人口減少社会とブランディング | インターブランドジャパン

brandchannel:japan

brandchannel:japan

人口減少社会とブランディング

インターブランドジャパン
エグセクティブ・ディレクター クライアントサービス&ソリューショングループ 中村 正道

共通認識が曖昧な「ブランディング」という概念

インターブランドジャパンは、「ブランドが成長のレバーとして、日本にある全ての企業・組織・団体の経営方針の1つの柱として明示される。その結果、日本企業・組織・団体が成長し、日本が成長し、そして社会が豊かになる」という世界を描いている。

そのビジョンに基づいて、この度、「ブランディング」という活動に光を当てて、その「実践」事例を広くご紹介したいという想いから、弊著「ブランディング7つの原則」(日本経済新聞出版社刊)の姉妹本として、「ブランディング7つの原則 [実践編]」を上梓した。本書でご紹介するそれぞれのブランディング事例は、昨年、弊社が主催したJapan Branding Awards 2018Awardを受賞された10の活動となっている。

Japan Branding Awardsは、ブランド戦略を展開する企業・団体の支援を目的とし、優れたブランディングを実行している組織(企業・団体、事業、サービス、製品)の評価や、その活動内容を広く紹介し、共有する機会を提供することを目指し、インターブランドジャパンが、2018年に創設したもので、9月、その第2回のアワードを発表した。

本書の発行や、Japan Branding Awardsの創設は、「適切なブランディングの啓蒙」を意図したものに他ならない。違う言い方をするならば、未だ「ブランディング」は正しく理解されていないという我々の課題意識によるものである。

今日、「ブランディング」という言葉は、それを聞かない日がないほど広く普及しているが、その言葉を口にする人々が想起するブランディングの姿は、百人百様である。ブランディングという言葉ほど定義し難いものはなく、捉えどころがなく曖昧なまま、それぞれの解釈で都合よく使われる、実に取り扱いが難しい言葉ではないかと認識している。

「ブランディングとは、ネーミングやロゴによる差別化であり、広告やPRを活用したイメージアップ戦略であり、トータルなコミュニケーション活動のことである。」これらが、未だ多くの日本企業の、特に経営層におけるブランディングの認識であり、ブランディングは事業戦略の一部である「マーケティング」の延長上の「施策」と位置付けられている。その認識に立てば、必然的に、広告・宣伝、コミュニケーション関連の部門がブランディングの担い手となる。実際に、「ブランド」を冠した部署名の部門の多くが、コミュニケーション関連部門に設置されているケースが多いことがその証左である。しかし、ブランディングに対するこの認識は、グローバルスタンダードとは言えない(図1左)。

 

1:二つのブランディング

 

では、グローバルのリーディングブランドは、ブランディングを企業活動のどの部分に位置付けているのか。端的に言えば、ブランドは事業戦略と一体の関係として位置付けられ、ブランドが組織全体の活動をドライブするという考え方にたっている。ブランディングの対象がコーポレートブランドであれば、人事・採用、研究開発、商品開発、製造、営業、広報・IRなど全ての活動の起点にブランドが位置付けられることになる(図1右)。

ブランディングは組織全体で推進していく活動であり、それをリードする役割は経営者が担うべきものである。また実務的にブランディングを推進する部署は、コーポレートのブランディングであれば、コミュニケーション部門ではなく、経営企画部門が担うことが自然である。

それぞれ、同じ「ブランディング」という言葉を使用する企業活動であるが、その中身は全く異なる。関係する当事者間でこの言葉の定義が曖昧なままスタートするプロジェクトの多くは、残念ながら上手くいかない。

例えば、ブランディングプロジェクトを起案する担当者が、「全体戦略」としてのブランディングを構想し、企画を立案して経営者に上申するケースにおいて、その会社の経営者の頭の中あるブランディングが「広告コミュニケーション」であったらどうか。企画書上に記載されている言葉は「ブランディング」で、その担当者も経営者も口に出す言葉は同じ「ブランディング」であるが、それぞれが思い描く姿が全く異なる。そのようなプロジェクトは、途中でストップしてしまうことは容易に想像できるだろう。

ブランドは事業戦略と一体の関係として位置付けられ、ブランドが組織全体の活動をドライブするものでなければならない。強いブランドは、まず社員に働きかけ、優れた人材を惹きつけ、その人材を引き留め、その人材のモチベーションを高める。それを反映した社員が実践する業務活動を通して、顧客に適切に価値を伝達することができれば、顧客から、選ばれ、高く買ってもらい、買い続けてもらうことに繋がり、最終的に経済的な価値を生み出す。つまりブランディングは、ビジネスの高付加価値化を実現する企業活動である。(図2

 

2:経済的な価値を生むブランディング

 

人口減少が要請するビジネスの高付加価値化

 組織全体で取り組む活動としてのブランディングが、なぜ今日本企業に求められるのか。その必然性を検証したい。

 端的に言えば、その理由の一つは、日本企業の国際的な競争力の低下—世界の中での、日本の相対的な存在感の希薄化にある。1980年代から2021 年(予想)までの主要国の名目GDP の推移においては2010 年に中国が日本を抜き、世界第2の経済大国に躍進する中、日本経済は20 年間停滞を続けている。一方その間、同じ先進国のアメリカ、EU はそれぞれ2 倍以上の成長を遂げている。(出典:World Economic Outlook資料「2021年までの名目GDP」)

とはいえ、日本は、GDP総額では未だ先進国で第2位の経済規模を有している。その要因の一つは、先進国でアメリカに次ぐ人口の多さに他ならない。実際、日本の高度経済成長期においては、増加する人口と共に毎年GDP総額を伸ばしてきたことは歴史的な事実である(出典:IMF 購買力平価調整後名目GDP2019)「先進国のGDPと人口」)。

