コロナ禍がもたらす、ポジティブな変化と機会 | インターブランドジャパン - Part 2

コロナ禍がもたらす、ポジティブな変化と機会

生活者目線でのパーパスの設定が企業を牽引する

—今度は組織についてお話を伺いたいのですが、ブランドを会社としてどう捉えるようになりましたか。御社の中で、ブランドを個で戦うものではなく、もっと総体で価値を創っていくものだという捉え方にシフトしていくのであれば、この先、組織的な変革が必要になってくるのではと思いますが、いかがでしょう。

弊社は “縦” が非常に強い組織です。私の部門の役割は、各事業を横断するテーマや横断するマネジメントをして事業間の相乗効果を引き出すことが一つのミッションです。しかし、縦の組織が強ければ強いほど、横串をさすのは相当パワーが必要です。(笑)
それが新型コロナの発生で、どうも “縦”の力だけでは突破できないことが起こってきていることを感じ出したのが20年の3月ぐらいかなと思います。20年の計画というのは、東京オリンピックが開催されてインバウンドがさらに格段に増え、非常に経済が活性化してマーケットが広がることを考えてプログラムを組んでいたと思います。しかしそれが全て無くなり、自分たちが “縦” で作ってきた設計図は白紙な状態になり、さてどうしようと言っている間にどんどん時間が経っていた状況でした。そんな中で、日本では「暮らしのきれいを守りたい!」というパーパスに沿って、事業を横断する「プロテクトJapan」をスローガンに、事業を横断する全社プロジェクトを立ち上げました。
これは、コロナ禍における生活者の不安とか疑問に対して、一番正しい情報を持っているところが、一番安心できる製品を供給できるところが、それに応えていくべき、という使命感のような社内の声から始まった動きで、弊社の生活者相談センターに寄せられた生活者の声に耳を傾けることでプロジェクトが立ち上げられました。
本音で言うと、「プロテクトJAPAN」もスタート時は各事業のベクトルを合わせるのにとても苦労しましたね。なぜ計画を変更してやらなければならないのかという抵抗(?)もありましたね。
ただ、社外からは、「もっとプロテクトJAPANを表に出していくべきだ」「今だからこそ花王さんの出番」というご意見を数多くいただき、生活者起点で組織横断で活動しマネジメントすることができました。

 

—今回、コロナがきっかけで新しいことをゼロから始めた会社は、かなり少ないと感じています。むしろ基本的な会社としてのこれまでの取り組みの中で、コロナだからドライブがかかった、加速した、踏み切れるようになった、ということが非常に多いと感じます。

そうですね、おっしゃる通りだと思います。コーポレートブランドがもつ信頼性などはとても重要です。一方で、機関車のような強い個別ブランド、ヒーローブランドが必要です。弊社の場合は「プロテクトJAPAN」を牽引するブランドとして「ビオレ」「マジックリン」というブランドがあり、強い個別ブランドが存在していたことで、コーポレートブランドKaoと個別ブランドの支援貢献関係ができたと思います。
「プロテクトJAPAN」の場合で言うと、パーパスを各ブランドの責任者と共有し、多くのブランドを束ねていくには、ブランドを束ねるストーリーが必要です。そうしたストーリーを明確にすることで、ブランドが集まってくるという形が理想形ですね。

 

ブランドはCSVが基本。しかし、これからはリターンまでの時間軸に大きな変化が起こってくる

—これまでのお話も踏まえお伺いしたいのですが、今後、より生活者起点で物事が動く会社になる必要があるとお感じになるのか、それともやはり会社の立ち位置として、開発、プロダクト、ブランドを軸にしてやっていくことがより良いとお感じなのか、その辺りのお考えをお聞かせください。

必ずしも全てが生活者起点で動くということではないと思っていますが、プロダクトアウト的なブランドは生き残りが厳しくなっていくと思います。
花王はメーカーで「よきモノづくり」を実行する会社、モノを通してコト、そして生活に寄り添っていくブランドであるべきです。
そうした意味では、どのようにサステナブルにブランドをマネジメントするかということがKeyになります。メーカーとしてはプロダクトを支える技術は支柱になります。そこに本来ブランドが何をしてくれるのか?ということをはっきりSayしていかないとブランドとしての存在意義もなくなると思います。
つまり、パーパスドリブンなブランドは、第3者的観点で何を期待されているのか、社会からの要請は何か、を考えてマネジメントしていくのですが、私はブランドはCSRではなくCSVでなければいけないと思います。CSRはブランドの稼いだプロフィットを社会に還元するという事と理解していますが、問題はプロフィットが出なくなると、ブランド活動はストップしてしまいます。ところがCSVは投資という考え方で、活動したことによって必ずブランドに価値を貯めてリターンを出していくマネジメントで、社会に対してリターンを出すとともに、ブランド価値を能動的に創造し、経済価値を創造することが肝要だと思います。
株主資本主義の今まででは、投資したら短期的なプロフィットを求められ株価がそのインデックスになっていたのではないでしょうか。これからのパーパスドリブンなブランドはCSV視点で、リターンの時間軸が短期ではなく中期的に計画されるべきだと思いますし、それがESG経営を志向することにもなりパラダイム変化が起きて経営にも変化が起きてきていると思います。

