一方で、コロナ禍によって、衛生行動習慣は家庭内だけで完結できないところに行き当たりました。その中で、大切な人のために何が出来るか。家族を基点に、その周りに置かれている人を思い浮かべることで、行動を広げていけるのではないかと考えたのです。そこでパーパスを念頭に置いて、ブランドを「個⼈の⼿洗い習慣」から「⾃分のためだけではなく、⼤切な⼈のための⼿洗い」を⽬的としたブランドとして捉え直し、2021年2月から、生活を取り巻く場面、接点である公共交通機関、地方自治体、レジャー施設、商店街、などで取り組みがスタートしました。

Japan Branding Awards受賞から
さらに拡がる「キレイのリレー」
ライオン株式会社さま
コロナ禍に世界が震撼とした2020年。
パンデミックの渦中にあって、明確なパーパスを軸にいち早くブランディングを推進し、2021年のアワードでWinnersの栄冠を獲得したライオンのプロダクトブランド、「キレイキレイ」。
その活動と受賞がもたらした成果について、お話を伺いました。
- 小西 真梨 様(ヘルス&ホームケア事業本部 ビューティケア事業部 ブランドマネジャー)
- 阿曾 忍 様(経営企画部 コーポレートブランド戦略室長*) *2022年7月取材当時
インタビュアー
- 鈴木裕美(インターブランド)
パーパスを体現するために
鈴木:コロナ禍の中、迅速にブランディング活動を実践されましたね。
阿曾:ライオンは、2018年に「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というパーパスを掲げていますが、「キレイキレイ」は、コーポレートとの親和性が非常に高いブランドのひとつです。コロナ禍以前の2019年から、これまでの家族中心だった「キレイキレイ」のコミュニケーションの範囲を拡張し、より良い社会に向けた共創につなげるべく準備を始めていたことから、早くスタートできたという側面はあったと思います。
小西:「キレイキレイ」誕生の契機になったのは、1996年のO-157による食中毒の集団感染でした。子どもたちを菌やウイルスから守るために、手洗い習慣を根付かせ、感染リスクから守りたい。いわば、母親の愛情がブランドの根幹にある思想です。以来25年間、「キレイキレイ」は家庭内の衛生行動習慣化に取り組んできましたが、その成果があって、家庭内の衛生行動はかなり根付いてきて、7割以上の家庭にハンドソープが置かれるほどになりました。

小西 真梨 様
受賞を機に、社内にも社外にもつながり続ける「キレイのリレー」
鈴木:他社との協業は「キレイキレイ」のブランド活動のなかでも、特に意義がある活動だと感じました。しかし、時期が時期だけにたいへんなご苦労があったのではないですか?
小西:2020年末から子ども支援のNPO法人(フローレンス、むすびえ、企業教育研究会)、東京メトロ(東京地下鉄)、Z会(増進会HD)、すみだ水族館などに、延べ24万個の「キレイキレイ」薬用ハンドジェルの寄付や、21年から様々な事業者様とのキレイのリレー活動を実施しましたが、周囲のみなさんも大変な時期だっただけに、私たちを信頼していただくこと、そして参加していただく企業のみなさまの意識改革を広げていくことが大変でしたね。「キレイキレイ」が衛生活動に貢献するつもりで協業したとしても、その場面で何かが起きてしまったら、よくない評判につながりかねませんので。

鈴木:受賞後、社内外からの評価に変化は感じられましたか?
小西:このような啓発活動は、直近の売上・利益につながりにくいので、なかなか成果を実証しにくいのですが、今回の受賞で大きく取り上げていただいたことで、事業の担当部門だけでなく、製品開発を担う研究所メンバーや営業メンバーにとっても、自分たちがやっていることに確信が持て、次のモチベーションにつながるきっかけになりました。大変な時期になんとかやった活動だからこそ、各部門との関わりが深くなり、社内がつながったことで、ここまで連れてきてもらったのかな、という印象があります。社外の代理店さんや取り組み業者さんにも喜んでいただけましたし、受賞以降は、自治体や小学校などとの取り組みの際、信頼が高まったことを実感しています。ブランドが表彰されたこと以上に、事態がどんどん好転していくことがうれしいですね。
鈴木:コーポレートブランドとプロダクトブランドが支援・貢献の関係がうまくいっているようですね。

