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Chugai

板垣 利明 様
中外製薬株式会社
取締役 上席執行役員
最高財務責任者(CFO)
財務経理、広報IR、購買統括

Best Japan Brands 2024
ブランドリーダーズインタビュー

これまでにない変容を続ける環境の中で、ランクインしたリーディングカンパニーは今後の成長のためにどのようにその変化を捉え、対応しようとしているのか。各社のブランドリーダーが5つの質問に答えるインタビューシリーズ。

この1-2年を振り返ってみて、御社の事業やブランドにとってどのような年でしたでしょうか。

昨年5月にはCOVID-19 がインフルエンザ並みの5類感染症に位置付けられましたが、社会的・経済的活動がコロナ禍前のレベルに戻るには未だ時間を要し、行動変容や認識変化により、元の状態に戻ることのない、あるいは戻ってはならないとされる状況も一部には出始めています。特に認識・状況変化が大きかったのが、医薬品の分野です。m-RNAや抗体技術を使ったワクチンや治療薬がいち早く開発されて、世界に供給されたことは、人類にとって画期的なことでした。しかし、COVID-19が世界規模で拡大しはじめた当初は、これらワクチンや治療薬の全てを輸入に頼らざるを得なかったことで、経済的安全保障の不安や日本の製薬企業の創薬力の弱体化が露呈されました。 
そうした中においても、ワクチン開発や治療薬供給をし続けてきた企業には、社会からの期待や要請の高さに準じるように注目が集まり、自ずとブランド力も強まったという認識を私は持っております。当社も、コロナ禍で企業価値を押し上げた数少ない企業の一社です。自社創製品が新型コロナウイルスの肺炎患者向けに投与されたり、政府が備蓄するコロナウイルス中和抗体薬を供給・完納したりしてきました。これらも、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」というミッションのもと、患者さんのためにイノベーションを追及し、正攻法と誠意をもって企業経営・事業運営をしてきたからこそ出来たのだと考えております。改めて、当社が大事にしてきた価値観(Core Value)「患者中心・フロンティア精神・誠実」の重要性を認識することになった1~2年だったと言えます。 

組織や事業全体として (担当部門として)、対応する領域や範囲はどのように変わってきているでしょうか。

医薬品産業を取り巻く環境には、脅威となる変化と更なる成長となりうる機会が混在しており、それぞれが高速化・高度化しています。国内市場は、ジェネリック品の品質・供給において諸問題が生じた一方で、医療財政の圧迫により薬価抑制や後発薬の使用促進が強化されており、欧米企業を含めた新薬メーカーにとっては、日本市場の魅力度が大きく低下してきております。一方、海外市場は、引き続き成長が予想されていますが、研究開発投資が高騰し、特許が切れると一挙に後発品にとって代わるという市場ダイナミズムの激しさに変化はありません。したがって、創薬のスピード・開発効率・成功確率の向上と、製品としての画期性・経済性・供給力が、製薬企業がグローバルに生き残るための鍵になります。 
当社は、「革新的新薬」を事業のコアに据え、多様なプレーヤーがイノベーションに挑戦する世界のヘルスケア領域においてトップクラスのイノベーターになることを目指しております。世の中には、いまだ治療法が確立されていない疾病が数万種類も存在しており、こうしたアンメットメディカルニーズの解決に向けて、当社ならでは出来ること、やるべきことが沢山あります。 
当社は、独自の創薬技術を強みとし、世界の患者さんに自社で創製した画期的な医薬品をお届けしてまいりました。それらは「技術ドリブンによる創薬」と「ロシュ社との戦略的アライアンス」による成果でもあり、ユニークなビジネスモデルとして確立されています。 
創薬技術領域は「低分子、中分子、抗体」に注力し、そこから生み出される多種多様な製品の開発・販売は、特定の疾患領域に限定せずに、それぞれに最適な体制(自販、共同販売、委託販売、導出など)を選択します。 
このユニークなビジネスモデル自体を変えることはありませんが、この強みに更なる厚みを出していくために力を入れ始めたのがDXとオープンインベーションです。機械学習・生成AIやデータ利活用などを通じて、創薬のスピード・開発効率・成功確率の向上を目指しています。また、アカデミアはもとより、新技術、AI創薬などの先進企業などとの協働により、製品としての画期性・経済性・供給力の向上を果たしていきます。昨年には、米国にコーポレートベンチャーキャピタルを設立し、オープンインベーションの取り組みをグローバルレベルで推進していきます。 

