“はたらく”に歓びを〜ブランドビジョンの実現に向けたリコーの挑戦〜 | インターブランドジャパン

“はたらく”に歓びを
〜ブランドビジョンの実現に向けたリコーの挑戦〜

ブランドリーダーズインタビュー

ますます先の読めないコロナ禍において、各社のブランドリーダーはどのように変化の波を捉えているのか。変わるもの、変わらないものを浮き彫りにするインタビューシリーズ。 

第5回:宮島 将志氏

株式会社リコー コーポレートブランディング室 室長

 

「これまでとは違うリコーにならなくてはいけない。」経営トップの強いメッセージから、社内を変える。

―コロナ禍での中期経営計画の検討・策定を進められてきたそうですが、様々な影響があったのではないでしょうか。

2019年の4月頃から新しい中期経営計画の検討を始めました。当時は、ペーパーレスが進みオフィスで働く人も少なくなるのではないか、3年後にはきっと世の中はこうなるのではないか、変化に合わせて自分たちもこう変わろう―といった未来予測をしながら議論を進めていました。いま振り返ると、少し悠長な議論だったかもしれません。まだ、現在のような世の中になると予想もつかなかった。それが、中国から徐々にコロナの感染が拡大し、3年かかると想定していた変化が、数か月の間に起こってしまった。2020年度は、焦りとも言える厳しい状況からのスタートになり、市場や業界に加速度的な変化が起こる中で、策定してきた中計も見直しを余儀なくされました。

新たな中期経営計画では、“OAメーカーからデジタルサービスの会社へ”という方針を打ち出し、いまはその実現に向けて、いかに短期間で変革のスピードを上げていくことができるかを議論しています。その方法論については、未だ不明確な部分も多く、社内で練り直しをしているところです。

 

—想定以上のスピードで変化が求められるようになり、特にビジネスの最前線にいる社員の方にとっては、かなりインパクトが大きかったのではありませんか。

リコーは、主に複写機、複合機をお客さまにお届けする製造業です。

お客さまに商品を販売して設置する。その商品がお客様先で使われることで稼ぐことができるビジネスです。営業活動も、いかに最初に商品を使って頂くかを重視した販売に注力してきました。その後は、3年から5年ごとに商品を置き換えるタイミングに向けて、しっかりとお客さまとの関係を構築し、順調にリプレースする。社内では、それがリコーの営業スタイルであるという考え方が当たり前であったと思います。

また、商品開発についても、2年から3年先を考える。例えば、いまお客さまの要望を聞いても、実際に商品・サービスに反映できるのは、2~3年後という時間軸で動いてきました。しかし、“OAメーカーからデジタルサービスの会社へ”シフトする方針を掲げたいま、これまでのスピード感や物事の考え方を変えていく必要があると思います。

実際には、今まで2~3年でつくってきた商品を、半年でつくれるようになるかというとそれは難しい。しかし、これからは、商品を単に置いてくるだけではなく、お客さまが何に困っているか、どのようなニーズや期待を持っていただいているのかを理解した上で、最適な商品をお届けする。もしかするとそれはリコー製品ではないかもしれません。社長自ら発信している、これまでとは違う、「デジタルサービスの会社」になるために、まずは、これまで当たり前であった製造業としてのモノの考え方を改め、新しい発想や可能性も含めたアクションが求められていると考えています。

 

—“OAメーカーからデジタルサービスの会社へ”シフトする方針を掲げ、これまでのセールススタイルや考え方の見直しが求められていることに対して、社内の反応はいかがですか。

リコーは、お客さまへの提供価値を“EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES”と表しています。特に販売サービス部門は、ずっとお客さまの“はたらく”に寄り添ってきたという自負がある。決してリコーの複合機だけを売っているわけではなく、様々な機能を組み合わせたり、あるいは全く違う他社商品をお届けしたりしながら、お客さまのかゆいところに手が届く営業サービスを目指してきました。営業の最前線にいる社員にはそうしたカルチャーが既に根付いており、デジタルサービスの会社にシフトすることに対して、それほど強いアレルギー反応は生じていないと思います。

ただし、営業の場面では、これまで以上にお客さまやマーケットを起点とした様々なシミュレーションが必要になるはずです。これから起こり得る変化を想定した時に、今のリコーに不足している部分があるとすると “インテグレーション”する力です。様々な商材が世の中にはあり、それがリコー商品か否かに関わらず、組み合わせることによって1つの商品やサービスにする。お客さまにとってこの組み合わせがベストだというものを瞬時に判断し、提供していくような“インテグレーション”の力は、まだ改善の余地があると感じます。

製造業としては、物量が下がることを前提に、逆算的な視点から生産設備や生産人員などの体制を変えていくことも求められます。その意味では、自分たちがつくっている商品がナンバーワンか、そうでないかを客観的に判断する力も必要です。モノづくり企業としての“思い”だけで、ナンバーワンだと思って走っている傾向があります。1~2年かけて発売したら、実は三番手、四番手だった―というような状況が起きているにも関わらず、それを事実として受け入れ、立ち止まってみる勇気が持てない。昔は“思い”で走り続けることが美学だったのかもしれませんが、もはや美学と呼べるものではないと思います。メーカーとして、独善的な部分が残っている。やはり、昔のやり方・方法に終始するだけでは、通用しなくなりつつあるというのは明らかです。

 

―営業やセールス以外に、モノづくりの会社への矜持が強く残っていると感じる部分はありますか。

実は、販売サービスの現場にいる人たち以上に、従来の考え方が根強く残っているのは、本社なのではないか、と感じています。本社にいる私たちが変わらないと、いつまでも同じ行動パターンが残ってしまう。

社内の現状と改めて向き合い、どのように社内変革を促していくかが非常に大きな課題です。これまでは、時間をかけて少しずつ変えてきましたが、時間の猶予がない中で、どうやって実行していくのか。私たちリコーにとって、非常に大きなチャレンジになると思います。

 

—ビジョンの実現に向けて変革を推し進める上で、何が“要”になると思われますか。

“製造業としてのリコー”あるいは“コピー機のリコー”というイメージを壊せるか否か―が鍵になると思います。“壊す”という言い方はネガティブな印象があるかもしれませんが、意味合いとしては、自分たちがこれまで創ってきた信頼に対して、何を乗せていけるか―プラスする・付加できるか―と捉えています。 

全く新しいものを創るというよりは、今あるビジネスモデルにさらに新しいものを乗せるという考え方です。先人たちが築き上げてきた“信頼” があってこそ、お客さまに新たな価値を提供し続けていくことができる。また、ブランドを担う立場からも、引き続き、働くお客さまに対する“EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES“というメッセージを発信し続けていかなくてはならないと思っていますし、これから、どのような新たなビジネスモデルをプラスできるかが問われていると思います。

 

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