コロナ禍がもたらす、ポジティブな変化と機会 | インターブランドジャパン

コロナ禍がもたらす、ポジティブな変化と機会

ブランドリーダーズインタビュー

ますます先の読めないコロナ禍において、各社のブランドリーダーはどのように変化の波を捉えているのか。変わるもの、変わらないものを浮き彫りにするインタビューシリーズ。 

第8回:小泉 篤氏

花王株式会社 執行役員・コンシューマープロダクツ事業統括部門
グローバル事業推進センター長 兼 事業戦略推進部長

 

コロナがもたらす、ポジティブな変化機会

—新型コロナウイルス感染拡大は、人々の生活環境や社会のあり方に大きな影響を与えています。人々の働き方も大きく変化してきていると思うのですが、御社ではどのような変化が見られますでしょうか。

働き方では、部門や役割、会議の頻度等で差がありますが、コンシューマープロダクツ事業統括部門では、出社は3割程度です。弊社はどちらかというとOJT型ですので、クリエーティブワークの部分であるとか、討議が必要な重要な案件の会議や、外部の初対面の方々とのコミュニケーションを必要とする場合等、オンラインの難しさも感じています。一方で、様々な部門のメンバーを集め情報共有する場合や指示を出す場合は、オンラインの方が多くのメンバーが1つの場で同時に同じ情報を聞き意思統一できるようになった、というプラスの面があると思います。
こうしたことは海外拠点との働き方で変化が顕著です。先日グローバル戦略会議があったのですが、従来は各国から代表メンバーだけが日本のヘッドクオーターに来てディスカッションする、という形式だったものを、普段は会議参加できない現地メンバーもオンラインで会議に参加でき、有意義な討議ができました。こうしたことはメンバーのモチベーションを上げるだけでなく、それぞれが戦略や戦術を討議する論点や結論までのプロセスに接することができ、その後のミッション遂行時に非常に良い影響を与えていると思います。

 

—小泉さんは以前、インドネシアを担当されていたそうですが、当時を振り返って、もし今のようなオンライン環境が前提だったらもっとこうできたな、というような思いはございますか。

当時、現地法人の社長という立場で赴任していましたので、当然、経営全般を見なければなりません。それまでのマーケティング事業や販売事業での経験とは全く異なる案件、すなわち法務や会計財務、レピュテーションリスクや海外ならではの地勢的リスク等、実に様々なものへの対処や判断が、かなりのスピードで必要となります。当時はメールと電話で対応していたわけですが、やはり限界がありますよね。今のようなオンラインでできていれば、発生の段階でヘッドクオーターの関連部門とすぐにつないで、リスクの回避や最小化が可能だったであろうと思います。

 

—リスクという観点で言えば、コロナから始まり、ブラック・ライブズ・マターに端を発した社会不安の広がりなど、今年はリスクの年とも言えると思います。様々なリスクが存在する中で、特にグローバル展開がこれからの成長を担保するような日本の会社においては、グローバルレベルで未整備なガバナンスやローカルとヘッドクオーターのスピード感のギャップ等は、非常に大きな課題です。リスクへの対応が非常に重要だった1年を振り返って、御社においては、オンラインに移行してリスク対応力が上がったと思われますか。

オンライン、オフラインの変化というより、今回の新型コロナというリスクが発生する前と後とでみると、弊社はちょうど今年が中期計画の最終年で、Beforeコロナの時代、さらにはノーマルな経済状況の中で立てられた中期計画と着眼点が大きく変わり、今までなかった外部変化のファクターを考えざるをえなくなりました。事業、ブランドを支えてきたものが変化することを、Opportunityととらえるか、リスクと捉えるか、それが重要だと感じています。本来強みであった部分が弱みとなり、逆に弱みだと思っていたものが強みに変わっていくということが起こってきています。毎週、早回しで変化に対して対応力が求められている現状は、表現が正しくないかもしれませんが、勉強、実験ができているのではないかという気がします。

 

—強み、弱みというお話が出ましたが、御社はこれまでずっと「きれい」をつくるということに軸足を置いていらっしゃいますが、花王が持っているポートフォリオの観点から見て、強みやリスクは今回どのような形で浮かび上がってきたのでしょうか。

