社員、パートナー、お客様との絆-心を捉え、無二の関係構築のブランドへ | インターブランドジャパン

社員、パートナー、お客様との絆
-心を捉え、無二の関係構築のブランドへ

ブランドリーダーズインタビュー

ますます先の読めないコロナ禍において、各社のブランドリーダーはどのように変化の波を捉えているのか。変わるもの、変わらないものを浮き彫りにするインタビューシリーズ。 

第3回:髙谷 誠一氏

株式会社ポーラ 取締役執行役員

 

コロナ禍における「ゼロトレランス」(許容度ゼロ)の危険性:

― コロナ禍でどのような変化を感じていらっしゃいますか。

髙谷:これからもコロナ禍が続くと想定しますと、生活するうえでの“ルール”が厳しくなり、ルールに対しての許容範囲が薄くなり、結果、「ゼロトレランス」な社会になっていくように思います。私たちの日常には、法律以外にも社会的規範や様々なルールが存在します。ルールはもちろん知っているものの自分なりに解釈し、場面に応じた様々なやり方をうまく採用し、不自由なく生活しているはずです。しかし、それがだんだんと厳しくなると、「あの人マスクしてないじゃないか」から始まり、「なんだ、あの店のコロナ対応は!」など、個々人の判断の微差が社会の軋轢や不調和などにつながってくると思います。それが個人や店舗などであればいいのですが、国などより大きな単位になると、窮屈だけではすまない対立や不調和を生まないかと不安を感じます。基準やルールはもちろん重要なのだけれども、もう少し世の中全体で寛容になることを前提にしないと嫌な世の中になってしまう。

かつてアメリカで、「ゼロトレランス」に注目が集まった時期がありました。都市伝説かもしれませんが、ちょうど銃の乱射などが多かった時代だと思うのですが、孫の誕生日におばあちゃんが学校へケーキを持たせました。そのケーキの中にケーキを切り分けるナイフが入っており、背景や事情は勘案されずに、その子供は退学になったという事件があったというのです。いわば、思考停止状態に近く、その様な世の中になってはいけないということです。

現在も、中には皮膚のトラブルなど様々な理由でマスクが付けられない方や、読唇で生活されている方もいるはずです。そうした多様性に対しての目線が失われてしまうのが嫌ですね。

 

人とのつながりの変化に見る、購買の変化:

― このような時代だから、物理的に誰が近くにいるかが結構重要だというお話と、逆にこういう時だから、物理的な地域とかコミュニティの役割が減るのではないかというお話の両方を聞きます。人とのつながり感についてどうお考えですか。

髙谷:むしろ自分の“ホームグラウンド”といえる場所のつながりを強化しないといけないと思います。一方で、いろんなところで働くようにしましょうとなると、コミュニティとはいったいどういうコミュニティなのか。リアルのコミュニティと、デジタルのコミュニティが重なり合って存在しますよね。これまで私たちは、主体的にコミュニティをデザインしてこなかったような気がします。なぜか結婚や冠婚葬祭など人生の節目に直面したときに、「私たちってこういうコミュニティにいたのだ」と、突然そのときだけ実感したりするものでしたが、そうした集まりが、そのまま続いていくことはやはり難しいのではないでしょうか。

やはり自分が安心して付き合える範囲や、“ホームグラウンド”といえる、個人情報を開示できる繋がりやコミュニティを自分自身で設計しておくことがますます求められますね。

弊社のビジネスモデルは訪問販売から始まり形を変え業態を変えても、人と人とのつながりに重きが置かれています。コロナ禍において、そのビジネスの在り方により業績にも違いが出ていますね。例えばインバウンドのお客様は渡航制限によっていらっしゃれないわけですから、そこは、もちろん苦戦しています。また、物販がとにかく強かったところもまだ苦戦している。かたや、地道にきちんとエステなどを提供し、顧客とのつながりが「心のケア」にまで深く及んでいたところは、休業期間中はやむを得ず影響を被りましたが、その後会社として迅速な対策をし、エステに関してもしっかりと安全性確保と衛生管理を徹底したことにより、物販型よりも業績の回復は見込める状況です。

だから「何を買うのか」よりも、「自分にとって必要な何か」、この人なら会ってもよいかが問われていますね。不特定多数の人と接触する行為自体は難しいですから、新たなお客さまとの接点をどうしていくか課題はありますが、今まで培ってきた信頼やコミュニティが有効か有効じゃないかといえば、この段階でも全然有効ですと、はっきり言えると思います。

 

リモートを支える仕事が真の経済価値を生む。リアリティーのある新しい働き方が必要:

リモートを実施するとパフォーマンスの差が出る、と真顔で言う人がいらっしゃいますが、「それはマネジメントの問題だ」という話を頻繁にしなければいけないのが残念です。

リモートでなんとか仕事が回っている人々は、決してマジョリティではないですよね。しかし、マスコミの報道は「新しい働き方=リモートワーク」に傾いているのがちょっと残念ですね。リモートを支える存在や、モノづくりがよほど重要なはずでそこに対する配慮とか目線が大事なのではないかと思います。家に閉じこもるには、デリバリーをはじめ様々なインフラが必要ですし、工場も動かさなければなりません。農作物の収穫など生活に必要な一次産業はさすがにそれをすべてオートマティックにやってくれるほどテクノロジーも進歩していません。だから新しい働き方は、もう少しリアリティーのある目線、もっと支える側に目を向けて進めていくべきだと思います。弊社では、出社を前提としない働き方という言葉で、新しい働き方を定義づけています。

 

コロナ禍での人材育成が課題になってくる:

髙谷: 弊社は2年ほど前に、リモートで会議ができるようなカメラ付きのモバイルを全社員が持つ体制になっていました。今回のコロナが起きたときも「リモートにするよ、Zoomを使ってくださいね」というのは、ハードウエアとインフラが支えてくれて、移行は比較的スムーズだったと思います。東京オリンピックによる出社抑制時の対応検討が功を奏したのだと思います。

 ただ、短期的な管理やパフォーマンスはカバーできるかもしれませんが、本当の意味で人材育成というとリモート環境できちんとできているのか、できないのか、多くの企業が悩まれると思います。業績の報告にしても、何らかのメッセージを語るにしても、経営者が一方的にZoomで語ったり、あとからそれをビデオで見てもらったりはしますが、どんな表情で社員が見ているのかは正直分かりません。空気感みたいなものは判断がとても難しい。

やはり経営との対話の機会は増やすべきと考えています。部門長以上の人材育成に関しては、ダイアログ(対話)の機会を経営側で設定し、経営と部門長とでのフラットな話し合いの時間を設けていくことを進めています。

 

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