これからの顧客との関係性 を構築する“ラインの外側” のイノベーション | インターブランドジャパン

Play Arena これからの顧客との関係性 を構築する
“ラインの外側” のイノベーション

スポーツにおける「競争」は、ラインの内側で定義され、測定・記録されます。その⼀⽅でスポーツブランドにとっての「競争」は、境界線はますます流動的になり、新たなカテゴリーへ拡⼤し、時間とともに進化しています。それは、業界内での競争ではなく、お客様の時間とお⾦を奪い合う競争です。この競争の主役は顧客であり、顧客がゲームのルールを決めることになります。
Playとは、⼈と⼈とがつながることであり、また⼈とのつながりを断つことでもあります。エネルギーに満ち溢れたスタジアムで、ホイッスルと観衆の発する⼤⾳量に⾝を委ねる。ボールの⾏⽅を追い、選⼿の⼀挙⼿⼀投⾜、その⼀瞬に集中する。⼈々は、⾃分のやりたいようにPlayするために、必要に応じてスイッチを⼊れたり切ったりできる⾃由を求めています。

Playの⾃由にはさまざまな形があります。創造する⾃由、発⾒する⾃由、⾃分を表現する⾃由。それは多⾯的な欲求であり、それらは今⽇では新しい形の豊富なコンテンツによって満たされています。⾃分なりのPlayができる場が増えたことで、⼈々は、かつてのようなスタイルでスポーツブランドの虜になっているわけではありません。2021年のスーパーボウルでは、テレビ視聴者数が15年ぶりの低⽔準となり、NFLの視聴率は、2014年のシーズンから12.5%の減少しています。⼀⽅で、Morning Consult社の調査では、⾃分がスポーツファンだと考えているZ世代は53%で、⽶国の成⼈の63%、ミレニアル世代の69%と⽐べても極端に低いわけではありません。気が散ることと興味がなくなることの境界線は曖昧です。どちらも改善することができますが、後者に対してはより強⼒な対応が必要です。スポーツブランドにとって、ノイズの中で反応し、魅⼒的であり続けることは、単に出⾎を⽌める⽅法ではなく、新たな場所でファンと収益の機会を⾒つける、強い薬が必要です。

今⽇、企業にとっての⼤きなチャンスや存在する脅威は、「いわゆる”業界”の中⼼にいるいつもの関係者」から来るものではなく、むしろその周辺から発⽣していると考えています。『The End of Competitive Advantage(邦題:競争優位の終焉)』の著者としても知られるコロンビア⼤学ビジネススクールのリタ・マグレイス教授は、Intelの元CEOである、アンディ・グローブが語った「雪は端から溶けていく」という⾔葉を引⽤し、物事の変化(変曲点)は常に周辺部から始まっており、競争相⼿が業界の中にいると思っていると、⼤きな盲点となると警鐘を鳴らしています。
従来、競合とは、同じ種類の製品やサービスを提供している主要な企業と定義されていました。しかし今⽇では、異なるアプローチで顧客ニーズに対応できる全く別のカテゴリーの製品やサービスが競争相⼿となる可能性があります。クレイトン・クリステンセン(『The Innovatorʼs Dilemma(邦題:イノベーションのジレンマ』の著者) が著書『Competing Against Luck(ジョブ理論)』で⾔うところの、顧客の「⽚付けたいジョブ」の視点で競争相⼿を考える必要があり、お⾦や時間といった同じ顧客資源を奪い合うカテゴリーからの競争は既に始まっているのです。これが「SectorからArenaへの移⾏」なのです。

