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Best Japan Brands 2024が明らかにする、ブランド成長の本質

昨年は、新型コロナウイルスの感染が収束しはじめ、人々の日常生活が戻ってきたと感じられる1年であった。一方で、多くの企業の不祥事を耳にした1年でもあった。通信会社の元社員による巨額詐欺事件、中古車販売会社の自動車保険金の不正請求問題、大手自動車メーカーの不正行為など、ブランドは、常にこうしたリスクに晒されている。“企業・組織のコンプライアンスの問題”と片付けてしまえばそれまでだが、堅牢なブランドを構築していくために、今、一体何が必要なのか。成長を遂げているブランドと低迷しているブランドの差はどこにあるのか。今回のBest Japan Brands 2024の結果から、紐解いていきたい。 
 

ブランド価値とは 

インターブランドは、1984年にブランド価値を金額換算する独自の手法として「ブランド価値評価」を開発。その後、国際標準化機構(ISO)から認定を受け、現在も世界のデファクトスタンダードとして定着している。このブランド価値評価は、3つの分析で構成される: 

  1. 財務分析:現在の売上および将来の売上予測を算出し、現在から将来にわたる経済的利益を推計。企業が生み出す利益の将来予測を行う 
  2. ブランドの役割分析:ブランドがどの程度顧客の購買意思決定に影響を与えているかを分析し、ブランドによってもたらされた利益を抽出する 
  3. ブランド強度分析:Brand Strength Score(BSS)と呼ばれ、社内と社外の両面から、ブランドによる将来の利益の確実性を評価する 

このうち、3.ブランド強度分析(BSS)は、4つの社内指標と6つの社外指標の合計10要素で評価され(*注1)、市場における競合との相対的な位置関係を把握するとともに、ブランドの強みや課題点を洗い出すことができる。本稿では、このブランド強度分析(BSS)を起点に、今年の結果を見ていきたい。 

*注1) 

Best Japan Brands 2024 概況 

まず、今年のBest Japan Brands 2024の概況からお伝えしたい。日本のTop100ブランドのブランド価値総額の対前年成長率は6.7%と、昨年に引き続き、全体的に鈍化傾向にある。また、昨年比で最もブランド価値を伸ばしたTop 5は、UNIQLO、Mercari、FUJITSU、SUNTORY、AJINOMOTOとなり、全体傾向としてブランドの成長が頭打ちになる中、これらのTop5は、いずれも前年比15%以上の伸長となった。これは、1位に君臨するToyotaをはじめ、Best Global Brands(*注2)で活躍する日本ブランドの成長率を凌ぐ。アパレルを展開する「UNIQLO」のブランド価値においては、今年、NISSANのブランド価値を上回り、第4位に順位を上げた。 

*注2)Best Global Brands 2023より引用: https://interbrand.com/best-global-brands/ 
 

成長を遂げているブランドの特徴 

冒頭で触れた通り、企業の不祥事などのブランドの棄損リスクは、常に存在する。そのため、ブランドは、どんな状況や困難にも打ち勝ち、将来にわたって利益を生み出し続けられる“強さ”を持っておかなければならない。これがブランド強度(BSS)、すなわち、「ブランドによる将来の利益の確実性を評価する」視点となっている。 
では、ブランドを成長させている企業とそうでない企業に、どんな違いがあるのか。このBSSの観点から考察したい。 

1.命運を分けた「社内の視点」 

ブランド価値が、前年比で10%以上成長したブランドと低下したブランドで、BSSの社内外の10指標にどんな違いがあったのか。結果は以下の通りとなった(*注3)。 

*注3) 

 
ブランド価値の成長率の高いブランドは、「Agility(俊敏力)」、「Coherence(整合性)」、「Alignment(結束力)」が高い傾向にあり、このうちAgility(俊敏力)とAlignment(結束力)の2つが“社内指標”と、ブランドを成長させている企業は、社内への意識が高いことが窺える。 

中でも、ここではAlignment(結束力)に注目したい。この指標の評価視点は、「組織全体が同じ方向に向かい、その実現に全力を尽くし、事業全体を通じてそれを実行する仕組みを備えているか」である。実は、このAlignment(結束力)以外の上記2つのBSS指標は、昨年も同様に成長ブランドの共通項として挙がっていた(*注4)。つまり、昨年からの変化で見ると、このAlignment(結束力)が、ブランドを成長させる上で、昨年よりも大きな役割を担っていると解釈できる。 

*注4)  
 

神棚に上げられたブランドの“北極星” 

前述のAlignment(結束力)を向上させるためには、組織全体が一丸となるためのブランドの“ゴール”を明確にしておく必要がある。BSSの10指標の中に、「Direction(志向力)」がある。これは、「ブランドの目指す姿と、それをどのように実現していくかが明確であり、それを実行に導く文化と価値観が定義されているか」を測る指標であり、まさにブランドのゴールが明確になっているかを評価している。ただ、注4)の通り、直近3年において、成長ブランドと低下ブランドの間での「Direction(志向力)」の差は、あまり大きくない。つまり、“ゴールがクリアになっているか”ではなく、“ゴール実現に向かって、組織全体が結束できているか”が、ブランドを成長させる一つの鍵になっているのではないか。昨今、よく耳にする企業のパーパスのように、ブランドが目指す“北極星”を定義している企業は珍しくない。一方で、その北極星を実現するために、従業員一人ひとりに深く浸透させているブランドは、どれほどあるだろうか。パーパスやブランドの目指す姿を定義するだけではなく、企業文化や事業活動にしっかりと落とし込み、体現に繋げていく。これこそが、今まさに日本のブランドを成長させるために必要な観点、大きな分岐点になっているのではないか。 
 

日本のブランドに、今、求められていることとは? 

今回は、Best Japan Brands 2024からブランドの成長に必要な観点・要素を紐解いた。より強固なブランドを作り上げて、熾烈な競争環境を生き抜くためには、神棚に上げられたパーパスや、暗黙知化された企業文化・価値観では、もはや通用しない。ブランドの目指す姿を形式知化して従業員と共有し、その実現に向けて、従業員一人ひとりが自分にできることを模索し、日々の業務に落とし込むことで、組織全体が一体となってブランドを体現することができる。そして忘れてはならないのが、これは“ゴール”ではなく、“スタート地点”だということだ。当然ながら、ブランドは社外で評価されて初めて、価値を生むことができる。今回ランクインしている日本ブランドにおいては、BSSの社内指標だけに留まらず、社外指標においても改善の余地は大きい。 
 
今年は、どんなブランドが、どのような飛躍を見せてくれる年になるのだろうか。この記事を通じて、少しでも多くの日本ブランドの成功を後押しできれば幸いである。