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Kao

長谷部 佳宏 様
花王株式会社
代表取締役 社長執行役員

Best Japan Brands 2024
ブランドリーダーズインタビュー

これまでにない変容を続ける環境の中で、ランクインしたリーディングカンパニーは今後の成長のためにどのようにその変化を捉え、対応しようとしているのか。各社のブランドリーダーが5つの質問に答えるインタビューシリーズ。

この1-2年を振り返ってみて、御社の事業やブランドにとってどのような年でしたでしょうか。

近年の原材料価格の高騰により、2年前には業績へのインパクトが過去最大の600億円に達し、会社の経営にも大きく影響する事態となりました。日本の日用品市場は、この何十年もの間、さまざまな環境の変化に際してもほとんど値上げをしてきませんでした。そういう世界的に見ても特異なマーケットの中で、非常に厳しい状況に追い込まれ、今では同業はじめ多くの企業が値上げへ動いていますが、花王は先頭を切って値上げに踏み切りました。
そうした中で、ブランド力が重要だということを改めて感じています。強いブランド、お客様との信頼関係が築けているブランドは、値上げをしても逆にシェアが上がるものが多かった。これは我々にとって新たな発見でした。一方で、ブランド力がなく値上げがし難いものも明確になり、お客様とのある種の”対話”によって選別が明確になった。プロダクトのみならずコーポレートのレベルも含め、Kaoというブランドがこれまで行ってきたこと、お客様との「絆」が試された2年間であったと思います。

組織や事業全体として (担当部門として)、対応する領域や範囲はどのように変わってきているでしょうか。

この値上げに至る検討、議論を通じて、販売や営業をはじめ、全社的に利益に対する意識が変わったことにより、仕事のやり方や社員の動き方なども大きく変わってきました。
一つの商品を世に出すに当たって、企業は相当な努力と労力、工夫を積み重ねています。その価格が安く見積もられるということは、自分たちが生み出した価値、企業としての努力が安く見積もられるということに今回改めて気づかされました。
「売上」はどれだけの規模で買って頂いたかという社会や市場に対する「影響力」である一方で、「利益」とは「その価格でも買いたい」という「お客様からの感謝(リスペクト)の印」と言えます。つまり、安く売れば売るほど「感謝の質」を落とし、社員全員で積み上げてきた努力を無駄にして「感謝されていない」モノを売っていることになってしまう。これまでは「売上が上がれば利益はついてくる」と考えられていましたが、「私たちつくり手の思いを少しでも高く評価してもらわなければいけない」と意識が変わったことは、社内の大きな変革につながってきています。

想定を越える社会や人々の変化に対して、事業として、ブランドとしてどのように対応してきていらっしゃるでしょうか。

1年ほど前、各商品のブランド力をもとに、安定収益、成長ドライバー、事業変革など、事業の仕分けを行い、それぞれのブランドの貢献役割や課題を明確にしました。それまでは各部門が売上拡大に注力していたので、当初は仕分けされることが現場のモチベーション低下や反発につながるのではないかと懸念しましたが、実際は逆でした。むしろ仕分けをバネに、それぞれの部門で意識変革と同時に的確なアクションが起きるようになったのです。特にヘアケア部門では、ブランドの建て直しや新規立ち上げなどがこれまででは考えられないスピードで行われるなど、業務革新が劇的に進んでいます。

社員の働き方や意識は、どのように変わったと感じているか。ワークライフバランス、効率性やエンゲージメント、社内コミュニケーションといった社内カルチャー、社員の価値観などに、どのような影響があり、それにどのように対応してきていらっしゃるでしょうか。

花王はオフィス環境に関して、いわゆる大部屋のスタイルを国内でいち早く取り入れ、異なる部門が壁のない一つの空間の中に居ることによって生まれる多様なコネクションや刺激、対話を通して、新たな発想を生み、ものづくりをしてきました。コロナ禍のリモートワーク環境では、こうした対面で話す機会が失われ、決められた時間に決められた人とのみ話し、別のチームへバケツリレーのように話をつなぐオンラインのスタイルへ移行せざるを得ませんでした。これは会社全体の業務効率を大幅に下げ、意思決定のスピードを著しく低下させました。
そこで、コロナが明けるとともに、まず執行役員はじめ、さまざまな部署・職位の社員が対話をする「車座」の取り組みを人事部主導で企画し、徹底して行いました。対話の量が全社的に増えることによって、改めて互いをよく知ることができ、コミュニケーションの質や密度、スピードが飛躍的に上がりました。何よりも社員がみな非常に明るくなったことが大きな変化だったと思います。

パーパスや経営の理念、ビジョンなどの重要性が論じられていますが、それらを事業活動の中で、どのような形で活かしていらっしゃるでしょうか(実体化に向けてどのような取り組みをされているでしょうか)。

社長就任後に、企業理念である「花王ウェイ」を、グローバルからの視点も入れて一部アップデートしました。ミッションは「豊かな共生世界の実現」とし、人だけでなく地球にとっても Kirei Life を実現していく、としたことで世界観を広げました。また、ビジョンは「人をよく理解し期待の先いく企業に」とし、人々の期待を超えた新たな価値を生み出していくことを宣言。さらには行動原則に「果敢に挑む」を加え、丁寧に間違いなくしっかりやる保守的な企業文化を脱し、より挑戦していく積極的な姿勢を明確にしました。
創業者・長瀬富郎の遺訓「天祐は常に道を正して待つべし」や花王ウェイの「基本となる価値観」の一つ「正道を歩む」に則り、ルールを守り、誠実であること、決してうそぶいたりしないことは、これまでと同様に堅持してくところですが、フェアプレーでありながらももっと面白いプレーをすること、大胆に挑戦することも、これから花王にとって大事なことと考えています。
すでに発表させて頂いた、異業種の企業との取り組みもそうした挑戦のひとつであり、互いの強みを活かしたこれまでにない価値によって世界を驚かすようなことを、これからもっともっと起こしていきたいと思っています。