
成し遂げるべきものは変わらない。
揺るがないAJINOMOTOの“今”に迫る
ブランドリーダーズインタビュー
ますます先の読めないコロナ禍において、各社のブランドリーダーはどのように変化の波を捉えているのか。変わるもの、変わらないものを浮き彫りにするインタビューシリーズ。
第6回:森島 千佳氏
味の素株式会社 コミュニケーション部門&サステナビリティ推進部担当 執行役員

コロナ禍によって、より明確化されたビジョンに邁進する
―このコロナ渦で、AJINOMOTOブランドがどう変わったのか、まずは概要的なところからお聞かせください。
弊社は20–22年の現中期経営計画で新しいビジョンを打ち立てました。「アミノ酸のはたらきで食生活、あるいは高齢化に伴う食と健康の課題を解決する企業になろう」そして「世界中の人々とウエルネスを共創していこう」というものです。それを対外的に発信したのが今年の春ですが、そこでコロナ禍が起こってしまったという状況です。
コロナ禍の環境について、たとえワクチンや薬ができた後も、つまり「アフターコロナ」においても、今までと同じ状況には戻らないであろうと考えています。特に今、心も身体も健康でいるという、当たり前だけれどもとても大事なことに、大きくフォーカスが当たっている。そして、それは、これからもニューノーマルの社会において、重要なベースとなると考えています。
そんななか、アミノ酸のはたらきによって「食と健康の課題解決企業」になろうということ自体、何も変えていく必要もないし、もちろん変えるつもりもありません。「食や健康の課題解決企業」として、目の前の課題がコロナ禍によってより明確になったと思っています。だからそれに対して本来やるべきことをより力強く、そしてコロナ禍によって起こったことのインサイトにもしっかり寄り添って、よりチューニングをしていくことで、ビジョンの実現により近づくはずだと思っています。
言葉は適切ではないかもしれませんが、コロナ禍はビジョン実現を推進するチャンスかもしれないと思っています。「ちゃんと食べて、ちゃんと眠って、ちゃんと運動して」という当たり前の健康というものに、普通の生活者までがフォーカスを当てているという時代ですので、われわれが「食」と「健康」の課題を解決し、お役に立つことができれば、皆様と「ウエルネス」を共創するというビジョンが成し遂げられるのではないかと思います。本来やるべきことを、よりコロナ禍で起こった課題解決にチューニングをして、ビジョン実現にむけてより力強く、よりスピード感をもってやっていこうと考えています。
—環境の変化により、そもそも掲げてきたもののプライオリティーが上がり、ブランド作りの環境が整ってきたっていうところですね。課題解決をチューニングしていくということは、具体的にどのようなイメージですか。
今、健康への大きなうねりがあります。ごく当たり前の健康ということに対して一般生活者までより関心が高まってきています。今までだと「そんなことは知っている・当たり前だよ」と思われていた情報にも目を向けてくれるような環境になったと思います。
「健康」に対する意識は、アフターコロナでも、ずっと続いていくと思います。例えば、寒くなるとコロナ第3波がインフルエンザと一緒に来るなどと言われていますが、そういう時は、例えば「免疫力」のような言葉が、より生活者のインサイトを捕まえられると思います。当たり前の「健康」もお客様の気持ちを汲み取った切り口やアプローチが大事です。今年の秋から冬は「免疫」などの言葉でしっかり伝えていくと、「ああ、そういうのを待っていたよ」とか、「そういうのは大事だよね」と思ってもらえるのではないかと思います。
最先端の技術を持って、情緒的価値を創造する
—いかに的確に世の中のニーズ、もしくは不安感に反応できるかも重要ですが、いかにリードしていくかという部分についてはどのように考えられていますか。
ニューノーマルな社会において、本当の人々の幸せに繋がる生活の仕方や課題解決の仕方を指し示すことで、リードできるような存在になっていきたいと考えています。