弊社は「清潔・美・健康」の分野を幅広くカバーするコンシューマープロダクツをコアとする企業です。今、これだけ幅広い形で商品群を抱えている企業は、日本企業の中でも、グローバルの同業の中でも非常に少なくなってきていると思います。それを支えるブランドは、サブブランドまで含めると約100のブランドが存在しています。この100のブランドをいかにマネジメントするか、ポートフォリオをどう描くのかが課題で、昨年のBeforeコロナの状況までは、1つ1つのブランドがそれぞれのターゲットに対してそれぞれの強みを生かして戦っていくという形が主流でした。例えば衣料用洗剤のカテゴリーでは「アタック」、紙おむつでは「メリーズ」というように、カテゴリーナンバーワンを作っていくということです。しかし近年、専業メーカーのコンセプトの尖ったブランドに個別のブランドが苦戦し始めていました。そのような状況に対してブランドのポートフォリオ戦略の見直し議論が行われていました。
そのような状況において、Withコロナという変化の中で新たなOpportunity、具体的に言うとハンドWashや手指消毒液のような衛生カテゴリーの需要が非常に伸びてきたのです。消毒液の市場は小規模で、どちらかというとB to B型の商品でしたが、これがB to Bだけでなく一般の需要も大幅に上ってきました。さらに衛生除菌という対物に対する衛生行動も急伸しました。そうするとホームケアの分野でも、「マジックリン」「クイックル」等のブランドが、今までの “お掃除の市場” で競合ブランドと戦うという構図から、清潔で衛生的な生活を安心安全に送るためにブランド横断でスクラムを組む、ということが必要になってきており、ブランド間のシナジーが新たに生み出されてきているといえます。
つまり、Beforeコロナの状況では100のブランド1つ1つが個々に強くあれば良かったというところから、それぞれのブランドが本来持つべきパーパスによって結び付いて、今、社会課題に対して何をすべきか、という観点でスクラムが組まれた形へと変化したということだと思います。Withコロナという非常に厳しい環境変化の中で、そうした提案ができる個別ブランドを持ち、さらにブランド提案の組み合わせによる強みというものが出てきたこと、これまで弱かったブランドもスクラムを組むことによって強みが発揮できるようになってきていることだと思います。

 

顧客の価値観のシフトにより高まる、商品と企業を繋ぐブランディングの重要性

—これまでのお話はブランドサイドからの視点だったと思いますが、今度は顧客サイドから見ていきたいと思います。今まで顧客は、ブランドを抽象的な意味でのパーパスということよりも、ジョブをいかにやるかという観点で見ていたと思っています。特に「清潔・美・健康」については、1つ1つのジョブがあって、それぞれにマッチするものを選んでいたと思うのですが、今はおそらく、もっと生活全体として、総体として何が必要で何を求めているのかというところに、顧客の意識、さらには普遍的な価値観も含めてシフトしてきているように感じるのですが、その辺りはいかがですか。

顧客の視点で考えると、今までは例えば洗面台で手を洗うためにハンドウォッシュを買おう、とまず思い、そして何がいいかな、どのブランドがいいかな、という選び方だった。ところがこのWithコロナの中では、まず感染対策のためにどうしなければいけないか、次に家の中にウイルスや菌を持ち込まないためにはどうしたら良いのか、つまりは安心・安全な暮らしをすることを求めて、そのためにブランドを選択する行動に変わってきたと思います。生活者が求めているWithコロナでの「安心・安全」を提供するブランド、今の不安を解消してくれるブランドの選択となりますね。

 

—これまでにも、購買の意思決定時、Moment of Truthにおけるコーポレートブランドの役割とは何か、様々な見方、議論があったと思います。しかし、今のお話のようなシフトが起きているのであれば、明確に拠って立つべきアンブレラブランドがあるということ、そこがさらに御社であれば「きれい」という明確な立ち位置を取れているのであれば、コーポレートブランドが持っている価値を実際の購買につなげていける可能性は大いにあると思うのですが、いかがでしょうか。

弊社はこれまでコーポレートブランディングについては、あまり力を入れてきていませんでした。どちらかというと商品ブランド、個別ブランドを戦略の中心においてきました。そして、気付いたら家の中のあちこちに月のマークの花王の製品がありました、というKaoはメーカーとしての信頼や品質保証的な役割で、Kaoが出しゃばらないアプローチでした。社風もそんな感じです(笑) 
ですがUnderコロナ、Withコロナの状況になって、個別の商品ブランドだけでなく、コーポレートブランドのブランディング重要性をすごく感じています100商品ブランド1つ1つをすべて花王 / Kaoブランドの中に各々のブランド価値を資産として貯めていくいうことは非常に難し分散がおこります。逆に花王というコーポレートブランドパーパスやコンセプトをこれからは前面に押し出していく必要性があるそこに差別化と特徴を出していかなければいけない、と思うのです。 
そして、コーポレートブランドと個別ブランドをつなぐ接着剤になるのが、まさにESGだと思います。それが最終的にパーパスの連係をとることで、大きなvalueを生み出していくことになると確信しています。 
企業側のエゴではなく、ブランド側のエゴでなくて、社会に対して・地球に対して、という視点が求められだからこそ個別ブランドとコーポレートブランドとをつなげる接着剤が必要になってきているということです。 

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