 

ブランドに大事なのは、「SAY&DO」そしてその後の「SAY」

—コーポレートのレイヤーとしてできることを考えると、CSRのような話だったり、大きな施策だったり、ポートフォリオ論だったり、生活者から見るとあまり実感が湧かないことが多いように思います。そうするとそれらを体現するのは、各ファミリーブランドやプロダクトブランドが担わなければいけない必然があると思いますが、そのアライメントをどうつくっていくかということも、これから面白いテーマかと思いますが、いかがですか。

おっしゃるとおりですね。パーパスドリブンなブランドでは「ブランドSAY」と「ブランドDO」という部分が重要だと思います。「SAY」はブランドが宣言すること、つまりは社会からの要請に対してやることを「SAY」していくことが必要です。そしてサステナブルブランドになるために、何によってエンゲージメントと信頼を作っていくかで「DO」の部分です。宣言するだけではなく実行するところを見せていく、それが弊社の場合は「ESGよきモノづくり」ですし、そこにブランドのCSV活動というものが付加されていくことです。コーポレートブランドと個別ブランドの支援貢献関係をつくるのは先ほども話しましたが、接着剤になるのはESGの ”E”と ”S” であると思います。
昨今のSDGs、ESGの潮流の中で、どこブランドもスローガンだけは言えると思います。だからこそ「DO」でブランド経験・体験をしてもらったことやブランド活動でやったことを「SAY」していく、SAY・DO・SAYのサイクルでブランドに対しての信頼や企業に対しての信頼を醸成していけると思います。SAY・DO・SAYでブランドとしての実行プランの全体設計図のアジャストが必要になってきているんですね。

 

—どのように「ブランドDO」をするのかについて、一体感を持ってやるとなるとそれなりのハードルになってくるかと思います。そこで例えば「プロテクトJAPAN」においては、各ブランドがどういう貢献をDOの部分でしていけるのか、していくべきか等、どのような議論があったのでしょうか。

プロジェクトスタート時点で、パーパス(ストーリー)を作り、この旗の下にみんな集まれ、という状況は作ったのですが、ブランドの現場からは、自分たち何をやればいいのか、今までのブランド活動やマーケティング活動の何を変えればいいのか、という声が上がりました。そこでブランドDoを明確にして4つのミッションを提示しました。1つ目は、プロテクトJapan対象商品の安定供給、2つ目は、衛生感染予防の商品や研究の持つエビデンスを外部に公開していくこと。3つ目は、生活者の方々が新型コロナの感染拡大で不安な状態にある中で、予防のための情報などを求めて問い合わせが多く寄せられていたので、感染予防や衛生的な生活に役立つ、エビデンスに基づいた正しい情報の提供。そして、エッセンシャルワーカーへの支援。この4つのミッションを示して個別ブランドの活動を一貫性をもって「プロテクトJAPAN」活動に結びつけることができました。

 

—今のお話で、4つのミッションをみんなで守ることとして決めたとのことでしたが、感覚的に日本の会社はそういった有言実行するための有言の部分を、あまり積極的に発信しないのではと思います。先ほどおっしゃっていただいたように、よりコーポレートのレイヤーのブランドの存在感が重要になってくると、有言実行の有言の部分をもっとやらなければいけないのではないか、と思うのですが、いかがでしょうか。

非常に良い質問ですね。先ほど申し上げたSAY・DO・SAYの話になるのですが、弊社の中でも当初様々な意見がありました。プロテクトJapan活動の広報活動も検討を重ねましたが、せっかくいい活動をしているのだからPRしたいという意見や、活動は自然と伝わっていけばいい、という双方の意見がありました。
どこのタイミングのSAYを強めるか、という点については、やりますという宣言のSAYをPRするか、それともDOのあとの、成果を伝えるSAYをPRするのか、ですが、いまのところはDOの後のSAYでのPRになっています。ただし、最初のSAYいわゆる有言へのシフトを「売らんがな」にならないようにやっていこうと、行き過ぎず、あくまでも社会へ寄り添う姿勢で取り組んでいきます。
最後に、Withコロナの状況となり、ブランドや事業を通じてわれわれが学んだこととして、今までブランドが持っていた顧客との関係性自体が大きく変わったと思います。現在のWithコロナの環境下で、ブランドの顧客との関係性を再構築していく必要性が出てきていると強く感じています。BeforeコロナでのロイヤルユーザーがWithコロナあるいは今後のAfterコロナでもロイヤルユーザーであり続けてもらえるのかという事です。ブランドとの絆と信頼はブランドが提供しなければいけないValueが大きく変わってきているのではないでしょうか。その変化への対応を誤るとブランドの今までの絆が崩れていくのではないかと思います。
そういう意味では、ポートフォリオを変えていくとともに、顧客との関係性再構築のために、もう一度、現在の変化に対してブランドのパーパスを再チェックし、社会や顧客の変化を先取りする必要性があると感じています。また変化のスピードの速さを痛感しており、少しでも対応が遅れればブランドが毀損していくという状況にあることを、グローバルでブランドが意識する必要があるということを強く感じています。

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