「食と健康の課題解決」「ウエルネス」という言葉を使いましたが、それは何のためかというと、やはり「幸せ」、「人々の幸福」だと思うので、「幸せ」「幸福」ということをしっかりリードできるような、そういうメッセージを出していきたいと考えています。
—どこでリードしていくのかを考えるとき、今、「フードテック」という話があると思います。テクノロジーが果たす役割に関して、ブランドという観点で見た際に、どのように捉えていらっしゃいますか。
われわれはフードテックを、ビジョン実現に向けて価値を創造するための協働できるパートナーとして位置付けるべきだと思っています。決して競争相手ではないですし、彼らの良さを生かさなければならず、一緒に価値を創れる仲間として仕事ができるようになるのが一番の理想だと思っています。
フードテックの力を借りて、何か尖がったことをやって、AJINOMOTOブランドに尖った価値を付けようとか、そういうテクニック的な話ではなく、フードテックが持っている発想力であるとか、そういうものもきちんと自分たちの中に組み入れて、あるいは一緒に、同じ土俵で仕事をして、価値をつくっていかなければいけないと思います。
—ブランドとして、貴社にとって大切なものは、もう少し情緒的な価値だと思いますが、フードテックは、情緒的な価値を形成するのに、どのように役立つとお考えですか。
「ウエルネス」は、こころとからだの健康、フィジカルな「ウェルビーイング」と情緒的・主観的な「ウェルビーイング」など、さまざまな言い方があります。「こころの部分」と「身体の部分」に加えて、人とのつながりやエシカルなどの「社会的な部分」と、3つの「ウェルビーイング」が大事だと思っています
フードテックは別にフィジカルな部分ということではなくて、例えば幸せやエモーショナルな価値においても、計測ができる、あるいは研究するための「見える化」技術がフードテックにたくさんあります。まさしくそのような研究も、弊社のR&Dはやっています。情緒的な価値や幸せをゴールにしたとき、例えばそれはどんな味か、あるいはどんな食感かなど、最新技術を活用して研究しています。まさしく価値創造のパートナーとして位置付けているのです。
仲間と一緒に、最後は、「幸せ」を創る企業になる
—オープンイノベーションの取り組みも数多く実施されていると思いますが、その進捗は、先ほどの「ウェルビーイング」を訴求するのに、どれくらい期待できそうですか。
オープンイノベーションに関しては、今社内で様々な新しい取り組みがスタートしており、事業モデル変革にむけての仕組みや制度も整いつつあります。1~2年のうちに色々なことの萌芽が生まれつつあるような状況です。これから、いろんなことを紹介していけるのではないかなと、楽しみにしております。
—ブランドという視点では、AJINOMOTOがコ・クリエーション(協業を)していく中で、届けたい価値を提供する仲間が増えていくということですね。そのときにAJINOMOTOというブランドは、どういうふうに世の中に見えていくと良いのでしょうか。
さきほど申し上げたように「食と健康の課題解決企業」であり、「ウエルネス」を生活者と共創する、そういうコーポレートブランドになりたいと思っています。現状は、日本でAJINOMOTOと言えば何を思い出すといった際には、馴染みとか、老舗、安心、品質のような言葉や、調味料や冷凍食品の商品名などがまだまだ多いです。
そこにビジョンに繋がる「ウエルネス」「ヘルスケア」「ウェルビーイング」「健康」あるいは「幸せ」など、そういうイメージをAJINOMOTOと聞いたら思い出してもらえるようになること。パーセプションを変えるというよりも、今あまり付いていないイメージを思い出してもらえるように、パーセプションを進化させていきたいと思っています。
そして作って食べるという行為、「食」ということを通じて世の中をより良くしていくことについて、いろんな仲間と協力していけるとすれば、それはすごくいいことですよね。(改行なしに) 商品あるいはそれに付随したサービスだけではなく、幅広い業種の仲間と一緒に、最後は「ウエルネス」や、「幸せ」を創りたいと思います。世の中を良くすることを、人々を「幸せ」にすることを、得意な領域である「食」と「アミノ酸」から取り組んでいるよね、と認識してもらえるような、そういう企業になりたいと思います。
