Best Japan Brands2020からみる日本ブランド成長へのヒント | インターブランドジャパン

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Best Japan Brands2020からみる日本ブランド成長へのヒント

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エグゼクティブ・ディレクター 戦略グループ 畠山寛光

Best Japan Brandsの前身となるJapan’s Best Global Brandsの発表から12年。本年からこれまでの「日本のグローバルブランド」Top 40と「日本の国内ブランド」Top 402つのランキングから構成されていたものを統合し、Top100を発表した。よりわかり易く、より簡潔に、より使い易くするという変革である。この変革の意義は「日本企業がブランド価値経営を実行するためのプラットフォームをより強固なものにする」という点で大きなミッションを担うと考えている点は、前回の弊社並木のアーティクルで説明したとおりである。
並木アーティクル:ブランド価値経営のプラットフォームをアップグレードする

今回はJapan’s Best Global Brands誕生から携わる身として、経年データの蓄積および評価ブランド数の増加などにより情報が充実した今、ブランド価値の構成要素であり、ブランドの強み・弱みを把握するブランド強度分析の観点からブランド価値向上に向けたヒントを見出したい。

 

1. ブランド価値が成長・減少しているブランドの特徴

ブランド価値の評価は、財務分析、ブランド役割分析、ブランド強度分析で構成されている。ブランド強度は10の社内・社外の要素(別表1)で評価するもので、ブランドの健康診断ともいえる分析であり、強みや弱みを包括的に評価することができる。本ランキングにおいて、ブランド強度分析のインプットは、各ブランドに関して外部から収集可能な情報である。それをインターブランドのコンサルタントが日々収集し、分析し、評価している。一部オリジナルの定量分析も実施しているが、それに頼るのではなく、専門家が1つ1つのブランドを包括的に評価するに加え、業界専門チーム、グローバルレベルでの評価チームなどのレイヤーでも分析がなされ、より客観性が強化される構造となっている。

(別表1)

 

過去5年(2016年~2020年)におけるBest Japan Brandsのブランド価値変化の要因をブランド強度分析の視点で考察してみた。まず、過去5年でブランド価値が20%以上成長しているブランド群と、逆にブランド価値が残念ながら減少しているブランド群について、ブランド強度の10要素の関係や変化をみると、以下の3点の興味深い傾向が見えてきた。

  • 「顧客の期待を裏切ってしまっている」ブランドの価値が減少している
  • 「顧客価値を中心にして事業を再構築できている」ブランドが成長を遂げている
  • 社内要素・社外要素の高低バランスにより将来の可能性やリスクが見えてくる

 

2. 「顧客の期待を裏切ってしまっている」価値減少ブランド

価値減少ブランドの特徴は信頼確実度(Authenticity)の急激な低下、もしくは社内全般+存在影響度(Presence)+共感共創度Engagement)の減少という2パターンがある
いわゆる不祥事を起こしたブランドは信頼確実度が下がってしまう。減少の度合いは顧客の期待をどの程度裏切ってしまっているかによって変わってきている。企業が信頼を軸にブランドを構築していれば顧客はそのブランドに高い信頼を寄せ、期待するが、それを裏切ってしまうとまず信頼性は大きく減少することになる。そしてそれがそのブランドのファンを裏切ってしまう行為であった場合、共感も減少していく。そしてブランド価値が急激に減少する。
典型的な不祥事がなくとも、ブランド価値が減少しているブランドでは、社内要素の全般的な減少が見られ、その後社外要素の存在影響度および共感共創度の減少がみられる。これはブランド価値向上に対する企業および組織の意識の低下が、世の中における存在感の低下と感度の高いブランドのファン離れにつながっている状況といえる。ファンの期待に応えるブランド体験を提供できないことがファン離れにつながっており、その状況が続けば、より幅広い層に伝わり社外要素の全てが減少していくことになる。例えば、コンビニ業界のブランドは伸び悩んでいるが、それはもともとは非常に強かった社内要素を構成する本部、店舗オーナー、店員といった関係者間の意識にズレが生じており、それが社内要素全体の低下につながり、顧客の高い期待に応えられていない体験が増え始め、実際の存在感低下やファン離れにつながっているケースが生まれ始めているという点が要因として考えらえる。