ここで視点を生産性に移してみたい。日本の労働生産性はOECD加盟国36カ国中21位(2017/就業者1人当たり)である。就業者1人当たりでみた2017年の日本の労働生産性は、84,027ドル(837万円 /購買力平価(PPP)換算)。順位は、OECD加盟36カ国中21位で、2013年から順位が変わっておらず、主要先進7カ国で最も低い水準となっている(出典:公益財団法人 日本生産性本部「OECD加盟諸国の労働生産性 2017年」)。

人口の多さが、日本が世界全体で3番目の経済規模を有していられる大きな要因であることに疑う余地はない。つまり、低い労働生産性でも増える人口と共に経済成長してきたのが、これまでの日本の姿である。

その一方で、日本の労働者の質は国際評価機関のWorld Economic Forumでは、世界第4位の評価を得ている。「いいものをより安く」という経営戦略のもとで、常に効率を求め、コスト削減、とりわけ優秀な労働者の人件費の抑制に邁進してきたのがこれまでの日本の経済成長の原資であったと理解することができる。

実際に、1990年代前半まで日本企業とその製品は、グローバル市場において市場シェアを拡大し、中長期的な成長を実現してきた。戦後の高度成長を長く支えた安く勤勉な労働力は「安い」製品を生み出し、その後の成長を支えた高度な技術力による「いいもの」がグローバル市場を席捲してきたことは事実である。

 しかし、これからはそうはいかない。我が国は、人類史上未だ嘗てない規模の人口減少と高齢化が同時に進行すると予測される状況に置かれている(図6)。

 

ビジネスの生産性向上と高付加価値化

この先、「少子高齢化」以上に課題となる「人口減少」は、確実に、我が国全体に生産性向上を要求する。この先減少していくことが確実な労働者人口で、増大を続ける高齢者を養う福祉予算を賄っていかなければ国が破綻してしまうということは、改めていうまでもない、周知の事実である。

我々が選択する未来として、二つのマーケットを考えてみたい。一つは、戦いの場(市場)を、縮小する国内から、海外に求める選択である。

これまで我が国の輸出を牽引してきた自動車や家電といった業界だけではなく、少子高齢化が唱えられはじめたこの10年、多くの業界が、海外展開を加速させている。いうまでもなく、そこは並み居るグローバル競合としのぎを削る世界である。

顧客満足度調査の中でも自動車関連の初期品質調査、耐久品質調査などで定評のあるJ.D.パワー社は、2001年に「もはや世の中に欠陥車など存在しない」というメッセージを発している。このメッセージが意味するものは、製品のコモディティ化。つまり、製品の機能的な要因での差別化が困難になっていることは、今に始まった話ではない。グローバル市場では、少なくともこの20年、市場のすべてのプレイヤーたちが、技術や性能といった製品の「品質」に代わる差別化要因を考え、磨き続けている。彼らが磨き続けているもの、それこそがブランドに他ならない。

では、もう一つの選択として、戦いの場を縮小する国内市場に求める場合はどうか。当然のことながら、これまでと同じシェアを確保しているだけでは、売り上げの減少は明白なので、利益額を拡大することを考えなければならない。

その場合、今まで以上にコストを削減して利益を拡大するという答えが返って来るかもしれない。確かにその方策は、短期的には一定の利益をもたらすかもしれないが、それは持続可能な成長につながらない。新興国企業から同じ便益をもたらす更に安価な製品が発売されたら、もう一段の効率化を追求するということになるのだろうか。削減されるコストの中心が人件費となれば、デフレから脱却するどころか、いよいよ国の先行きも怪しくなる。コストダウンではなく、これまで以上に製品やサービスを高く買ってもらう方策を考えなければならない。ここでもブランドこそが、欠かせない武器となるはずだ。

つまり、いずれの選択をするとしても、人口増加時代に確立された「いいものをより安く」という低下価格競争に決別し、いかにして高付加価値を生み出すかに注力をしなければ、我々の生き残る道はないということである。

グローバル市場における競争戦略のみならず、対象業種(B to BB to CB to B to CG to Cなど)、対象とするテーマ(企業、事業・サービス、プロダクト)やステークホルダー(社内の浸透活動・社外に向けた浸透活動、人材採用活動)など、様々なビジネスにおける高付加価値化戦略として、「ブランディング」への取り組みがこれまで以上に重要となることについて、異論を挟む余地はない。

 

人口減少社会の豊かさの創造

人口減少社会から求められる生産性向上策の一つであるビジネスの高付加価値化、つまり「いかにして高く買ってもらえるか」を追求することが、ブランディングが成し得る成果のであり、所属する組織や社会、さらには日本の豊かな未来を実現する方策の一つである。

しかしながら、「先進国中最低ランクの生産性」の向上という課題に正面から向き合うことをせず、官民をあげての安価な外国人労働力の拡充に邁進する政策の推進など、未だ人口増加時代の「過当競争モデル」に傾注し、短期的な利潤を追求する政府や経済界の姿勢は、我が国の未来に対して無責任にすら映る。

もはや、私たち一人ひとり自らが、パラダイムシフトする社会・経済に対峙して、自身が属する組織や社会の未来を切り開いていかなければならない。志をもつ者が、ブランディングを起動させ、ビジネスの高付加価値化を実現する道筋を描くこと。それが、私たちの豊かな未来を実現させていく現実的な方法の一つではないか。

ブランドが成長のレバーとして機能することこそが、日本企業・組織・団体、そして日本の成長を促し、豊かな社会を実現することに繋がる。

brandchannel:japan一覧