ビジョンの「アミノ酸のはたらき」には、実は、私自身も大変なこだわりがあります。私は、30年以上この会社で働いておりますが、食品事業とアミノサイエンス事業におよそ半分ずつ在籍しており、社内でも結構変わったキャリアです。おかげで、ものすごく貴重な経験をさせてもらって、本当に実感を持って「うちの会社のコアココンピタンスはアミノ酸だ」と考えています。ユニークネスであり、「食と健康の課題解決企業」というビジョン実現のReason to believeとしてアミノ酸を語れないといけないと思っています。アミノ酸は、人間だけではなく生きとし生けるものの、水以外の最も基本的な構成成分です。皮膚や筋肉などは、スポーツをやる人は知っている人も多くいらっしゃるのでしょうが、それ以外の血液とか、ホルモンとか、それこそ、先ほど話題になった免疫機能とか、神経伝達物質とか、すべてにアミノ酸が関係しているのです。生き物がアミノ酸バランスによって、正常な状態で生命を維持していると言っても良いくらいだと思います。
そして、「食と健康の課題解決企業」を考えたとき、教科書で習うように、「食べること」の機能の1つ目は命をつなぐという栄養機能。2つ目は嗜好性、要は「おいしい」ということ。それから3つ目に生体調整機能つまり身体の調子を整える機能です。一方、アミノ酸には、おいしさを付与する呈味機能と、タンパク質の最小単位としての栄養機能と、生理的な機能を持ったアミノ酸に代表されるように生体調整機能がある、つまり3つの食の基本機能がアミノ酸にも全部あります。
だからこそ食で起こる課題はアミノ酸で解決できるはずだし、身体をつくっている基本的成分だから、老化によって身体が変化する、つまり高齢化に伴う健康の課題も解決できるのです。ビジョンの信頼感、納得感につながる根拠、Reason to believeだと思います。
今お話したようなことを、従業員皆が理解納得し、弊社のコアコンピタンスとしてのアミノ酸に誇りをもち、各人のテーマに取り組むこと、そしてそれを世の中に対して自分の言葉で伝えていけるようになることを私は目指しています。
—貴社が掲げているビジョンやプロミスは、ある意味広いですよね。食と健康。食と健康は、人間生活でいうと、半分以上を包含するような概念です。
ブランドが特に社内の意思決定において、果たしうる役割の1つに、やらないことを明確にするっていう機能がありうるのですが、AJINOMOTOブランドとして考えたときに、領域を広げることが正しいのか、もしくは、領域を狭く設定すべきなのか、それについて何か思ってらっしゃることありますか。
まさしく今、ポートフォリオをより強化、整理をしようとしています。重点領域とそうではない領域をかなり明確に決めて、非重点領域についてはアセットライトも含めて厳しくメスが入っています。重点領域は横断的に成長させるべく、中計のさらなる肉付けを今議論しているところです。重点領域は食品事業からヘルスケア、電子材料までたしかに幅広いですが、「AJINOMOTOらしさ」っていうものが必要じゃないかと思っています。
また最近議論しているのは、すべての商品がAGBブランドであるべきか、ということについてです。現在は全ての事業が、AGB(AJINOMOTO Group Global Brand )、つまりコーポレートブランドの価値向上に貢献するという考え方のもとで、AGBロゴがパッケージの表面の顔の部分に表示するというルールがあります。今後、生活者も多様化していくなかシャープな価値提供が求められることや、狙うターゲットにとってAJINOMOTOブランドが今まで持っていたイメージが、提供したい価値浸透の足かせになる場合も考えられます。その場合は、AGBブランドを付けなくてもいいという議論も始めるべきだと思っています。そしてこの議論は時間軸も大事です。浸透の時には外したAGBを、その商品ブランドが定着した後はつけるということもありえると思います。AGBが目指す「ウエルネス」はとても大きな概念ですから。ブランド戦略においても今後はより柔軟な考え方も必要になってくるように思います。