
「NECのマーケティング&セールストランスフォーメーションは、セールスパーソンの動き方を大きく変える」
ブランドリーダーズインタビュー
ますます先の読めないコロナ禍において、各社のブランドリーダーはどのように変化の波を捉えているのか。変わるもの、変わらないものを浮き彫りにするインタビューシリーズ。
第1回:榎本 亮氏
日本電気株式会社(NEC)執行役員 兼 CMO

リモートがニューノーマルになる:
― 働き方にどんなインパクトがありましたか。
もともとNECは、定時のない完全フレックス制だったのですが、今後はよほどのことが起きない限り、リモートワークがニューノーマルになると感じています。緊急事態宣言開けの7月現在、出社率は、COVID-19の前に戻っていません。状況は事業所によって違います。例えば工場では生産ラインが回っているため出社率は100%近いのですが、本社ビルの私の部署では20%程度です。出社する必要性がない限り、つまりやるべき仕事がリモートでも遂行可能なら基本リモートの状態です。健康被害の懸念が完全に払拭されたとしても、もう、以前のように、出社することが必然で朝からオフィスが社員でいっぱいになる日は来ないだろうと考えています。
NECの営業は、国内5,000名程いますが、4月以降のお客様とのコミュニケーションの仕方について社内SNSでアンケートを取ったところ、「Web会議が80−90%」、「打ち合わせが延期になっている人」は4-5%、「対面でのコミュニケーションを継続している人」は、5%くらいでした。
そして、次に、Web会議の場合の生産性について問うたところ、「対面の場合よりも上がった」もしくは「同等である」と答えた人が85%くらいでした。オンラインで生産性が落ちたと答えた人は、10数%だけです。
これまで培われてきた濃い関係性から、新規営業のダイナミクスの変化が生まれる
― 営業のやり方も変わってきますね。
インサイドセールス(内勤型営業)は非対面でクライアントの真のご要望を聞き出し、当社のソリューションの適合性をご理解いただき担当営業へつなぐ、デマンド創出という重要な役割を果たしています。
インサイドセールスのスキルが上がったともいえると思いますが、実際は、クライアント自体のアクセプタンスが上がったのではないかと思っています。昔なら、「まずは営業と会ってから」となっていましたが、今は非対面でのお打ち合わせを自然なものとして受け入れていただけていますし、ソリューションの価値が分からないようなものにわざわざ時間を使うような非効率なことを望まれていません。弊社は、コロナの前から3桁の人員を国内のインサイドセールスにシフトしてきています。
旬なテーマ、お客様のご要望と解決策の関係がはっきりしている商談は、デジタル化、インサイド化に親和性が高い。クライアントに会わなくてもテーマを絞って議論がしやすいのです。
これまで通りが通用しない。顧客が変わり、我々も変わる。
― 営業マンにブランド的な立ち居振る舞いを浸透させる余地はあると思われますか
それは、物凄くありますし、できると思っています。世の中変わっていく時だからこそピンチはチャンスであり、変われるチャンスでもあると思うのです。今仕掛けていることは、提案営業です。自ら仕掛けていく積極的な提案のことです。これまで弊社は、超大型案件中心で、お客様の仕様通り、納期通りに納めることを最優先とするスタイルだったため、お客様の経営課題や仮説を元に想定してこちらから仕掛けるような提案営業は、特定のアカウント担当チームなどに限られていました。そこで、営業企画とマーケのチームが一緒になり、提案を仕掛けるための様々な調査に基づく提案ツールなどの整備を行いました。提案営業を理論武装させるという試みです。
また、昨年は、CS調査を見直しました。今まで顧客満足度に関しては、納品後ご迷惑をおかけしていないか、というような、製品の品質調査・品質保証のような観点で一年に一回アンケート用紙にご記入いただいていたのですが、マイクロソフトやセールスフォースなどの企業を参考に、まずアンケートのやり方をデジタル化し、その内容もシンプルなものにしました。そうすると、フリーコメントの回答が増加したのです。
質問数は5問程度に絞り、その他は、全てフリーアンサーにしたところ、たくさん記入してくれるようになりました。そこで得た自由回答を細かく分析したところ「提案」というキーワードが出てきました。クライアントには、もっと提案して欲しいという要望があることがわかったのです。「私の(お客様の責任者の方の)機嫌が悪くなってもいいからNECとしてベストだと思うものがあるなら提案してほしい」「オーダーした以外のことも積極的に提案して欲しい」といった、顧客の生の声が聴けたのです。現在は、こうした顧客の声を元に、様々なサポートツールを作り、営業マンに提供しています。
Withコロナの時代、今が体質変換の最後のチャンス。
―ピンチをチャンスに変えやすくなっていると思いますか
弊社は、毎年の売り上げは伸びているものの、ICT市場平均の伸びほどではなく、つまりシェアをじわりと落としています。内訳を見ると競合並びに当社を含む大手企業全体の市場シェアは減少している一方、メジャー7社以外の企業が伸びてきていることがわかっています。クライアントを対象としたフォーカス・グループインタビューでは、「NECも他社も全部一緒」「日本のメーカーは、新しいことは無理」「新しいものが出てくるとしたらGAFAやコンサル」といった発言がありました。メインフレームを主力とする会社からは新しいものは出てこない、氷河期の訪れに対応できない恐竜化している企業と思われているのです。
こうしたパーセプションをひっくりかえすとしたら、これが最後のチャンスだ、と思います。危機感を持たずに、質的な転換をはからないと、環境に適合できないまま市場から追い出されてしまいます。その危機感をドラスティックな体質転換の動機付けに活用する最後のチャンスだと思います。