を活用したブランドKPIを設定し、ブランディングの効果を測定している。その中で、事業やサービスブランドの考え方がエンゲージメントされている人ほど、その会社に対する誇りや、やりがいを高く感じているというのだ。また、その会社の愛着、並びに一体感も同様に事業やサービスブランドがエンゲージメントされた人ほど高く評価している。

2:某マスメディア事業グループにおいて】
同社も、コーポレートブランディング着手後、ブランドの考え方の理解度、行動としての発揮度、会社への誇り等についてKPIを設定し、トラッキングを行っているが、いずれもブランドの考え方をしっかり認知・理解している人ほど、実際に行動に落として取り組み、そして会社への誇りも感じているという結果がいずれの部署においてもみられた。

もう一つ、明確な差別化されたブランドの考え方の元、効果的に社内エンゲージメントを行い、社外に対しても成果が出ているケースをご紹介しよう。

2019年度第二回Japan Branding Awardsを受賞された、TIAT(東京国際空港ターミナル株式会社)のご担当者が、インタビューの際にこう語っていた。

『ブランディングは、継続していくことが大切。羽田空港国際線ターミナルで働いている従業員の価値を高め、誇りを醸成していく活動を継続していくことは大切』
ESと、CSは相関する関係にあるが、ここにブランディングが加わることによって、ESCSにつながり、ブランド価値向上につながり、それがまたES向上にもつながるといった3つがうまく循環していくことを願う』と。

 

今後、ますます進化が予測される“ブランドを梃にした人財戦略”

2015年から大企業を中心に急速に関心を集めている「健康経営」や、「働き方改革」。これらはもちろん、従業員を取り巻く労働環境をより改善していこうという活動であるが、現在は、そうした取り組みがブランディングとは切り離して別の部署、個別の活動として行われている傾向が多い。しかしながら、いずれの活動も対象は「社員、ヒト」である。そして、こうした「人創り」にかかわる施策を、横ぐし刺してトータルとして取り組むことにより、より一つ一つの活動成果を効果的に最大化しうるのではないかと考える。
1990年代のES, CSの重要性を踏まえ、2018,19年のトレンドとして新しい潮流がきており、ますます経営課題に「人財」の重要性の高まりと、そのソリューションがますます進化していくことは間違いない。

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