阿曾 忍 様
阿曾:消費財のブランディングは、プロダクトブランドのフリースタンディングになりがちです。今回の「キレイのリレー」という取り組みにおいては、コロナ禍で手洗いや消毒に対する関心が高まっている影響もありますが、生活者の目線で「LION」というコーポレートブランドと「キレイキレイ」というブランドのつながりを感じていただけて、当社のレピテーションを押し上げてくれた印象を持っています。コミュニケーションで用いた“リレー”という表現がよかったのかもしれません。大人も子どももリレーというとパッとイメージが伝わるし、「やってください」というブランド目線の押しつけがましさや強制力、外圧を感じません。むしろ「繋げていいんだ」という意識を感じていただけたから共感につながっている気がします。
商品ブランディングの枠組みを超えて
鈴木:受賞後は、どのようにブランディング活動を進めていらっしゃいますか?
小西:啓発だけではなく、事業としてしっかり続けていくために、社内の営業部との連携を強化しています。21年の下期には、宮城県仙台市中心部商店街を「キレイキレイ」でジャックするという企画を実施したのですが、これは私たちの企画ではなく、営業部から話が上がってきたものです。売上にも大きく貢献し、この成功が刺激になって他の営業部へも波及しました。コミュニケーションと営業活動はなかなか連動しにくいところがありますが、お互いが自分ごと化できるいい取り組みになりました。
さらに地方自治体との連携としては、21年の下期に「ウェルネス都市宣言」を掲げ、市民が良好な環境の下で生き生きと毎日を過ごすための多様な取り組みをされている兵庫県加古川市とキレイのリレーの連携協定を結びました。

市庁舎には、ワクチン接種などで、年齢を問わず多くの人が出入りします。加古川市は、そこでの衛生行動に悩まれていました。私たちは市役所に来庁される市民や職員のみなさまのために、「キレイキレイ」による施設内の清潔衛生環境づくりのサポートや、清潔衛生に関する専門知識を持つ当社社員による「出張清潔衛生授業」などを実施しています。そこからさらに、同市の教育委員会や兵庫県川西市をご紹介いただくなど、どんどんリレーがつながっています。いま、再び感染が増えている中で、ここをなんとか乗り切らないと本当の習慣化にはならないと頑張っています。
阿曾:7月1日には、ホームページで「LION Scope」という組込み型のオウンドメディアに加え、LION公式のnote(SNS)も立ち上げました。そこでも「キレイキレイ」について第三者の視点もうまく捉えながらストーリーをお届けしています。生活者に寄り添い、独りよがりではないOUR STORY をしっかり伝えていきたいです。
鈴木:最後に応募を考えていらっしゃる方へ、ひと言メッセージをいただけますか?
小西:Japan Branding Awardは、2〜3年の継続的な施策が問われるアワードです。それだけに、ブランドマネジメントをする立場から言えば、応募は自分たちがやってきたことをみんなで再認識し、総棚卸しするきっかけになります。それが次へのドライブ、推進力になると思います。気づきも多かったです。社内がひとつになり、部⾨横断型で取り組めたから、ここまで来られたことを改めて感じました。心から感謝しています。
阿曾:プロダクトを創ってプロモーションをして、リニューアルをしてという繰り返しの日々に追われるのではなく、応募によって私たちのバリューチェーン全体で織りなす「より良い習慣づくり」を通して、明るい社会や未来を創るための一翼を担っていることを再認識した部分もあったと思います。今回は、社内が同じ方向を向いて仕事が出来たことも大きかった。その意味で、「LION」というコーポレートブランドと「キレイキレイ」にとっては、この1年くらいは中身の濃い時間だった気がします。そこでの受賞は、みんなの結束力を高める契機にもなったと感じています。
鈴木:ありがとうございました。これからもこのブランディングの取り組みの継続とより一層の拡がりを期待しております。