技術の急激な変化は、混乱の原因であると同時に解決策でもあります。Formula 1のCMOであるエリー・ノーマンは、Interbrandの取材に対し、「デジタルの真の利点の⼀つは、視聴者のレベルに合わせて、視聴者のためになる⽅法で実際に会うことができることです」と語っています。F1バーチャルグランプリやNetflixでの「Drive to Survive」は、F1ブランドがサーキットを越えてゲームやアートといったArenaにまで進出し、リーチを広げ新しいファンを獲得している例です。F1のファンになるのにシーズンチケットは必要はなく、今ではライブで⾒る必要もありません。レース、ゲーム、タイトルマッチ・・そのスタイルは変化しています。ブランドはイベントの現場を超えて、より全体的な顧客体験に⽬を向ける必要があります。ファンの60%以上が、「年間を通じて素晴らしい体験ができる」ことで、次のシーズンにもっと参加したくなると答えています。また、55%のファンが、そのような体験をすれば、将来的にチケットを購⼊する可能性が⾼まると答えています。今、さまざまなファン体験への投資のバランスを取っているブランドは、将来のエンゲージメントとリテンションのために、より良い体制を整えることができるでしょう。

技術の発展とともに、フィジカルな“近接性”への依存が薄れてきています。これはファンだけではなく、競技者にとっても同様のことが⾔えます。コロナ禍によりeSportsはゲームとスポーツの結びつきを強め、成⻑を加速しています。この業界は、2019年の6億9,160万ドルから2026年には18億6,000万ドルになると推定されています。その急速な成⻑の原動⼒となっているのは、ハイパーコネクテッドで深いグローバル性を持つ若いオーディエンスです。Z世代の35%が⾃分がeSportsのファンであると認識しており、これは全成⼈の19%に相当します。NASCARもまた、eSportsを推進して新たな顧客を⾒つけようとしているブランドの⼀つです。CMOのジル・グレゴリーが語っているように、NASCARがFOXと提携してeNASCAR iRacing Pro Invitationalシリーズのバーチャル放送を⾏った結果、テレビ史上最も視聴されたeSportsイベントとなりました。今後、ブランドは、eSportsへの投資をCOVID-19への短期的な対応としてではなく、エンゲージメント戦略の中核として位置づけていくことが重要となっていくでしょう。

スポーツのゲーム化(gamify)が進んでいます。即効性があり、セロトニンを分泌させるゲームのスタイルは、スポーツの世界にも影響を与え続けています。プロバスケットボールのワシントン・ウィザーズ、⼥⼦プロバスケットのワシントン・ミスティクス、プロアイスホッケーのワシントン・キャピタルズ、そして世界最⼤規模のeSportsチーム、チーム・リキッドを所有するMonumental Sports & Entertainment社の戦略イニシアチブ担当SVPであるザック・レオンシス⽒は、「今後スポーツ施設は、ゲーミフィケーション、デイリーファンタジー、無料のプレイゲーム、そして最終的にはスポーツベッティング(スポーツくじ)を促進することで、ゲームをより魅⼒的なものにしていく必要がある」と述べています。⼀例として、NFLのラスベガス・レイダーズは、2020年9⽉にオープンしたドーム型のアレジアント・スタジアムでゲーミフィケーションに取り組んでいます。スタジアム内には、スタジアム創設パートナーでもあるMGMリゾートによるMGMクラブが併設されており、VIP向けのバーやラウンジのほか、モバイルでのベッティングに参加できるサービスを提供しています。

このようにレイダーズとMGMとのパートナーシップは、スタジアムにとどまらず、ファンのためのエクスクルーシブなさまざまな体験を提供する新たなビジネスを⽣み出しています。
製品のイノベーションとパートナーシップ戦略は、ブランドがその拡張性を⾼め、新しい場所でファンにアプローチするための⽅法にほかなりません。その意味において、スポーツベッティング(2019年⽶国での賭け⾦総額130億ドル)は、ブランドが顧客とのエンゲージメントを再考するための創造的な⽅法の⼀つです。
私たちには、スポーツに夢中になる理由があります。お気に⼊りのドライバーや選⼿の視点で迫⼒を感じたい。滅多に⾒ることのできないスポーツを楽しみたい。ボタンをクリックするだけでゲームに参加したい。ブランドにとっては、⼈々が好きなようにプレイできる⾃由を提供することで、リーチと収益を得ることができるのです。

Jack Stiuso
Consultant, Interbrand New York
Geoff Miller
Associate Director, Interbrand New York
Anna Gnudi
Associate Director, Interbrand Milan

Translated and edited from “Innovating the outside lines”:
https://www.interbrand.com/thinking/innovating-outside-the-lines/

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