 

3. 「顧客価値を中心にして事業を再構築」している価値成長ブランド

一方、ブランド価値が向上しているブランドの特徴をみると社内要素の変化対応度(Responsiveness)が上がり、社外要素の欲求充足度(Relevance)が時間差で上がっている。Best Japan Brandsにランク入りし、さらにブランド価値が向上しているブランドは、既に概念明瞭度(Clarity)や関与浸透度(Commitment)という社内指標が高いケースが多い。その上で上記指標の向上が見られる。
この傾向はグローバルで毎年発表しているBest Global Brandsでも同様の傾向が見られている。つまり、顧客ニーズが急速に変化する中でいかにしてその変化を的確に捉え、顧客の期待を超えて価値提供ができるかという点が重要であり、そのためには常に顧客を事業の中心におき、顧客の価値をベースに事業を再構築する必要がある。
その代表格は、2年連続でブランド価値向上率トップの資生堂である。2014年の魚谷社長の就任当初から「動け、資生堂」をスローガンに2020年までの中長期戦略を発表し、徹底的に企業視点での「セルイン」から顧客視点での「セルアウト」を重視するアプローチを推進。そのために、組織・文化・プロセスなどを大きく変革させてきた。それにより、顧客が求める価値をいち早く届けることができる企業へと進化している。さらに小手先のコミュニケーションやインバウンドなどの外部要因によらず、真にブランド価値が高まっていく力強さを感じるブランドである。

 

4. 社内要素・社外要素の高低バランスにより将来の可能性やリスクが見えてくる

ブランド価値が減少、成長しているブランドの特徴を見てきたが、経年における評価の蓄積から社内要素と社外要素のスコアのバランスがブランドの将来の成長可能性やリスクを示しているという傾向も見えてきている。ブランド強度の考え方は、社内で強固なブランド基盤を構築し、その力を社外にいかんなく発揮しているブランドが強いブランドであるというものである。ここでスコアの社内・社外バランスについて注目すると、社内スコアが社外スコアより高い場合、将来的にブランド価値が向上しているケースが多い一方、社内スコアが社外スコアより低い場合、将来的にブランド価値が減少しているというケースが多く見られる。全てがそのような結果にはなっていないものの、この高低差はブランドの将来の可能性やリスクに対して大きな示唆を提供してくれるものである。実際には、2000年代前半のソニー、2010年代前半の資生堂については、社内が低く、社外が高いという高低差が見られ、その後ブランド価値は減少・伸び悩む時期を経験している。そしてその後両ブランドともに全社改革に取り組み、社内要因が高まり、社外要因が高まってきている。

 

5. 特徴から見えてくるヒント

ブランド強度の過去データを活用した分析からブランド価値増減の特徴が見えてきたが、ここから得られる日本ブランドが成長するための示唆とはどのようなものだろうか? 我々は以下が特に重要なことではないかと考えている。

  • コミュニケーションやビジュアルの変更といった狭義のブランディングだけではブランド価値の継続成長は難しいと覚悟する。
  • 継続成長には、顧客価値を企業の中心に位置付け、その価値実現にむけて事業自体を変化させて行く必要があるとの認識を持つ。
  • そして、そのためには、まず経営層自らが社内の意識改革から取り組み、顧客の真のニーズを理解して迅速に様々なアプローチで顧客価値を提供することができる組織・プロセス・文化の形成を始める。

上記は、ブランディングは「顧客への約束をブランドに関わる全ての組織・関係者が果たして行く活動」であると考えると、ある意味至極当然なものである。一方、日本においてそれを実行できているブランドは非常に限られており、Best Global Brands6%成長しているのに対して、今年のBest Japan Brandsの成長が0.9%にとどまっているという結果からも行き詰まりを見て取れる。
インターブランドではこの課題意識を強く持っている。そのため、社会・顧客の真のニーズ・欲求を見極めるHuman Truth, そこから社内外の行動変容を促すExperience, そのビジネスとしての成功確率と結果を測るEconomicsというInterbrand Thinkingの3視点(別表2)を活用したアプローチにより課題解決のサポートに取り組んでいる。上記のヒントが少しでもこの後の皆様のブランド価値向上にお役に立つことができれば幸いである。

(別表2)

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