想定を越える社会や人々の変化に対して、事業として、ブランドとしてどのように対応してきていらっしゃるでしょうか。

当社は、経営の基本方針として「ステークホルダーとの共有価値の創造」を掲げています。 
私たちが目指している共有価値は「患者中心の高度で持続可能な医療の実現」です。コアとなるミッションや価値観は、一切ぶれることはありません。むしろ、想定を超える環境変化に耐えうるミッションや価値観があったからこそ、今の当社があり、この先も企業経営の礎としてまいります。ただし、ミッションを叶えるためには、社会や人々の変化をウオッチし、時勢と会社の立ち位置に依っては、事業構造や業態の革新も必要になってくるでしょう。 
当社も、約100年間の創業において、新薬商社から製薬企業へ、OTCや診断薬を含んだ複数事業の経営から医療用医薬品へ集中、ケミカルからバイオへ、そしてロシュ社との戦略的アライアンスと、変革をし続けてまいりました。しかし、形態や体制は変わっても、アンメットメディカルニーズに応え、革新的な医薬品で世界の医療と人々に貢献する「患者中心」の想いと強い使命感は不変です。 
医療用医薬品には様々な規制があり、また、当社らしさの支えとなっている「技術ドリブンによる創薬」や「ロシュ社との戦略的アライアンス」は、専門的でかつユニークなだけに説明にも工夫が必要です。さまざまなステークホルダーと価値を共有しながら、企業価値を高めていくためにも、私たちの想いや取り組みを、分かりやすくお伝えし、双方向の対話(ダイアローグ)を通じて、中外ブランドの更なる向上を果たしていきたいと思います。 

社員の働き方や意識は、どのように変わったと感じているか。ワークライフバランス、効率性やエンゲージメント、社内コミュニケーションといった社内カルチャー、社員の価値観などに、どのような影響があり、それにどのように対応してきていらっしゃるでしょうか。

当社は、イノベーション創出の源泉は“ひと”であり、人財こそが当社で最大の資産であると考えています。この想いは、CEO自らが常に発する「やっぱり、ひと」という分かり易い言葉で、多くの従業員に浸透しています。これまでも、異なる価値観やアイディアを持つ多様な人財が働きがいや成長を実感し、自分らしく自由闊達に働くことができるような環境整備を積極的に進めてきました。また、D&Iの推進を通じて、女性活躍推進のさらなる加速に加え、介護・育児と仕事の両立、LGBTQといった社員を取り巻くさまざまな課題に取り組んできております。 
最近、特に大きく変化したと思うのは、働き方や従業員同士のコミュニケーションのあり方です。「働きがい改革」を推進し、在宅勤務とオフィス勤務とのハイブリッド型を活用した最適な働き方を、各人が選択・実践できる環境を整備しました。もちろん、テレワークやウェブ会議は時間や地理的な制約の影響が少なく便利ではありますが、対面のコミュニケーションでしか得られない価値もあるはずです。同じ想いを持った従業員が繋がり、異なった経験やノウハウを持った従業員が触れあうことで、イノベーションやトランスフォーメーションが起きます。繋がりをより強くし、接触機会がより増えるように、対面でのコミュニケーションの大切さをトップ自らが発信し、「来たくなるオフィス」作りをはじめとし、さまざまな支援策が動き始めました。私たち経営層も、事業所訪問やライブトークイベントなどを通じて、従業員と触れ合う機会、対話の機会が増えてきております。結果、社員意識調査において、企業風土・多様性・心理的安全性のポイントが良くなり、会社に対するエンゲージメントは世界優良企業群レベルにあることが確認できました。 
社内だけでなく、社外からも「『やっぱり、ひと』の中外製薬だね」と言っていただける会社でありたいと思います。 

パーパスや経営の理念、ビジョンなどの重要性が論じられていますが、それらを事業活動の中で、どのような形で活かしていらっしゃるでしょうか(実体化に向けてどのような取り組みをされているでしょうか)。

当社は、来年、創業100周年を迎えます。関東大震災を目の当たりにした創業者が抱いた「世の中に役立つ薬をつくる」という使命感は、パーパスとして受け継がれています。 
この創業の想いこそ、当社のレゾンデートル(存在意義)であり金科玉条であります。 
今は、ミッションステートメントとして分かりやすく明文化して、全従業員と共有しています。ミッションや価値観が、あらゆる階層の日常の会話の中で出てくるほどに、自家薬籠中のものになっています。 
特に「患者中心」は最優先価値観として、業務を遂行していく上での判断軸としています。 
2020年からスタートした患者団体とCEOのダイアログや、患者さんの声を創薬に取り入れる活動は、全社の全機能に展開するなど次のレベルへと進化しています。 
これらを継続的に育み、社員エンゲージメントを向上させるため、トップマネジメント自らが、ダイアログやライブトークなど、社員と双方向のコミュニケ―ションを積み重ね、カルチャーや企業ブランドの理解浸透や促進を図る機会を創出しています。 
社外のステークホルダーに向けては、イノベーションを追求し続ける拘りを「創造で、想像を超える。/INNOVATION BEYOND IMAGINATION」というスローガンに託し、これまでの枠組みや常識にとらわれず、世の中の人々が待ち望み、期待を超えていくものを生み出していきたいという、当社のイノベーションを追求する姿勢を前面に出したブランド活動を展開しています。これらのブランディング活動による従業員へのミラー効果も大いにあり、パーパス浸透の好循環が起きています。