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Best Japan Brands 2025に見られた成長ブランドの強さ(前編)

コロナ禍も収束し世の中に日常が戻る中、日本でも物価や賃金の上昇、金利のある世界の到来など、経済が前に進み出しているのを日々の生活から感じるようになった。一方で、様々な格差や社会課題なども表出し、人々は将来の不安から何を信じればよいのか、拠り所を探しているようにも見える。その中で今回のBest Japan Brands 2025では大きく価値を伸長させたブランドが目立つ結果となった。それらのブランドにはどんな強さがあったのかを紐解いていきたい。 

ブランド価値とは

インターブランドは、1984年にブランド価値を金額換算する独自の手法として「ブランド価値評価」を開発。その後、国際標準化機構(ISO)から認定を受け、現在も世界のデファクトスタンダードとして定着している。このブランド価値評価は、3つの分析で構成される: 

  1. 財務分析:現在の売上および将来の売上予測を算出し、現在から将来にわたるエコノミックプロフィットを推計。企業が生み出す利益の将来予測を行う 
  2. ブランドの役割分析:ブランドがどの程度顧客の購買意思決定に影響を与えているかを分析し、ブランドによってもたらされた利益を抽出する 
  3. ブランド強度分析:社内と社外の両面から、ブランドによる将来の利益の確実性を評価し、Brand Strength Score(BSS;ブランド強度スコア)を算出する 

このうち、3.ブランド強度分析(BSS)は、4つの社内指標と6つの社外指標の合計10要素で評価され(*注1)、市場における競合との相対的な位置関係を把握するとともに、ブランドの強みや課題点を洗い出すことができる。本稿では、このブランド強度分析(BSS)を起点に、今年の結果を見ていきたい。 

*注1) 

Best Japan Brands 2025概況 

今年のBest Japan Brands 2025では、全100ブランドのブランド価値総額の対前年比成長率が7.7%と、昨年の6.7%よりも伸びが大きくなった。昨年10月に発表したBest Global Brands 2024では伸びが鈍化したのと対照的である。グローバルではテクノロジーブランドを中心にコロナ禍から早期に回復し大きく成長していたものが落ち着いてきたのに対し、日本ブランドはようやく大きく動き出している感がある。しかし全体でみると、前年比20%超の大幅成長の 8ブランド (昨年2ブランド) を含む、二桁成長のブランドが 24ブランド (昨年22ブランド)、逆に二桁マイナスのブランドが8ブランド (昨年 4ブランド) となるなど、明暗が分かれた。新規ランクインブランドが6ブランドと例年より多かったことも今年の特徴である。方向を定め、ダイナミックに動き出したブランドとそのモーメンタムを掴めていないブランドがあったと見られる。 

ブランド強度の視点から見た成長を遂げているブランドの特徴 

冒頭で触れた通り、ブランド強度スコア(BSS)は社内・社外含めた10の評価視点により総合的にブランドの強さ、すなわちブランドによる将来の利益の確実性を評価するものとなっている。では、ブランドを成長させている企業とそうでない企業に、今年はどんな違いが出たのだろうか。経年比較の視点も入れながら考察したい。 

ブランド価値が、前年比で10%以上成長したブランドと低下したブランドで、BSSの社内外の10指標にどんな違いがあったのか。結果は以下の通りとなった(*注2)。 

*注2) 

ブランド価値の成長率の高いブランドは、「Empathy(共感力)」、「Affinity(愛着度)」、「Agility(俊敏力)」が高い傾向にあった。このうち、Empathy(共感力)とAffinity(愛着度)は顧客との絆の強さを社内視点(共感力)と社外視点(愛着度)から評価しているものであり、今年のカギは顧客との繋がりの作り方にあることが窺える。 

過去3年間の推移で見てみよう(*注3)。 

*注3) 

すると、2023, 2024年は「Coherence(整合性)」「Distinctiveness(独自性)」「Alignment(結束力)」といった指標が成長ブランドの特徴となっており、ブランディングの基本に立ち返り、態勢を整えている期間であったことが分かる。それに対して今年は、より真摯に生活者と向き合い、人々と共に価値を創り上げ絆を構築してきたブランドが成長したと見られる。なお、「Agility(俊敏力)」はいつでも成長ブランドに欠かせない指標となっており、裏を返せば多くの日本ブランドにとって課題指標であるとも言えよう。 

一方、Best Global Brandsではどのような特徴があったのだろうか(*注4)。 

*注4) 

グローバルでは早くから「Participation(共創性)」「Affinity(愛着度)」など顧客との関係性の構築度合いを評価する指標が成長ブランドの特徴として見られていた。そして直近の2024年では日本と同様「Empathy(共感力)」、「Affinity(愛着度)」が抽出されている。ある意味、日本がグローバルに追いついてきたとも言えるのではないだろうか。 

日本ブランドの成長に向けた示唆 

以上見てきたように、価値を伸長させているブランドは、生活者の声に真摯に向き合い、生活者の共感を得ているブランドとなっている。この特徴だけ見るとBtoCブランドに有利に感じられるかもしれない。しかし実際にはBtoBでも多くのブランドが価値を伸ばしており、これらのブランドにとって「Affinity(愛着度)」とは何を意味するのか。 

冒頭に述べたように社会課題が山積する世の中においては、企業がどのような価値観でどのように社会に対して価値を生むのかが問われるようになってきている。Z世代を中心に、人々は企業の姿勢に共感し、そのブランドを支持する、そして支持するブランドの商品・サービスを選択する動きが見られる。これは、「好き」「憧れ」といった感覚よりも「共感」「共鳴」といった感覚に近いものであると考えられ、従来とは異なるレイヤーでの「愛着」が生まれているのではないかと推察される。BtoC、BtoBを問わず、ブランドは相対する顧客はもちろんのこと、生活者との絆を構築していくことが求められている。 

本稿ではここまで全体の傾向を見てきたが、続編では成長率が特に高かったブランドに焦点を当てて、その特徴を見ていきたい。